ペインズベル星 その3
海賊についてはとりあえずシエラは安心だなと思っているとドレーマの噂が出た。黙ってやりとりを聞いているケン。
「最近はドレーマ絡みの荷物の依頼が多いらしいぞ。ここの組合のサイトには載らないが他のサイトだと多いらしい」
以前はケンが属しているズールらが運営している組合もドレーマ絡みの輸送を載せていたがある時、輸送後にドレーマ人の顧客が支払の際に難癖をつけてゴネたらしい。その時はズールら組合幹部が間に入ってなんとか収めたがその時のドレーマ側の対応に頭にきた組合の幹部連中がドレーマを絡ませる輸送については受け付けないという方針を決めたということだ。
ドレーマ星絡みの仕事が多いと言った運送業者の男によれば自分たちが所属している信用度の高い組合のサイトではなくそこから2段も3段も落ちるいわゆる信用度が低いサイトで頻繁にドレーマ星からみの輸送の仕事が出ているという。
組合、サイトにもランクがあるが運送業者にも当然ランクがあり、信用度が低い連中はそういう怪しげなサイトに載っている仕事を受ける。顧客と運送屋とで騙し合いをしながら商売を続けている連中もいる。
そう言った連中に知り合いがいるらしく、その男がBARにいる自分たちの仲間に話をしている。聞いている他の連中の中にもその話を知っているものがいる様だ。
「バイーアから頻繁に荷物を運んでいるらしいって話だろ?」
他の誰かが俺も聞いていると言ってから続けて言った。
ドレーマの仕入れ先がバイーア惑星群となると商品が限られてくる。機材、部品などの工業関係の品物だ。
「貧乏で金払いの悪いドレーマがバイーアから大量に買い付けてる。どういうことだ?」
やり取りを聞いている周囲から声が出る。それを聞いていた他の船主が言った。
「その話は信用できるのかい?ガセじゃないのか?誰かが言ってる様にあの星は貧乏だぜ、そりゃ金持ちもいるだろうが今まであの星が頻繁にバイーアから買っていたという話は聞いてないしな」
そう言うとその通りだ、あいつら本当に金払ってるのかよという声がした。
ドレーマ星の話を最初に振った男が言った。
「当然俺もそう思ったさ。ただどうやら本当らしいんだよ。そいつによると何でもドレーマ星のどこかの島に造船所を作るんだとか言って大量の資材が必要になっているらしい」
造船所と聞いてケンの目が鋭くなる。今ある造船所とは別に作るということか。などと考えているとやり取りが聞こえてきた。
「造船所って今でもあるんじゃないか?」
「もっとでかいのを作るって話だ。だから大量の資材がいるんだとよ」
「仮にその話が本当でドレーマ星が新造船を作ることになったとしてもだ。いくら安くても俺は買う気はないな。あいつらの仕事振りを見てると船が出来たとしても俺は信用できない」
酒を飲んでいたやつが言うと皆同意する。ドレーマの連中の仕事ぶりは悪い意味でつとに有名だ。そんな星人たちが作った船なら安かろう悪かろうに決まっている。ここにいる連中はドレーマ星が造船所を建設すると聞いて商業船を想像している。それが普通の感覚だ。まさか軍関係とは思わないだろう。そう思いながらケンはやりとりを聞いていた。
その後しばらく『止まり木』で雑談をしながら軽く飲んだケン。皆んなに挨拶をして店を出るとアイリス2に戻ってきた。
「ソフィアはまだ買い物かな?」
『はい。まだ市内にいます。結構買い物をしているみたいですよ』
クレジットで支払えばそれのデータがAIのアイリスにもわかる仕組みになっている。
「久しぶりの買い物だ。好きにさせておこう」
ケンはアイリス2の自室である船長室に入るとPCを立ち上げる。最初に見たのはBARの止まり木で言っていたドレーマ星からの引き合いが多く載っていると言われたサイトだ。
ここはケンが登録している組合のサイトとは違い、誰でもが閲覧可能であり輸送側も参加資格に制限はない。つまり相当怪しげなサイトだということになる。
『今ケンが見ているサイトの信用度は30%以下という評価があります』
「そうだろうな。胡散臭い依頼が多い」
30%以下は相当低い。最低のレベルと言ってもいいだろう。ちなみにケンが登録しているサイトの信用度は95%以上でその評価がここ数年続いている。
『そのサイトに載っている依頼を受けるのですか?』
そう言ったアイリスの口調は心配モードだ。
「まさか。情報を取るために見ているだけだよ」
『なるほど。安心しました』
見てみるとドレーマ星に始まり他の依頼についてもやばそうなのが多い。異様に報酬金額が高かったり、逆にこの納期じゃ無理だろうと言った依頼が並んでいる。出す方も胡散臭いがこれを受ける側の運送屋もまともじゃないのが多い。よくまあこれで成り立っているのだと感心するくらいだ。
ドレーマ星関連に絞ればBARで聞いた通りだ。バイーアをはじめ工業製品を製造している星からドレーマに運ぶ輸送依頼が多く載っている。そしてドレーマ側でこういった依頼を出しているのはわずか2社だ。おそらくこの2社も根元は一緒で突き詰めると同じ会社になるのだろう。
造船所を作るという話は恐らく本当だろう。ただその造船所で作られる船が問題だ。バードビル星の海賊をシエラの輸送船に扮した軍艦が沈めていらい空白地帯になっていることやドレーマ星での造船所建設。
ケンは知り得た情報をまとめた上で最後に自分の意見を付け加えるとNWP通信を使ってシエラ情報部宛に送信した。
ソフィアが市内から戻ってきた。彼女が買ってきた夕食をアイリス2のキッチンで食べながらBARでの話をする。欲しい物が沢山買えて嬉しそうな表情でアイリス2に戻ってきたソフィア。ただ食事中にケンがBARでの話を始めると表情を変えた。
「ファジャルが本格的にブルックス星系で橋頭堡を作るということね」
情報部のソフィアはケンの話を聞いただけでその意図を見抜いた。
「恐らくそうだろう。ドレーマに造船所を作りそこで海賊船かあるいはファジャルの船かを作ってブルックス星系に繰り出すつもりだろう」
「それでどうするの?」
「シエラにはすでに通信を送っている。シエラとしてはバードビル星の周辺に監視衛星を設置するだろう。空白地帯にやってくる海賊がどのルートから来るのかが分かれば対応がとりやすくなるからね」
「ドレーマ星については?」
「それは俺は分からないよ。武力行使で彼らの基地を叩くのか、あるいは違った方法を考えるのか。シエラとしては全面には出たくないはずだ。ひょっとしたらアイリス2の出番が出るのかもしれない。とは言ってもどう言う形でアイリス2が出るのかはまだ何も分からないよ。ただそう言う気がしているというだけなんだよな」
「でもケンの読みは今まで結構当たってるわよ」
ケンの読み通りアイリス2からの通信を受け取った情報部はすぐに輸送船に扮したタウルスとリブラの2隻を出航させるとバードビル星の周囲にデブリに擬態させた監視衛星をばら撒いた。これでどこのワープからやってきたのかが一目瞭然になる。
と同時にドレーマ星の周辺に配置してある監視衛星の数も増やして彼らの動きをリアルタイムでチェックする体制を作った。
それらの手配が全て終わったシエラ情報部はアイリス2に帰還命令を出した。