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足止め


<ブリザード警報発令中。ブリザード警報発令中。現在発生10時間前。ブリザードの規模は中クラス。予想期間は4日から5日>


 アイリス2の船内に港湾局からの情報がアイリス経由で流れる。ブリザードは規模によって4つのクラスに分類されている。小、中、大、そして特大だ。特大は滅多に発生しないがこれが発生すると1ヶ月以上にもなるという。


「ここの場所の安全度は?」


『はい。全く問題ありません。第一ゲートは今から5時間後に完全ロックされます。その後続いて第二ゲートもロックされます。これにより外のブリザードによる外温度低下及び氷結を100%防ぐことになります』


 アイリスによるとブリザード発生で外気温はマイナス200度を下回ることになるが外気温度よりもブリザードによる氷結が待機中に発生しまるで弾丸の様になって周囲に打ちつけられる。こちらの威力の方がずっと脅威になるらしい。ただこの星はブリザード対策は完璧で大規模ブリザードによる氷結が数ヶ月続いても余裕で持ち堪えら得るゲートを製造して設置していた。鉱産品が採掘できるこの星ならではのことだ。また密封性も十分にあり外がマイナス200度以下になっても第二ゲートの奥、飛行船が停泊しているピアエリアの温度には何の影響もでない。


 ブリザード襲来の際には従来の第一ゲートの外側にある普段は使用しない保護扉でゲートを保護するという完璧な対策が行われている。

 

 そのせいもあり第二ゲートの内側の港湾エリアにいる地元民は普段通りの仕事振りだった。

 

 ブリザード前に出航できる最後の宇宙船が飛び出したのち完全にゲートを閉じたヴェラピク港はこれからブリザードが終わるまでじっと待つだけになる。


 あまりの物価の高さにびっくりした二人はその後も食事や宿泊はアイリス2で済ませる。もともとこの機体の内部は居住性を重視した造りになっており機内で過ごす分には何の不自由もない。食料、水、そしてコーヒーも潤沢に積んであった。


『ブリザード発生。規模からみてブリザード期間は5日間』


 港内に港湾局の通信が流れる。これから5日間は待機が決まり周辺の船から乗組員が降りていくのが見える。ケンとソフィアはこの日は船から出ずに終日アイリス2の船内で過ごした。


 機内で夜を過ごした翌日、二人は広い港内をぶらぶらと歩きて散歩する体を装いながらがら他の船から降りる荷物やこれから積むであろう荷物をチェックしている。


「鉄や銅ではなくレアメタルを見るんだ」


「レアメタルって具体的にどんなの?」


 港湾内を腕を組んで歩きながらソフィアが聞いてきた。


「ネオジウムやタンタルは電子部品用、コバルトは蓄電池、タングステンは超合金。この辺りかな」


「よく知ってるわね」


 質問にすらすらと答えるケンを見てソフィアが驚いた表情になる。


「前の船がしょっちゅうメンテが必要な船だったのは言っただろう?外装だけじゃなく電子部品も結構修理や交換をしてたんだよ。その時にメンテ業者に教えてもらったのさ」


 理系の大学を卒業している訳でもないケンはほとんど全ての知識を実践経験の中で得てきている。学校や書籍で得た知識よりも実際にその場で身に着けた知識を頭の中にINPUTしていった。そしてそれらの知識をしっかりと自分のものにしている。


 知識のみならず経験も豊富だ。一人で太陽系を飛び出して苦労しながら様々な経験をしてきているケンは同じ年代のほかの人達よりもずっと人生経験が豊富だった。


「大きな船よりも俺たちの様なサイズの船の前に積んである荷物を重点的に見ればいい」


 ケンによるもともとレアメタルは一度に大量に買い付けるものではなくケンサイズの船に積むだけでも十分な量が確保できるという。大型船に積んでいるのは鉄や銅といった汎用金属らしい。


 これも経験から裏打ちされている判断だ。確かにレアメタルと汎用金属とでは価格が違いすぎる。普段は小船サイズで積める程の数量で十分な高価なレアメタルを一度に大量に買い付ければ当然目をつけられてしまう。


 何よりヴェラピク側が一度でそれほど大量のレアメタルを1船に積むことを許可しない。途中で海賊にでもあって荷物を取られると膨大な損になるからだ。ヴェラピク星は高価な商品については分散して満遍なく出荷する方針を出していた。


 歩いていると腕を組んでいるケンの左手に力が入った。

 

 そこには厳重に梱包されているレアメタルが積まれていた。ソフィアはそれとそれを積む輸送船の写真を隠し撮りする。後で船体IDを調べれば船の所属がわかるだろう。


 その後もいくつか荷物を見つけてはその写真と船の写真を撮った二人は広い港の端から端までゆっくりと歩いてからアイリス2に戻ってきた。


 ソフィアは早速撮影した写真を整理したうえでシエラ情報部にメールを発信する。NWP通信なので内容が漏れる可能性はまず無い。




 ブリザード3日目。この日ケンは朝から自分の部屋でもある船長室でPCを立ち上げて次の仕事を探していた。


「なかなか良いのがないな」


 船長室にコーヒーの良い香りが漂ってくるとケンはPCのモニターを見ながら言う。


「今までが順調過ぎたんじゃない?普通ならもっと商売の効率が悪いんでしょ?」


 テーブルの上にコーヒーカップを置いたソフィアが言う。その通りだ。今まではというか普通の小型輸送船であれば輸送時間がもっとかかる。途中で給油の必要もあるしメンテの回数や時間ももっと取られる。


 ほとんどメンテフリーになっているアイリス2だからこそ次々と依頼をこなせているのは事実だった。


「確かにそうなんだよな。今までなら同じ時間でこなせる依頼は今の半分か下手すりゃ3分の1くらいだったよ。アイリス2になって効率が上がってそれが当たり前だと思う様になってたよ」


 ソフィアの言葉を聞いて気が楽になったケン。


「慌てずに良いのが出るまで待つか。最悪はこの星を出て安全な宇宙空間上で探してもいいしな」


 そう言ってアイリスを呼びだしてヴェラピクから最も近くて安全な空域を調べさせる。


『ヴェラピクからワープした先の空域がもっとも近くて安全な場所になります。この星を離陸後4日と8時間でその空域に到着予定です。座標を3Dマップに投影します』


 船長室の投影モニターにその場所が映った。


「その近くにあるこの星は?」


『フェアリーモント星です。安全空域からですと巡行速度で2日と10時間かかります』


「なるほど」


 フェアリーモント星はケンの様な輸送業者にとってはあまり縁のない星だ。この星は星全体が観光惑星になっている。様々な木々が生い茂る森林や湖、海と山といった風光明媚な惑星でその見事な景色を楽しむべく観光客が多く訪れるためにどの都市もきれいでそして多くのホテルがあちこちに立っている。


 フェアリーモント星政府は環境保護と美観保護の観点から高層ホテルやマンションの建設を認めておらずすべての建築物は高さ30メートルを超えてはならないと法律で定められている。


 その結果ほとんどのホテルが8階以下となっており上ではなく横に長い造りの建物が多い。そんな話をソフィアとしているとアイリスの声が船内に響いた。


『港湾局から通信です』



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