回収 その2
『ワープアウトの衝撃波感知。宇宙船がワープアウトしてきました。衝撃波の規模から艦船と推定されます』
デブリ回収作業が始まってから28時間が経過し、このポイントでの回収予定の80%を回収した直後にアイリスの声が館内に響いた。
「敵艦の予想航路、こちらが発見される可能性については当初の確率から変更ないか?」
『変更ありません。以前と同じルートでドレーマ星に進路をとっています。本船が発見される確率は0.1%以下、デブリが発見される確率は0.01%以下、衝突する確率は0%です』
前回ワープアウトポイントを見つけた際に、万が一に備えてアイリス2の停止位置に関してアイリスと検討をしていたケン。当然ステルスモードを稼働している前提だが彼らが同じルートでドレーマ星に向かうのであれば今アイリス2が停止している位置はまず見つからないという結論だった。
モニターにワープアウトしてきた艦船が映っている。特徴的な色をしたファジャルの駆逐艦だ。
予想通り艦船はこちらに見向きもせずに一路ドレーマ星に向かって飛行していくその姿をモニターで見ているケンとソフィア。
「こうして見る限りファジャルの駆逐艦の外見は以前と変わっていないわね」
ソフィアが言うとアイリスの声が聞こえてきた。
『ソフィアの言う通りです。私にINPUTされている過去のファジャルの駆逐艦のデータと比較して外見上は99%以上の確率で同じ形になっています」
「なるほど。量産型というわけか。ただレーザー砲の威力などは変わっている可能性があるんじゃないの?」
『レーザー砲の口径は以前と変わりありません。従って射程距離に大きな変化はないものと思われます』
太陽系連邦軍からハードの技術を導入しているシエラでは大出力のレーザー砲を設置しているが大出力にする為に砲身は長く、そして口径が大きくなっている。今のアイリスの話だとファジャルはレーザー砲の射程距離に関しては以前と大きな変化はないということになる。いずれにしてもこの画像はシエラの本部にも転送されているのであちらでも分析するだろう。ファジャルの駆逐艦はワープアウト後スピードを落とす事なく一路ドレーマ星を目指して飛行していった。
『艦船と安全距離になりました。その後ワープアウトした艦船はありません』
席についたままため息を吐くケンとソフィア。こちらに向かって飛行していたデブリは停止しなかったこともあり2分後に無事に回収される。
「敵の艦船のワープアウトがあと10時間早かったらデブリの航路と艦船の航路が近かったのでデブリに対して指示を送る必要があった。やつらが来るのが遅くて助かったよ」
席を立ってキッチンに向かうケン。その前にソフィアが先に席を立ってコーヒーの準備をしていた。彼女は今回のデブリ回収ポイントをどこにするかという打ち合わせにもちろん同席している。その際にデブリを早急に回収するよりもアイリス2が安全に長時間待機できる事を重視してアイリスと打ち合わせをしてこの地点に決めたケンの判断が正解だったと感じていた。
起こりうるケースを想定し、その中からどれが一番良いかを決める能力に長けているケン。どれが一番良いかというのも自分だけのことではなく依頼主から見てどれが一番良いかというのを第一義に考える。今回は秘密裏に全てのデブリを回収せよというミッションだ。秘密裏に回収するためには自分たちが敵に見つからずに安全に回収するということと考えた彼は、デブリの回収に時間がかかっても自分たちが敵に見つかることを避けるということに重きを置いてこの場所に決めたという背景があった。
デブリ回収作業を開始して36時間後、予定通りに第一陣の回収を完了した。次はドレーマ星の周囲にある残りデブリの回収だ。周回衛星の一部は回収しているがいくつかはプログラム電波を発する時にちょうど星の反対側にいた為に電波が届かなかったので回収電波の送信を2度に分けている。
『回収プログラムの電波発射可能時間は今から3時間37分後です。そのタイミングで残り3基の回収が可能となります。3基の回収が終わるのは電波発射から29時間15分後です』
「OKだ。引き続き周囲の警戒を頼む」
『了解しました』
アイリスとのやりとりを終えるとケンはソフィアに顔を向ける。
「もう少しこの場所で待ちが続くぞ」
「自宅にいるみたいなものだから平気よ」
ソフィアはそう答えたが実際そうだった。ケンと2人だけで自宅と同じ様な船室で過ごしている分にはシエラの自宅と変わらない。食料も飲み物も普段自宅で食べて、飲んでいるものを準備している。
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。しっかりとやり遂げてシエラに帰ろう」
その後はワープアウトしてくる艦船もなく、またドレーマ星から飛び立つ艦船もない中アイリス2はドレーマ周辺に配置していた全ての偵察衛星の回収に成功した。これでシエラがドレーマを監視しているという証拠が完全に無くなった。
アイリス2が全てのデブリを回収したと報告するとすぐに情報部から連絡が入ってきた。
ー アイリス2は引き続きその場で待機。リブラ到着後に帰星せよ ー
通信を読んだケン。
「ソフィア。内容了解。現在当機周辺空域に異常なし。NWP問題なしと情報部に座標と合わせて返信を入れてくれるか」
「今送ったわ。リブラが先に来て、攻撃部隊がNWPでワープアウトする際の周辺の警戒をするのね」
「恐らくね」
予想通りにすぐに情報部から連絡がきた。リブラは今から12時間後にNWPでこの近くにワープアウトしてくる。それまで周辺空域で異常があれば連絡して欲しいと言う内容だ。




