オペレーションBFW
2日後シエラの大統領府内にある会議室に関係者が集まった。情報部からはシュバイツ准将とスコット大佐、軍参謀本部からはスタークビル大将とその部下であるコントレラス大佐、そして大統領府からは2名のスタッフが参加している。コントラレス大佐は情報参謀本部所属で現場のトップの位置付けになる。
シエラの特徴として会議に大人数が参加しないという風潮が昔からある。責任者達が集まって一気に決めるというスタイルだ。ダラダラと会議をしない代わりに事前に参加者には会議を招集した部署が詳細なアジェンダを送付する。事前の準備をしっかりとして会議は短時間で終える。
「それでは情報部からの議題について討議を始めます」
大統領府の役人が会議の宣言をするとその後は招集した部門が会議の司会をするのもシエラの慣しだ。役人に続いてスコット大佐が立ち上げると事前に配っている資料をもとに補足説明をし、最後に参加者を見て言った。
「ドレーマ星にファジャルの軍が現れた場合の対応につきまして、シエラが軍事行動に出た場合にはそれが戦闘の発端となる可能性がかなり高いと判断しております。詳しくは5ページにありますAIのピクシーの評価結果をご参考ください。シエラ政府及び軍としてどこまで腹を括れるのか忌憚のないご意見をお願いします」
「ピクシーによると半年から1年以内にファジャルの軍事侵攻が始まり、それはトレオン星系からとブルックス星系内での同時発生となるという分析だったな」
コントラレス大佐の言葉に頷くスコット大佐。どちらも大佐なのでこの2人の間に上下関係はない。
「つまりワープアウトしてきたファジャルを叩くということは彼らが戦闘に入るまえにこちらから攻撃を加えるということになる」
「その通り。従ってワープアウトしてきた軍艦を叩くと同時にドレーマ星にある彼らの基地も破壊する必要がある」
スタークビル大将がコントラレス大佐に続けて言った。
「その通りです。なのでドレーマ星付近にワープアウトしてきたファジャル艦船に対して何も行動を起こさずに監視を続けるという手もあります」
2人の言葉を聞いてから意見を述べるスコット大佐。
「ドレーマ星がファジャルに乗っ取られたというのは監視衛星からわかりますか?」
大統領府の役人の言葉に首を振る情報部の2人。
「彼らはすでに我が物顔で行き来しています。そしてあの星では難民が出ないでしょう。何と言ってもほとんどの星人が船を持っていませんからね。となるといつ落ちたのか判断するのが難しい」
「それで監視だけしているとファジャルにある造船所で次々と彼らの軍艦や空母が建造されていくということか」
スコット大佐の言葉にスタークビル大将が続け、顔を情報部に向けると質問をしてきた。
「バードビル星域はどうなっている?」
「あちらは隠れる場所がありません。ただ星の背後には常時海賊船がいるという評判に変わりはありません。おそらく海賊船に扮したファジャルの船が4隻ほどいるでしょう。ただあの星には連邦軍の軍隊が駐留していることもあり侵攻は簡単ではありません」
スコット大佐が言うとシュバイツ准将があとを引き取って続ける。
「ファジャルの第一の目的はドレーマ星を知らない間に自分たちの基地にすることだと思われます。ブルックス星系内に自分たちの基地ができればその後の活動がしやすくなる。そしてここシエラを狙うでしょう。トレオン星系とドレーマ星からシエラを挟む様にして侵攻してくると思われます。残念ながらシエラが攻撃を受けても連邦軍は大規模な軍を派遣しないだろうというのが情報部の分析です」
従来よりブルックス星系の中でも独立独歩の国策を続けているシエラは連邦に対しても最低限の協力しかしていない。そして何よりシエラがブルックス星系の一番端に位置していることもありブルックス連邦政府から見れば遠い場所での戦闘という認識しかしないだろうと言うのはここにいる全員が理解していた。そしてファジャルはここシエラの技術や設備を狙い続けているということも知っている。
「連邦の救援は最初から期待していない。我々は自分たちで迫り来る危険を排除するしかない」
スタークビル大将が言い切った。
その後の議論の中でシエラとしての方針、大統領の決裁を仰ぐ原案が出来上がった。
・ドレーマ星についてはそこにファジャルの艦隊が間違いなく着陸したと確認できた時点でシエラ軍として攻撃をし、ドレーマ星内にあるファジャルの施設及び艦隊を破壊する。
・その後ファジャル軍のシエラ星攻撃に備えシエラ星人に状況を公開した上で地下避難施設を開放し、戦時体制の宣言をする。
・予備役の兵士に準備をさせる。
従来より有事に備えてシエラでは食料や水が大量に備蓄されており突然戦争が始まっても1年は問題なく暮らせる量になっていた。
またシエラの法律で定められているが、星人は自宅やマンションの地下にシェルターを持っておりそこでも食料や水を常時備蓄していた。ケンとソフィアが住んでいるマンションにも当然地下にシェルターがあり住民が避難できる様になっていた。
戦争は避けられない。避けられないのであれば先手必勝でドレーマの基地を叩くと言う方針が決まった。
会議から1週間後、大統領府から連絡が来た。
ー 大統領からオペレーションBFWの承認が取れました。ー
オペレーションBFW Be the First Win。先手必勝の意味がある言葉が今回のオペレーション名だ。
大統領の承認を受けて全てが動き出した。




