出迎え
ソフィアの言っていたことが誇張でも何でもなかったことが2ヶ月後には証明された。アイリス2での通常の運送業務の配達を終えたタイミングで情報部からアイリス2に帰星の指示が飛んできた。15番の専用ピアに船をつけてその足で情報部に顔を出した際にスコット大佐から攻撃型輸送船が2隻のタッグを組んでバードビル星近くに隠れていた海賊の800メートル級と400メートル級を完全に破壊して任務を遂行したと聞かされる。
「以前アイリス2が報告したエリアにまだ奴らがいたんだよ。それで1隻を囮にして呼び出してもう1隻と誘い出した囮の1隻が大型レーザー砲で海賊船4隻を完全に破壊した。もちろん小型の宇宙船も全て破壊している。ケンが言った方法が早速効果的であったことが証明されたな」
スコット大佐はアイデアを出したケンを褒めてくれるがケンから見れば海賊船を4隻同時に完全に破壊する行為の難しさを理解しているのでその攻撃戦の戦闘能力と船長の指揮術に感心する。
「立て続けに海賊船を退治すると嫌でも目立つ。タウルスとリブラは任務遂行後シエラに戻ってい今はMIBでメンテ中だ。普段はシエラ軍の艦船の1つとして行動をし、インターバルを開けてまた海賊船退治に出向く手筈になっている」
「いいやり方だと思います。軍の船がまさか海賊船を退治しているとは思いませんからね」
その通りだと言った後でこれからのアイリス2の予定を聞いてきた。まだ決めていないと答えると大佐から仕事のオファーが出る。
「それで一度この星に戻ってきた件だが、次は地球に行ってくれ。アン大使とアンドリュー中佐の一時帰星だ。アンドリューはともかく大使をユーロセブンに乗せる訳にはいかないからな」
その言葉に納得するケンとアイリス。大佐によるとユーロセブンは最低でも月に1度は地球からこちらに戻ってきては機器を積んだりシエラ特産の食料を積んだりして行き来しているらしい。時にはシエラ人も運んでいる様だ。
出発は3日後になった。地球のLAベースの隣にある大使館に勤務しているアン大使は赴任後初めてのシエラ帰還になるらしい。アイリス2はアン大使を地球からシエラに運びこちらでの打ち合わせが終わったらまた彼女を地球に送り届けることになった。
シエラでの打ち合わせの期間が未定なので地球へ戻る日が決まらないこともあり本業の運送業務はしばらく休業となる。
アイリス2の2人には報告はしていないが今回の海賊退治で使用したのは地球連邦軍より導入した技術で作られたレーザー砲であった。実戦での使用がこれが初めてとなりしかもその結果はシエラ軍の想像以上の威力を発揮することとなった。
海賊船退治の映像およびAIが保存しているデータを分析した参謀本部および情報部はその性能の高さに驚愕する。事前に資料としては知っていた数値がまさにそのまま実戦でも表現されたことで地球連邦軍の武器の質の高さに驚くと同時にこれならファジャル相手でも十分以上に通用するだろうと確信する。
この実戦での結果はシエラ軍より地球連邦軍に感謝とともに報告された。
アン大使とアンドリュー中佐を地球に迎えにいく前の日の夜、ケンとソフィアはシエラの首都市内にある自宅マンションで夕食を摂っていた。
「大使と中佐は赴任後初めてシエラに戻ってくるって言っていたわね」
「ああ。向こうで忙しいから帰る時間が取れなかったんじゃないか?」
そう言ったケンの顔をじっと見るソフィア。テーブルを挟んで正面からソフィアに見つめられたケンはどうした?といった表情になる。
「ケン、思っていることと違う事を言っても私には分かるのよ」
怒ってはいないが諭す様な口調でソフィアが言う。
ケンは両手をあげて負けたというポーズをとった。
「付き合いが長いから読まれてるな」
「もちろん」
にっこりするソフィア。彼女はケンと付き合ってからほぼ24時間ずっと一緒にいる。彼の言動や言葉の端々から彼の考えていることがある程度は分かる程になっていた。それはもちろん彼女が彼に惚れているからだという事が最大の理由であるのだが。
「推測だからソフィアに言おうか言うまいか悩んでたんだけどね」
そう言ってケンが話だした。彼の読みはおそらくエシクと地球との戦争絡みで急遽帰ることになったんじゃないかと言うことだ。
「地球とエシクは以前から緊張状態にある。そしてドレーマ星で製造された艦船がエシクにデリバリーされたとすればそれから艦隊を組んで演習をしてとなるとそろそろエシク側の準備が整う時期になるだろうなと思ってね。戦争になる前に最新の情報を現地にいる大使と中佐から手に入れておきたいということじゃないかな。地球連邦軍の準備や対応の仕方はシエラにとっても参考になるだろうし」
「やっぱりそれか。私もそれが関係してるのかなとは思っていたの」
2人は再び食事を摂りながら話をする。
「ひょっとしたらアン大使らが戻る時には2人以外に軍事関係者を乗せていくことになるかも知れない。まぁこっちは情報部所属の船だから乗せろと言われれば誰でも乗せて地球まで安全に運ぶことが仕事だけどね」
出発の日、2人が15番ピア。アイリス2の専用ピアに行くと既に出港の準備が完了していた。その場にいた職員に礼を言って船に乗り込む2人。今回は短いフライトとなるので食料、水は1ヶ月分だけ積んである。
「補助エンジン始動」
『補助エンジン始動します。出力5%』
ケンが操船をしている間にソフィアが港湾局に出発の通知をする。
「アイリス。出航する。メインエンジン始動後100メートルまで水平で上昇、そこで方向転換してNWPポイントに移動」
『出航します。メインエンジン始動し100メートルまで水平で上昇、その後NWPポイントに向かいます』
ケンの指示を復唱したアイリス。機体がゆっくりと15番ピアを離れそのまま上昇して100メートルの高さに達すると機首を上方に向けて一気に加速してシエラ第3惑星を飛び出していった。




