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優先順位


 アイリス2も当然レーダー波感知システムを搭載する必要があり、通常の輸送業務を終えたあとシエラ第3惑星の自分たちのピアに戻ってきていた。


 レーダー波の感知装置を組み込む作業がいつになるのか不明だが、せっかくだからと自宅でゆっくりする。まだ感知装置ができていないのでしばらく待ちの状況になるが二人はそれを気にすることもないほどに稼いでいた。


「レーダー自体に細工をするのって簡単じゃないわよね」


「そりゃそうだろう。今のAIって優秀だろう?細工したのが見つかったら大変なことになるよ」


 ケンとソフィアは情報部から今回の感知システム搭載に関して、その背景を聞いている。ケンはこれくらいしか出来ないだろうなと思っており、ソフィアもそれは理解していたが、何か手はないものかと思っていた。


 自宅のリビングでくつろぎながらそんな話をしている2人。

 情報部から話を聞いた時、スコット大佐からはケンに何か良いアイデアはないかと聞かれていたが電子機器に詳しい訳でもないので技術的な面は流石にケンも分からない。彼が言ったのは、


「あとは空母が出没する宇宙空域の監視の目を強めることでしょう」


 と言うことだった。輸送船の船長としてこのブルックス星系のやばい場所は推測がつく。そして船が作られるのはドレーマ星だ。


 ドレーマ星からやばい空域へのルートを予測し、そこに監視衛星を置いて追跡するくらいしか思いつかないと答えている。


 個人的にはシエラがドレーマの空母に何か細工をするというのは感心しないというケン。


「どうして?」


「関与すればするほど、バレやすくなるんじゃないかな。作らせてから監視する。そして必要があればその時に叩く。これが一番シンプルだと思うんだけどな」


 相手、この場合はファジャルだが。その相手の力量を100%理解してない内はあまり細工をしない方が良いというのがケンの考えだ。シエラは太陽系連邦軍と同盟を結んだ事により軍事力が急速にアップしている。ただこれを過信しすぎてはいけないとケンは言う。


「無意識の内に相手を下に見てしまう。ところが実際はそうじゃない。そうなった時には大変なしっぺ返しを喰らう。下手をしたら取り返しがつかないことになる」


「じゃあ今はただ待ってるのが良いというの?」


 不満そうな声で言うソフィア。


「そうじゃない。準備はした方がいいだろう?ただし別の準備だ」


 ケンは隣に座っているソフィアに顔を向けると続けて言った。


「レーダー感知波の認識設備を作る前に2つ目、3つ目のベース基地を作ってまずは守りを固めるんだよ。ベースを作ればそこに軍隊が駐留できる。機動力も上がる。軍がまず守るべきはシエラの3つの星でしょ?そこの守りが完璧になったら大抵の事態には対処できるんじゃないの?」


 ケンはいつもそうだ。彼は常に大きな流れを見ている。太陽系から軍事力に関するノウハウを導入し、従来の電子分野と合体させたシエラ軍は今ではブルックス星系ではトップクラスの軍事力を持っている。軍関係者は皆そう言う認識だ。


 そのトップにいるという目線で物事を見ると相手を過小評価しがちになる。それが怖いと言うケン。彼の言う通りファジャルはここ数年ブルックス星系では軍事力を行使していない。最新の彼らの軍事レベルが分からない中、相手を格下だと思うと足元を掬われかねない。


 彼の話を聞いていたソフィアはやっぱりケンねと改めて見直していた。


 ケン当人の了解を得て、数日後に情報部に顔を出した2人はシュバイツ准将とスコット大佐を前にしてケンの意見をもう一度説明する。


「優先順位をつけて対応した方が良いということか」


 スコット大佐が言った。隣のシュバイツ准将は黙って聞いている。


「私は軍人じゃありませんけど、仕事でも同時に2つ3つとやるとミスが出る。まずこれ、次にこれ。としっかりと決めてやってます。限られた資源の中で優先順位は常に考えていますよ」


「その中でまずやるのは守りだと考えているのだな」


「素人の発想です。自分はこの星の軍事費や軍人、軍艦の数なんて知らない。その前提ですが何事においても憂いは少ない方が良い。この場合はシエラの3つの星が完璧に守られているのがそれに相当するんじゃないかと。そのためにはベースメテオに続く宇宙基地をつくり守りと監視を強化するのがいいんじゃないかと思った次第です。後ろ、守りを気にしなくても良いとなれば攻めやすい」


 シュバイツ准将はケンの話を聴きながら彼の言う事は尤もだと感じていた。

 偶然とは言えファジャルがドレーマで空母を作っているのを知った。そこが議論の出発点になってどうするかという対応をしている軍と大統領府。ただ、この情報がなかったらどうか?おそらく2つ目のベースを作る話になっていただろう。今その話は中断しており、どうやってファジャルの空母の情報を取れるかという流れになっている。周波数を検知する装置にしてもそうだ。果たしてこれが本当に今やるべき最優先事項なのか。


 准将は彼の話を聞きながら、一度関係者で話し合う必要があると感じていた。



 ケンとソフィアは自宅から次の仕事を探していた。アイリス2として安定して収入があるとは言え通常の運輸業務を疎かにすることはない。元々運送業が2人の仕事だ。


「これにしよう」


 ケンが見ているいつものサイトで選んんだのは旋盤の輸送だった。



依頼主 : アヴニール商会

商品 : 工作機械、旋盤 (2セット)

サイズ: 20m3 (コンテナ小型x2基)

引き取り地 : ブルックス系 ブレシア星

目的地 : ブルックス系 ページャ星

期間: 60日以内

報酬 : 400万ユニオンクレジット(UC)



「どちらの星もケンは行ったことがあるの?」


「ブレシアは初めてだよ。行きたいと思っていたんだ」


 どうして?というソフィアににその理由を説明する。


「この星は最近工業製品の製造と輸出に力を入れてきている星でね。今までバイーアが独占していた工業品製造分野に殴り込みをかけているというか彼らの市場に割って入ろうとしている星なんだよ。まだまだ知名度は低いがこうやってオーダーを出す会社が出てきている。これからこの星から運ぶ荷物が増えるかもしれない。行っておいた方が良いと思ってね」


「新しい星の港湾局に船と名前を売っておくのね」


「そういうこと。ソフィアもわかってきたじゃない。アイリス、日程的に問題ないよな」


『問題ありません。ここからブレシア星まで出発から24日と12時間、そこからページャ星までは離陸後29日と5時間です』



 ケンがサイトにチェックを入れてアイリス2の次の仕事が決まった。


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