表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/142

報酬


 シュバイツ准将の話は続いた。


「博士は気が散るということを理由に基地での我々の同居は認めて貰えなかった。定期的に食糧を運び込むだけだった。まぁ小惑星の周囲は軍と情報部がそれこそ蟻の入る隙間もないほど厳重に警戒をしていたし、当時の大統領からも博士の好きにさせてあげろという指示も出ていた事もあり衛星の周囲の警戒だけを続けていたのだ。そんなある日地上にあった研究所が何者かに攻撃された」


 聞いていたケンは片方の眉を吊り上げてシュバイツを見た。


「建物は大きく破損し、周辺を警戒していた軍の兵士の何名かに負傷者が出た。幸いに死者はでなかった。そして犯人はまだわかっていないが想像はつく」


 シュバイツは当時を思い出しているのだろう辛そうな表情になる。


「当然これは惑星内で大きなニュースになり基地にいた博士もそれを知ることになった。地上の研究所が攻撃された1ヶ月後、博士から通信が入ってきた。私の研究でこれからも国民に迷惑をかける訳にはいかない。私は遠いところで研究を続ける。対外的には私は失踪したと報道してくれ。研究が完成した暁には戻ってくる。そう言って自ら開発したNWPエンジンを使ってあっと言う間に消えてしまったのだ」


 ここから消えてあの小惑星群に紛れ込んで研究を続けた博士。


「博士はNWPで離れる前に私にメッセージを送ってきていた。全ての研究が完了したら研究結果をチップに落とし込んで私宛に送るとな」


「それをずっと待っていたということか」

 

 聞いていたケンが言うとそうだと頷くシュバイツ


「シエラ政府は博士の失踪を発表した。他の惑星でさまざまな噂が出たことは知っているが政府は失踪の発表以降一切声明をださなかった。博士の為にはそれが一番良いと判断したのだ。そして当時中尉だった私はその後歳を取り、そして昇進して准将にまでなった。その間いろんなことがあったが博士のチップの件が頭から離れたことはなかった」


 そう言ってからまさか地球人の運送業者がチップを持ち込んでくるとは思わなかったがなと言って笑う。


「遅くはなったが博士の研究の全てを当事者であるシエラの人に渡せてよかった。運送屋冥利に尽きます」


 話を聞いていたケンはそう答える。その後も作業をしている部員を見ていたケンのところに1人の情報部員が近づいてきた。


「とりあえずこの基地をシエラ第1惑星の外側の惑星群まで動かします。AIに指示をお願いします」


「AIへの指示権は情報部じゃないの?」


「いえ、まだケンとなっています」


「ジャスミン、そうなのか?」


『はい。ケンが私への指揮権を保有しています』


 何か考えがあるんだろう。とにかく自分の仕事は目的地まで運ぶことだ。


「わかった。ジャスミン。この基地をシエラ第1惑星周回の小惑星群まで移動してくれ」


『わかりました。既にルートは計算済みです。出発後40分で目的地に到着するルートを確保しています』


「それで頼む。動かしてくれ」


 ケンの言葉で基地がゆっくりと移動を開始した。周囲の小惑星の間を縫う様に移動していき30分ちょっとで小惑星群を抜けた。


『500万Km以内に船影ありません。本船加速後NWPワープします。ワープ開始は2分後です』


 そうして大きな小惑星基地がNWPをした。


『ワープアウトまで20秒。… 10秒前… 5、4、3、2、1 ワープアウトします』


 ワープアウトするとシエラ第1惑星とその周囲にある小惑星群が見えてきたが第2、第3惑星は見えない。この大きな基地がワープアウトしても全くGや揺れを感じない。


『第2、第3惑星から見えない場所にワープアウトしました。ここから小惑星群まで巡航速度で5分です』


 そうして小惑星に見立てた基地は無事に小惑星群の中に入り動きを止めた。基地が完全に止まったとジャスミンが報告すると座っていた椅子から立ち上がったケンにシュバイツが近づいてきた。


「ありがとう。これで君の仕事は完了だ」


「何もなく無事に帰ってこられてなにより。こっちも肩の荷が降りた気分です」


 ケンの言葉に大きく頷くシュバイツ。


「ところで今回の君の活動に対して我がシエラ政府より報酬がでる。これは大統領も承認済みだ」


「大袈裟だな」


「大袈裟なことをやってくれたんだよ、それで報酬だが」


 そう言ってシュバイツが提案してきたのはケンに新しい船を寄与するというものだった。


「お世辞にも今君が乗っている船は立派な船とは言えないからな。シエラ政府から新しい船を1隻寄与しよう」


 シエラで拘束、最悪は死まで覚悟していたケンだがシエラの対応は全く異なっていた。


「博士の発明の内容を知っているからもっと酷い扱いを受けると覚悟していたんだけど」


 ケンが思っていた事を言うとシュバルツは声を出して笑い、


「逆だよ。博士の研究成果を持ち帰ってくれた君は我々から感謝されることはあっても拘束などされることはない。それに君という人物についても我々は調査の上信用に値するという結論を出している」


 なるほど、自分のことをしっかり調べ抜いたらしい。ケンに寄与される新しい船は3ヶ月程の期間でできるというのでその間シエラ第3惑星でのんびりと休んでほしいという申し出を受けたケン。


「ジャスミン。色々世話になった。ありがとう」


『こちらこそ。またお会いできるのを楽しみにしています』


 ジャスミンの指示権を情報部に移管したケンは惑星基地まで迎えに来た情報部の船に乗ってシエラ第3惑星に向かった。


 情報部は前回と同じホテルを用意していて、ケンは自由に行動しても良いと言われ船ができるまでの間はフリーとなった。フリーとなったがケンは船ができるまでの間に何度も造船所に足を運び自分の希望を職員に伝える。シエラ政府よりもケンの希望を叶える様にと指示が出ていたのだろう。造船所の職員も嫌がる事なくケンと何度も打ち合わせを行いながら船を作っていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ