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ファジャル製海賊船


 アイリス2が撮影した海賊船の映像はシエラ第3惑星の情報部に持ち込まれるとその画像が徹底的に分析された。


 当然だがアイリス2に搭載されているAIであるアイリスにはファジャルの船に関する情報はインストールされていない。だからアイリスはバイーア以外で生産された可能性が高いという曖昧な報告をしている。


 一方シエラ情報部はファジャルについて、もちろん彼らの艦船についても大量のデータを持っている。アイリス2が持ち込んだ映像を分析していくとすぐに情報部のメインコンピューターが反応した。


『800メートルクラスの艦船の設計は98%以上の確率でファジャルの艦船と同じ設計である』


 という答えを出した。

 どこで製造されたのかは別としてもあの海賊船の背後にいるのがファジャルであることがこれで確定した。もしかしたら背後どころかあの海賊自体がファジャルなのかもしれない。


 軍情報部からの報告を受けたシエラ政府はこの情報をブリックス星系連邦政府に開示すべきかどうかについて大統領府、軍情報部、軍司令本部、そして外交部とMeetingを持った。


 報告をした軍情報部のスコット大佐は


「軍情報部としてはこの件は現時点では星系連邦政府に言う必要がないという見解です」


 と述べる。その理由はと聞いてきたのは大統領府の役人だ。


「ブリックス星系連邦政府にあげたところで解決策があるわけではありません。ファジャルのあるトレオン星系にクレームしたところで白を切られるだけですから。そうなるとそれ以上の対応策をここの連邦政府が打ち出すとも思えません。むしろこの情報を挙げたシエラに対してファジャルがちょっかいをかけてくる可能性が高い。それにこの件で我がシエラの探査能力を教えることにもなります。良いことだとは思われません」


「今の情報部の発言について軍司令本部としてはどうですか?」

 

 司会役をしている大統領府の役人が言った。


「情報部の説明通りです。ここは知らぬフリをしておきながら我が軍の艦艇の強化と開発に注力するのが賢明であると軍司令本部も考えています」


 情報部も軍司令本部も知らないふりをしておくのが良いだろうという判断だ。外交部もここで波風を立てる必要はないと言う。結局連邦政府には今回の件は一切報告をしないという結論になった。


 対外的にはそれで良いとして今度は実際海賊がファジャルの船に酷使しているという点についてどうするかということだ。この日の議題のメインはこれだ。ファジャルの狙いは何なのか参加者で議論が始まった。


 ブルックス星系の治安悪化を狙っているのだろうという声が政府側出席者から出たが情報部からはそれだけじゃないのではという声が出た。


「治安悪化と言っても海賊では効率が悪すぎませんか?情報部としてはファジャルはもちろんこの星系の治安悪化は狙っているでしょうが海賊行為そのものが彼らの目的ではないと考えております」


「では彼らの本当の目的は何かね」


 政府の役人が情報部に顔を向けて聞いてきた。暫くの沈黙の後情報部のスコット大佐が口を開いた。


「ブルックス星系内のどれかの星の制圧です」


 その言葉に全員がスコット大佐に顔を向けた。それらの視線を受け止めて大佐が続けて言った。


「星系外からチマチマと攻撃をしているだけでは彼らの目的は達成されません。特にファジャルのあるトレオン星系に最も近い場所にいるのが我々シエラ星です。我々の強さは彼らも十分に認識しているでしょう。となると正面からではなく裏から星系に手を伸ばして

ブルックス星系内に橋頭堡を作りそこを起点にブルックス星系域の星の制圧を考えているのではないかというのが情報部の見方です」


 情報部の説明を聞いている参加者達。ここにいるメンバーは過去からのファジャルの執拗な攻撃を身を持って体験している者ばかりだ。今の話が突拍子もない話だと思う者はいなかった。


「具体的に侵略するであろう星については目星はついているのかね?」


「現在情報を集めているところですが、考えられるのは貧しい星でしょう。先ほど制圧と申しましたがこれは武力制圧だけの意味ではありません。貧しい星に援助という名目で大量のお金を貸付け、その代償としてその星への軍の駐留を認める。そうして既成事実を積みあげてその星自体を我が物とするのではないかと見ています」


 そう言ってからその可能性が最も高い星の1つはブルックス星系の中でも最貧星であるドレーマ星でだろうというのが情報部の見方だと言った。彼らの見立てでは海賊を跋扈させて一部地域の治安を悪化させる。それと同時に貧しい星に軍を駐留させ彼らが海賊退治をすることでその星域におけるファジャルのプレゼンスを高めていく作戦と思われると参加者に説明をした。


「ドレーマ星では以前からファジャルの船を作っているという噂が絶えません」


「マッチポンプか」


 政府の役人が呟くとその通りですとスコット大佐。


「で、それに対抗するにはどう言う対応策があるのかな」


「彼らが具体的なアクションを起こさない限りこちらから動くことは出来ません。敢えて言えばドレーマ星の周辺の監視を強化するくらいでしょう。シエラの軍が動くと事がおおきくなります。情報部にて対応したいと考えます」


 このスコット大佐の提案は会議で了承される。具体的にはデブリ監視衛星をドレーマ星周辺及びドレーマ星に向かうルート上に設置して監視する。それと同時にシエラ星籍の民間宇宙船に協力を求めるというものだ。


 他の星ではまずあり得ない話だがシエラ星においては民間宇宙船が情報収集を行う事が普通に頻繁におこなわれている。彼らの船の船員は全てシエラ人で全員が自分の星のために協力することを厭わない。


 潜在的な外敵に対しては星人が一致団結して対象するのがシエラの強みだ。今までもそうして民間の業者の船から得た情報で何度も危機を事前に察知し、対処してきた歴史がある。


 外交部も表面的には動かず、裏でドレーマ星以外に可能性がある星について情報部と協力して情報収集することになった。


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