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コスラエ星


『分速1,000Kmになりました』


「そのまま減速しながら下降。高度5,000メートルで速度分速200Km」


『このまま下降します。高度5,000メートルで速度を分速200Kmにまで減速します」


 初めての星の着陸だ。ケンももソフィアも自分の席に座って正面の窓越しの景色と目の前にあるモニターとを交互に見ていた。


 下降しながら速度を落としていくアイリス2。港湾局が発信している電波を拾ってそれに合わせて速度と高さを落としながら目的地である首都ポートのピアを目指していた。


 高度が1,000メートルになった時には速度が分速50Kmまで減速しておりそのまま最終アプローチとなって山あいの渓谷を抜けると視界の先にコスラエ星の首都の街並みが目に入ってきた。送られてきているデータ通りに飛行をしているがそれでも左右に高い山々があり、アイリス2はその間を縫う様に下降していった。


「減速しながら高度200メートルまで下げる」


 ケンの言葉を復唱しているアイリス。機体が高度200メートルになったところで機体速度を更に落としていく。盆地に造られた街は周辺に拡大できないので高層ビルが市内のあちこちに建っていた。最後はビルとビルの間をすり抜ける様にして下降していき、アイリス2は無事にコスラエ星の首都ポート、カーゴピアに着岸する。


 機体下部から伸びた足ががっちりと大地に接触し、わずかに機体が揺れてから停止するとケンの口から思わずため息が漏れた。


 機体後部に移動すると後部ハッチが開き、コスラエの空気が中に入ってきた。待ち構えていたエアリフトが後部から精密機器が入っているコンテナを積み込んでいく。


「初めてのコスラエだったけど着陸に気を使う星だな」


 ケンがそう言うとそばで作業を見ていたコスラエの職員が初めてなのかい。そりゃご苦労さんだったなと言った。


「ご覧の通りここは盆地だ。その割に交通量が多い。空は客船や大型の輸送船が優先されるのさ。彼らは盆地の上から真っ直ぐに降下しても良いってことになってる。この船は小型船だろう?小型船はこの星じゃ一般船という扱いになって山の間を飛んでくるって決まりになってるんだよ」


 そう言うことかと納得するケン。隣でソフィアも大きく頷いている。だからこの星に来る船は大抵が中型か大型になるんだよという職員。


「船に積んであるAIに操船を任せていても万が一建物にぶつかったら大変なことになるからな。彼らは上空からまっすぐ降下できる。この星じゃあんたらの様な小型の輸送船の着陸が一番しんどいな」

 

 確かに最後はビル群の中を縫う様にして着陸した。


 星ごとにローカルルールというか規則が異なっている。輸送業者はどこい出向いてもその星のルールに従うだけだ。


 初めての星でもありケンはこの星で1泊することにした。幸いに小型船のピアは空いている。たいていの場合は中型以上でやってくるからいつもガラガラなんだよと教えてくれた職員。


「運送業者じゃなかったらこれほど色んな星を訪ねることもなかったわね」


 首都の街の中を腕を組んで歩いているケンとソフィア。歩きながら周囲を見ているソフィアが言った。


「確かにね。それにしてもこの星はまた奇妙だよな」


 ケンが言った通り、コスラエ星の首都は盆地にあり、高層ビル群の隙間からはどこを見ても高い山々が見える。そして山の頂上付近には誰が見てもレーダーだとわかる施設が設置されていた。


「今回の商品もどこかの山の頂上に設置されるのかしら」


「そうだろうね。監視するだけじゃなくて交通整理や他の都市との通信補助なんかでも必要だろうし」


 星自体は奇妙だが街の中は他の惑星にある都市と変わらない。高層ビルに緑の公園、売られている品物もどこの星でもありそうな物が多い。


「大抵の星は似たり寄ったり。特徴がない星が多いよ」


「そうね。ヴェラピクなんてのは例外中の例外よね」


 雪と氷に閉ざされた惑星ヴェラピクを思い出しているソフィア。彼女はこれは私の儀式だと言って新しい星に来た記念にと市内のスーベニアショップでいくつか買い物をする。


 アイリス2にはたっぷりと食料、水が積み込まれているのでこの星で補給をする必要がない。2人はダウンタウンを歩き回って市内のレストランで食事を済ませるとアイリス2に戻ってきた。訪れた星々の料理を食べるのも2人の楽しみの1つだ。


 戻ってくるとケンは船長室に座ってPCを立ち上げた。アイリスに指示をしてこの星からドレーマ星へのルートをモニターに表示させる。ソフィアが船長室にもあるサーバーでコーヒーを2つ作るとケンが座っている隣の椅子に腰掛ける。コーヒーカップを1つ、ケンの前に置いてから聞いた。


「何を悩んでいるの?」


「ルートの確認だよ。どこの地点から航路を外れたら良いかを考えているんだ」


 宇宙には道はないが船が飛ぶ航路は決められている。これは船同士の衝突事故を避けるのと、デブリやブラックホール、小惑星群などの障害物を避けて決められていた。


 輸送船や商船は決められたルートを飛行して目的地に向かう。コースを外れて飛行した場合は全て船側のリスクとなり、万が一事故等に遭遇しても保険金は降りない。何よりもコース外には何があるのかがわからない。コースを外れてもお咎めがないケースは遭難船の救出時だけだ。


「できるだけ航路上を飛んで近づきたい。でも近づきすぎるとドレーマの監視衛星に認識されてしまう」


 ソフィアもアイリス2に乗船してから航路についての知識を会得していた。軍の船は航路に関係なく、最短距離を飛行するのが普通だが民間船でそれをやると宇宙の交通が混乱してしまう。


 ただ今回はドレーマ星の監視という隠密行動となる。リスク覚悟でルートを外れてドレーマ星に近づいていく必要があった。しばらくモニターを睨みつけていたケンが声を出した。


「アイリス。ドレーマの勢力圏から2,000万Km離れた地点までは航路を進み、そこで航路を850・305・773方向に変更して背後からドレーマ星に近づきたい」


 すぐにアイリスから返事が来る。


『計算しました。850・305・773に航路変更してから最終的に758・122・080方向に進めばドレーマ星の背後から近づけます』


 分かったと言って再びモニターを睨みつける様に見るケン。彼がこうなると思考に没頭していて周りの声が聞こえなくなるのは長い付き合いでソフィアも知っているので彼女は隣でコーヒーを飲みながら同じ様にモニターを見ている。


 しばらくしてから顔を上げて目の前に置かれているコーヒーと隣に座っているソフィアに気がついてごめんごめんと言ってから緩くなったコーヒーを口に運ぶ。


「アイリス、進路変更後、速度を30,000Kmに落として勢力圏外1,000万Kmまで近づいてくれ。そこから先は現地で考えよう」


『わかりました。航路変更後速度を分速30,000Kmで1,000万Kmまで接近します』


 細部まで詰めるのは現地に近づいてからだ。大まかな方針が決まるとケンは椅子に座ったまま大きく伸びをした。



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