LAベースにて
アイリス2のオペレーションルームの正面にある強化プラスチックの窓越しに真っ青な空、青い海、そしてカリフォルニアの大地が見えてきた。
「速度徐々に減速。高度100メートルで機首水平」
『速度減速、高度100メートルで機首水平にします』
ケンが言うとアイリスが復唱する。いつものやり取りが行われていた。
「そのまま下降。エンジン出力20%にダウン。高度50メートルで降下速度さらに減速して10メートルまで降下」
アイリスがケンの指示を復唱し機体がゆっくりと下降し、アイリス2は指定されたポイントに着陸した。LAベースの隣のヤナギ運送オフィス、実態はシエラ大使館の敷地内にあるピアだ。アイリス2が着陸したと隣のピアはここ所属になっているシエラ星のユーロセブンが地上でその機体を休めているのが見えていた。
シートベルトサインが消えると暫くしてアン大使を先頭にして乗客が荷物を持って個室から降りてきた。後部ハッチは既に開いてシエラから持ち込んだコンテナをエアリフトに積んで地上に下ろす作業が開始されている。
「ありがとう。またお願いするわね」
「いつでもどうぞ。お待ちしています」
出口に立っている2人にアン大使が声をかけそれにソフィアが答える。他の乗組員も2人に礼をいながら機体から降りていった。
「このまま戻るんだろう?」
最後にやってきてアンドリュー中佐が2人を見て言った。
「ええ。このままとんぼ返りですね」
「また直ぐに来てもらう事になりそうだけどな」
中佐の言葉に返事をせずに頭を下げるケン。中佐もそれ以上は何も言わずに機体を降りてオフィスビルの中に向かって歩いていった。乗降ハッチをしっかりと閉め扉の上のランプがグリーンになるのを見た2人はオペレーションルームに戻るとLAベースと交信する。
「こちらアイリス2、荷物の荷下ろしと乗員の下船が完了した。これより離陸する」
『アイリス2、こちらLAベースだ。離陸は許可するが折角の故郷でゆっくりしていかないのか?』
「貧乏運送屋は休む間が無いんでね。稼ぎに行ってくるよ」
『なるほど。気を付けてな』
LAベースの管制官はアイリス2の仕事やヤナギ運送の実態を知っている。彼らとは何度か尋ねているうちに軽口をたたきあえる関係にまでなっていた。
「アイリス。出航だ。目的地はシエラ第3惑星」
『出港します。目的地シエラ第3惑星』
地球の土の上に着地してからわずか15分後、アイリス2は再び機体を浮上させると機首を上げ宇宙空間に向かって飛び出して行った。
アイリス2が飛び立つと地上に降りた6名は直ちに仕事を開始した。今回シエラよりやってきた技術者のアランとボイド、そして軍参謀本部のプレストン大佐とヨーク大尉の4名はアン駐地球大使、そして情報部のアンドリュー中佐らがヤナギ運送の地下にある通路を通って隣接する太陽系連邦軍LAベースに移動して早速打ち合わせをする。連邦軍よりは副総司令官であるケネディ大将、LAベースの最高指揮官であるブルー少将、連邦軍情報参謀本部長であるディーン准将以下錚々たるメンバーが彼らを出迎え、LAベースの中にある会議室で早速ミーティングが始まった。
最初にアン大使がシエラを代表して挨拶をする。
「今回は太陽系連邦軍の旗艦に乗船できる手配をしていただき感謝申し上げます。我々シエラも近隣にファジャルという潜在的な脅威があり今回の戦闘およびその準備がシエラにとっても非常に参考になると考えております。シエラ星のブランドン大統領からもくれぐれも地球連邦軍に今回の手配に対するお礼を伝えておいてくれと言付かっております」
そこで一旦言葉を切ったアン大使。
「私は文民ですので具体的な戦闘時の体制などについては門外漢です。なのであとは専門家同士で話を進めていただければと」
アン大使がお礼を言ったあとでそれに答える様に連邦軍のNO.2であるケネディ大将が口を開いた。
「シエラから導入したAI技術、そしてNWPエンジン。これがなければ我々はかなりの苦戦を覚悟しなければならなかったでしょう。それについては我々地球連邦軍としてはシエラの方々に感謝を申し上げます。おかげ様で主力部隊についてはエンジンの切り替えおよびAIの設置が終了しており今回の戦闘で大いに活躍してくれるものと確信しております」
外交辞令のやりとりが終わるとケネディ大将がそれでは初めてくれと言った。
わかりましたと連邦軍の制服をきている参謀本部所属の中尉がPCのスイッチを入れると部屋にあるスクリーンに宇宙地図が浮かび上がった。
「エシクの現状につきまして説明します」
部屋の壁の大きなスクリーンには太陽系とそれに隣接しているロデス星系の地図がアップされている。そのロデス星系と太陽系を結ぶ様に数本のラインが引かれていた。見ていた参加者達はそれが何かを理解している。星系と星系とを結んでいるワープルートだ。宇宙空間では通常のワープルートが決まっている。安全なルートは銀河中に開示されており定期的に追加、変更がされていた。つまりこのルート以外のルートでは安全が確保できないということを関係者全員が知っているということになる。
「我が国はエシクがあるロデス星系側にあるワープポイント付近にデブリに見立てた小型の探知衛星を設置済みであり、ワープ前に艦隊が集まってきた時点でNWP通信にて連絡が入る様になっております」
太陽系連邦軍とシエラとで共同開発した小型監視衛星は全てNWP通信機能を有しており、そして自爆機能も持っている。こちら側から特殊な信号を送ることで衛星が自爆する様になっていた。
「このいずれのワープを利用してもワープ時間は約4時間程です。一方でベースフォーより出撃する師団はベース離岸後1時間以内に所定の位置で戦闘配置につけます。ベースアステロイドも同様です」
これがNWPの凄さだ。離岸してほぼ瞬時に目的地点に到達できる。現在ベースフォーには空母6隻、駆逐艦25隻が即応体制で命令から10分以内に離岸できる様になっている。シエラからの参加者達は黙って話を聞いていた。NWPについてもその効果を十分に理解している彼らは今の説明を聞いても誰も驚かない。
「イヴによると予想されるエシクの進軍時期は今から20日から30日の間、敵艦隊は戦艦が5から6隻、空母が2から3隻、駆逐艦10隻程度と見ています」
戦艦至上主義が宇宙での常識だ。戦艦のない太陽系連邦軍が異質になるがシエラ軍はこの方がずっと効率的であると理解していた。
「それより増えても今の2箇所の陣容で十分に対処可能であると見ておりイヴにシミュレーションさせても問題ないとの結果を得ております」
中尉の説明が終わるとケネディ大将が全員を見ながら言った。
「エシクとの戦闘は避けられない。避けられないのであれば奴らが2度と太陽系に興味を示さなくなる位に徹底的に叩け。遠慮はいらないぞ」
その言葉に全員が頷く。続いてLAベースのブルー少将がシエラよりの参加者に顔を向けた。
「シエラより導入したAIが優秀で今までよりも数段探査能力がアップしている。それに加えてNWPだ。おかげでしっかり準備ができる上に事前にワープする地点がわかっているからその先、ワープアウトに艦隊を配置できます。ケネディ大将も仰ったが奴らの戦意が消失する位に叩きますよ」
その後シエラから来た軍人と技師の配置を決める。AI担当のアランとボイドについてはアランがベースフォー。ボイドがベースアステロイドに出向いてAIのメンテおよび緊急時の対応をすることになった。
シエラ軍参謀本部のプレストン大佐は連合軍の旗艦船の1つである空母”ワシントン”に乗船し、ヨーク大尉は駆逐艦”デンバーに乗船することになった。情報部のアンドリューはベースフォーで司令部に詰める。
今回はベースフォーに艦隊司令部を置き、アステロイドがサブとして機能することとなっていた。連邦軍情報参謀本部長であるディーン准将はアンドリューと同じくベースフォーで司令部に詰めることになる。そしてブルー少将、彼が今回の作戦における現地トップとして同じくベースフォーに移動することになった。地球からの移動は今から10日後となる。
全ての手配が終わったところでアン大使が太陽系連邦軍の参加者にお礼を言って打ち合わせは終わった。




