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グリーンリボン星


「本当に不思議な星ね」


 アイリス2の正面、特殊強化プラスチックで作られているガラス越しに見えてきたグリーンリボン星を見たソフィアが言った。アイリス2の正面には星の地表のほとんどが緑で覆われた惑星とその惑星の周囲にあるねじれたリングがはっきりと見えている。


 アイリス2は順調に飛行をしてグリーンリボン星の勢力圏に入ったところで港湾局と連絡を取り着陸の許可を得て今は星のポートに向かって進んでいるところだった。


「こうして外から見ている分には珍しい景色なんだが星自体には何もない。森林惑星と言われているだけあって星の多くが森林で様々な樹木が植えられている。人々は海岸線に沿って街を作って伐採した木を売ってその後には植林をしたり木の実を育て販売したりあとは今回の様に樹液を使って製品を作ったりという仕事に従事している。観光やショッピングを楽しむ星ではないな」


 ケンが言うには森林はグリーンリボン星の資産であり許可を得ている人以外が森に入ることは硬く禁じられているらしい。


『グリーンリボンポート、16番ピア到着まで20分です』


 アイリスの声がして着陸態勢に入るアイリス2。成層圏を抜けると眼下に海が見えてきた。そうして海岸線に沿って住民の建物が並んでいるのが見える。


 アイリス2は減速して下降していき予定通りの時間にポート16番ピアに着陸した。ここの港は海岸線を埋め立てて作った人工島の上にある。その人工島の背後はすぐに森だ。


 ケンとソフィアが後部に移動したタイミングで貨物扉がゆっくりと上に開いていくと外からこの星の空気が流れこんできた。


「いい匂い」


「森の木の匂いだな。俺もこの匂いは好きなんだよ」


 ハッチが完全に開くとピアには既にコンテナ1基が準備されていた


「積んでいいかい?」


「ああ。頼む」


 港湾作業者の声に返事をするとエアリフトに乗っているコンテナがゆっくりとアイリス2の後部貨物室に搬入されていく。


「ヴェラピク星向けだってな」


 作業を見ている現地の男が話かけてきた。どうやら話好きの職員らしい。


「そうなんだよ」


「ブリザードにぶつかったら現地でどれだけ足止めくらうか判りゃしない。大変だな」


「まぁ俺たち零細企業は大手がやらない仕事をしないと食っていけないからな」


「大手だけじゃあこの星系の経済は回っていかんだろう。あんた達の様な業者がいるからやっていけてる部分もあるからな」


 この職員の言う通りだ。大手は一度に大量の荷物を運べるが当然大きな港がないと積出、積み下ろしができない。そして大手は荷物が集まらないと平気で運行をキャンセルしたりする。


 そんな大手のフォローとして小口運送業者がきめ細かいサービスと短納期を売りにして大手ができないニッチなサービスを提供する。大手は認めないが実際は大手と中小の共存共栄のシステムが出来上がっていた。


「ヴェラピク向けの出荷は多いのかい?」


 後部ハッチに収納されていくコンテナを見ながらケンが聞いた。


「定期的にあるな。今回積んでいるのと同じ採掘用の車のタイヤが多いよ。タイヤは消耗品だからな」


「確かに。ここグリーンリボンのゴムの木から取れる天然ゴムを使って作ったタイヤは品質がいいからな。安定して需要があるのはいい話しじゃないの」


 自分の星の製品を褒められて頬を緩める職員。実際にこの星で作られたタイヤは高級品質というブランドが確立されている。エアカーやエアリフトが多いとはいえ今回の鉱山採掘車の様に今でもタイヤを使った車は依然として数多く存在している。


 コンテナが積み込まれてしっかりと固定されたのを確認するとゆっくりと後部ハッチが降りてきた。


「世話になったな」


「気をつけてな」


 挨拶を交わしたケンとソフィアは船のメインルームに戻ってアイリスを呼び出し


「荷物は問題ないよな」


『大丈夫です。しっかりとホールドされているのを確認しました』


「OK。じゃあ出発しよう」


 ソフィアが港湾局から離陸の許可を取るとアイリス2はゆっくりと浮上して宇宙に飛び出していった。成層圏に出て機種がヴェラピクに向くとケンが指示を出す。


「アイリス。35日後にヴェラピク星に着く様にルートと速度を計算してくれ」


『わかりました』


 すぐにアイリスから回答が来て3Dマップが投影された。それによると航路はそのままで巡航速度をやや遅めにして飛行すれば問題なさそうだ。航路上に現時点では心配の種もない。


 ケンはソフィアが淹れてくれたコーヒーを飲むと船長室に消えていった。これから8時間は睡眠時間となりソフィアがオペレーションルームの担当になる。


 シエラ情報部への報告書を書き上げるとソフィアはアイリスと話をする。


「アイリス、感知レーダーはどうなってるの?」


『はい。ケンの指示でグリーンリボン星を出てから100%、フルレンジで稼働中。周囲1,000万Kmを常時探索しています』


 ここから先は極めて治安の悪い空域だ。ケンはそれを見越してアイリス2のレーダーを最大の能力で動かす様に指示を出していた。


「不審船を見つけた場合の指示も受けてる?」


『はい。基本は回避です。別ルートでの移動あるいはエンジンをオフにしてデブリに擬態するかどちらかで対応するという指示を受けています』


 流石にケンねと感心するソフィア。


 アイリス2は漆黒の空間を分速55,000Kmにて飛行している。今から約35日の移動が行きの山場だ。そしてヴェラピク星から出航する時が2度目の山場。


 アイリスとの話しだとケンは今打てる手は既に打っていそうだ。私ががたがたしても仕方ないかと半分開き直るソフィア。


「ケンの打つ手に間違いはないし」


『仰る通りです。ケンは常に行動の選択肢を複数持っています。そしてそれを事前に伝えてくれるのでAIとしても助かっています』


「そうね。いざという時に直ぐに回答できるわね」


『その通りです』



 24時間のうち8時間は交代で睡眠をとり残り16時間は勤務。今は2人が勤務している時間帯だ。


『ワープアウトしました。周囲1,000万Kmに異常なし。目的地まで7日と2時間です』


 アイリスの声がして椅子から立ち上がるソフィア。コーヒーを淹れたソフィアが戻ってきて座ったままでいるケンに渡す。ありがとうと言って


「アイリス、ヴェルピク星の勢力圏までは?」


『5日と22時間です』


 アイリスの報告を聞いたケン。ヴェラピク星への最後のワープを終え、これから約6日間が最初の山場だ。



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