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ペインズベル星 その2


「ケン、久しぶり」


「久しぶりだな、ケン。輸送船を変えて長距離メインにしてるみたいじゃないかよ」


 小口の運送業者の連中が集まる『止まり木』、通称溜まり場と呼ばれているBARに入るなり知り合いに声をかけられる。BARというかPUBの造りだ。カウンターと高いテーブルがいくつか置かれている店で店内に椅子はない。全員がカウンターでカードで飲み物や食い物を買うとそこらにあるテーブルに集まって立ったまま食事や酒を飲みながら話をするスタイルの店だ。50人近くは入れる広さがある店に30人近い船主や船員が集まっていた。この店は昼だ夜だと関係なく常に小口輸送業者の船員達が集まっている。ケンはこの業界で5年近くいる。同業者の間で顔も広くなっていた。


 カウンターでサンドイッチと缶ビールを持ったケンが手近にあったテーブルに近づくとそこにたむろしていた同業者達がケンのためにスペースを空けた。


「新しい船に変えて長距離メインにしてるって声が出てたけどそうなのかい?」


 そばにいた男が声をかけてくる。


「ああ。苦労して金を貯めた甲斐があったよ。おかげで以前よりは航続距離が伸びた。結婚してパートナーを船員にしたからさらに遠出ができる様になった」


 小口の運送業者が集まるたまり場はここ以外にもいくつかの星にある。リンツ星もその1つだ。税金の関係でリンス星籍にしている船が多く必然的に船が集まってくる。ただここと違ってリンツも含めた他の星のたまり場では時々ガセ情報が飛び交っていることがあるので注意が必要だ。ここのバーは組合に登録している船主が中心ということもあり交わされる情報は信頼できる。逆に言えばここでガセ情報を流した場合には組合にまで連絡が行き、最悪は組合員を抹消されるというペナルティがあることを船主連中は知っていた。この『止まり木』のBAR、PUBにくる連中は皆プライドがある。だから安心できる。


 普通に交わす会話もここではフェイクは嫌われる。言いたくないことは言わなければ良いが言った言葉に嘘はないというのがこの溜まり場である”止まり木”のルールだ。


 普通なら輸送を取り合う競争相手ということになるが幸いにしてこの組合のサイトは常に輸送の依頼があることもあり組合員である船主同士の関係もぎくしゃくしたものではない。


 ケンがバーに入ると他のテーブルで雑談をしていた知り合いの1人がケンの側にきて話しかけてきた。リンツ星人のガスリーという1人で小型船で輸送をしている男だ。以前のケンと同じで近距離の輸送をメインにやっている。


「相変わらず1人で頑張ってるのかい?」


 久しぶりの挨拶を終えるとケンが聞いた。


「まぁな。1人の方が取り分が多い。ケンみたいに嫁でも見つけることが出来りゃあその時は2人になるかもだけどな」

 

 そう言ってうまくやりやがったなとケンの背中をバンバンと叩く。


「ケンは最近はどこらに行ってるんだ?」


 背中を叩き終えたガスリーが聞いてきた。


「船を変えてもバイーア惑星群からみの仕事が多いな」


「俺もそうだ。パーツ関係で短納期となるとあの惑星群から運ぶ仕事が多くなる」


「稼がせてくれるのなら場所にこだわりはないけどな」


 そういうことだ。とガスリーが言ったタイミングでテーブルの向かい側から声がかかる。


「ケン、バードビルにいた海賊がどこかの軍艦にやられたって話は知ってるかい?」


 そう言って声をかけてきたのは同じ様な顔をした2人組の中の1人だ。

 彼らはギルバドフ、コスチュフという兄弟で、2人で100メートル弱の小型輸送船を

使って商売をしている。20年近く組合に登録して仕事をしておりおりこの業界では古株の運送者だ。もちろん組合に登録し続けているということで顧客からの信頼も厚く複数の固定客を持っているという話だ。この業界では固定客が付くかつかないかで大きく収入に影響してくる。その点目の前の兄弟は堅実に稼いでいると言える。


 そしてケンもこの業界で5年以上いる。古株とまではいかないが常に組合のリストに載っている地球人の運送屋として彼の名前は有名だった。ズールらの組織の組合員として数年連続で名前が載っていれば信用できる奴だという評判が立つ。ただ当然だがケンは自分の船がシエラ情報部と契約していることは誰にも言っていない。


「聞いている。どこの星の軍かは知らないが俺達にとってはいいニュースだ」

  

 聞いてきた兄貴の顔を見てケンが言うと、


「それだけ見ればその通りなんだがな」


 その堅実な商売をしている兄弟の内、兄のギルバドフがもったいをつけて言った言葉にテーブルにいた他のメンバーが顔を彼に向けた。


「そりゃどういうことだい?」


 テーブルにいた他の同業者が言った。その視線を受け止めたギルバドフ。他のテーブルの連中もギルバドフに顔を向けた。今や店にいる客のほぼ全員が兄弟に顔を向けていた。


「普通ならあのエリアにいた海賊がやられちまったとなったらそう間を開けず、その空白になったエリアに他の海賊がしゃしゃり出てくるだろう?」


 海賊が仕事をする場所は限られている。その中の1つのエリアの海賊がやられたとなればすぐにでも別の海賊がそのエリアに進出して自分達の縄張りとするのが普通だ。


 これは事実だ。以前から海賊が退治されるとそう間を置かずにまた別の海賊がそのエリアに出現するということが何度も繰り返されてきている。海賊は少しでも自分達に有利な場所を取ろうとする。海賊の分布エリアが変わらないのは彼らにとって都合の良い場所、仕事をしやすい場所が決まってるからだ。


「今、バードビル周辺は安全なんだよ。海賊がいないんだ」


 ギルバドフが言った言葉を聞いた周囲の連中も首をかしげると弟のコスチュフが続けて言った


「俺達は最近仕事でバードビルに行ったんだよ。その仕事が終わった後でその話が本当かどうかあの星の周囲をぐるっと回ってみたんだが見事に何もなかった。誰もいなかったんだ」


「確かにおかしな話だ」


 ケンが言うとそうだろうと兄弟が顔を向けた。


「バードビルは以前から海賊にとっては美味しいエリアだったはずだ。同業者が何度もやられている。そのせいかバードビル向けの運賃は高めに設定されている。その美味しいエリアに海賊がいないってどういう事なんだろう」


 ケンはそう言いながらも1つの可能性を考えていた。ただそれをここで口にする気はない。


 誰かがそのうちに気が付いたら海賊が居座っていたって事になるんじゃないかと言い、皆そうなるだろうな。引き続き注意しようぜということで話が終わった。


 その後の雑談ではバードビル以外では海賊については大きな動きはないということだ。ヴェラピク星の裏側にもいるらしいがあそこはブリザードが吹く関係で大抵は集団での入星、出星となる。大手にくっついて移動する分には問題ないだろうという同業者の意見だった。


「海賊関連はじゃあバードビル以外ではあまり変わってないってことだな」


 店の中にいる誰かが言った。そうだろうとまた誰かが答えた。


「ところで太陽系とエシクがそろそろドンパチ始めるって話じゃないか」


 他の人間が新しい話題を振ってきた。皆手持ちの情報を持ち合ってはそれをすり合わせしたりアップデートしたりする。そう言う意味ではこの星のこのたまり場のバーは小口船主達にとって価値のある場所だった。


「ケンは地球人だろう?どう見てるんだよ?」


 誰かがケンに振ってきたがその言葉に首を左右に振った。


「いや、俺はこっちに来てから太陽系に顔を出してないから全然分からない。もちろん太陽系とエシクとでドンパチやりそうだって話は知ってるがそれだけだよ。それにそっち方面については俺の今の仕事には関係のないエリアだ。お互いの戦力だってよく知らないんだよ。気持ち的には太陽系連邦軍に勝ってもらいたいけどな」


 ケンがそう言うと周囲からもブルックスと太陽系との間の取引は有っても大手業者だろう。自分たち小口にはあまり関係のない話だなという声がでる。


「あくまで噂だがエシクについて良い話は聞かないな」


 誰かが言うと俺もそう聞いてるぞという声がする。あちこちからエシクについての話が出てきたが大抵は噂話としての印象だ。


「ブルックス星系でいったらドレーマ星みたいなものか」


 誰かが言うとそこまで貧乏じゃないだろうという声が周りから出る。運送屋の間ではドレーマ星は貧乏でろくな奴がいないという評価になっている。


 そしてその評価はここ数年変わっていない。



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