LAベースにて その1
地球のLAにあるシエラ大使館に無事に着陸すると建物からアン大使以下関係者が出迎えたのは当然だがそれ以外に太陽系連邦政府からも出迎えが来ていた。
太陽系連邦軍副総司令官の地位にいるケネディ大将
太陽系連邦軍LAベース最高指揮官であるブルー少将
太陽系連邦軍情報参謀本部長であるディーン准将
太陽系連邦政府外務大臣であるヤニス外務大臣
錚々たるメンバーがアイリス2を出迎える為に建物の中から出てきた。このほかにも情報参謀本部の部長であるシモンズ、そして外務省宇宙局局長のスズキらもアイリス2を出迎えた。
スタークビル大将、シュバイツ准将、マッキンレー外交部長というVIP達の訪問だ。いくら対外的に非公開とは言え太陽系連邦政府や軍のトップが出迎えをしないという選択肢は無い。そうは言っても普段軍本部にいるケネディ大将までもが直々に出迎えるとは流石に誰も思っていなかった。軍のみならず外務大臣や外務省幹部らも首都のあるヨーロッパからわざわざLAに出向いてきていた。
LAベースは元々軍事基地で一般人の立ち入りが厳しく制限されており、このエリアにいるのは軍および政府関係者だけだ。スタークビル大将がケネディ大将と握手を交わしながら挨拶をしている。
「友邦星の軍トップがシエラから地球まで来て頂いているのに、本部からそう遠くないここLAベースに私は来られませんなんて言えませんよ」
にこやかな表情で話をするケネディ大将。一通りの挨拶が終わると全員がシエラ大使館の中に入って言った。ここから地下を移動してLAベースに向かうのだろう。
情報部から地球に駐在しているアダムス少尉がアイリス2に乗り込んできた。彼はVIP同士の打ち合わせには出席しない。そっちはアンドリュー中佐が担当だ。彼はアイリス2のキッチンに座ると2人を見て言った。
「聞いているとは思いますがゲストハウスがまだできていないのです。太陽系連邦軍よりはLAベース内にあるVIP用のゲストハウスを使用してくれと言われているが万が一を考えてこのアイリス2で寝泊まりすることもありえます」
敬語で話をしてくるアダムス少尉。彼から見ればまずソフィアは中尉で位が上だ。そしてケンは軍人ではないが今までの彼の功績やシュバイツ准将との関係性から見て自分よりも上の地位にあるべき人だという認識をしている。
「スタークビル大将からそう聞いていますよ。我々は問題ない。ここなら機密漏洩の心配はないだろうし」
そうなんですよとアダムス少尉が言ってからソフィアに顔を向けた。
「中尉も問題ありませんか?」
「もちろん。個室にはシャワーもトイレも付いている。水も食料もかなり余裕を見て積み込んでいるから全く問題ないわね」
コーヒーのお代わりの各自のカップに注いでいるソフィアが答える。
2人の答えを聞いてアダムス少尉が安心した表情になる。彼らはこのまま夕食会になるが大使館の中で待ちますかという彼の言葉に首を横に振ったケン。
「自分たちは運送屋だ。アイリス2の中で待機しますよ」
その後は最近のシエラの様子や地球の様子をお互いに報告しあう。
太陽系連邦軍がエシクの艦隊を完膚なきまでに叩きのめした勝利した時は太陽系全体がお祭り騒ぎだったらしい。勝利記念日として2日間休日となり人々は太陽系連邦の勝利を祝ったという。
「もちろん一般の星人、それにメディア関係者もシエラと地球との関係には気づいていません。そのあたりはしっかりと情報が管理されている様です」
「そう言う意味ではこのLAベースというのは非常に良い場所ね」
「その通りです」
「ところで地球で観光はしたの?」
ソフィアが話題を変えて聞いた。
「ええ。休日を利用して中佐と数箇所行きました。シエラにはない風景や古い建物がある街を訪れましたよ。観光地には地球人以外の他星の観光客も多い、目立つということもありませんから楽しめました。アン大使も外交部の連中と一緒に休日に観光をしている様です」
「仕事ばかりじゃ疲れるからね」
ソフィアとアダムスのやりとりを黙って聞いていたケンだがアダムスから地球の観光地でお勧めの場所を教えて欲しいと言われ、思いつくところ数箇所を彼に言った。ケンが言った場所はまだ行ってないらしくアン大使にも伝えますよ少尉が言った。
到着した時間が夕刻であったこともありLAベースに向かったVIP達はそのまま夕食会に出席する。その席上スタークビル大将が挨拶をした。
彼はシエラにて初の宇宙基地、ベースメテオが完成しその活動を開始したという報告と建設に対して協力してもらった太陽系連邦軍に謝意を述べる。
「我々シエラ単独ではあの基地を作ることができなかったでしょう。太陽系連邦軍より来て頂いた方々が親切丁寧に教えて頂いたおかげで見事な基地が出来上がり、既に立ち上がって活動を開始しておりますが全く問題なく機能しております」
スタークビル大将のお礼の言葉から始まった夕食会は終始なごやかな雰囲気の中で進んだ。ともに現時点での最重要パートナーだと意識している両星。技術交流は問題なく進み、その結果お互いの星の軍事力が相当アップしているのは皆が認識していた。
彼らが和やかな雰囲気で食事をしている時アイリス2ではアダムス少尉をはじめとする留守番部隊のシエラ人全員がアイリス2のキッチンで食事をしていた。そこにはユーロセブンの乗組員達もいる。ソフィアが用意したシエラ料理を見て目の色を変えたメンバー。
「これこれ、これが食べたかったんだよな」
皆そう言って久しぶりの自星料理が盛り付けられているお皿にフォークやスプーンを伸ばしていた。食事をしている表情は皆明るい。異星での勤務だが充実しているのだろう。
シエラとして初の他星での拠点ということで駐在しているシエラ人も優秀な人たちであることは彼らを見ていても分かる。
異国、異星で頑張っている彼らがシエラ星料理で一息つけるのであればお安いご用だと思っているケン。食事が終わったあとも彼らとケンとソフィアはしばらくアイリス2の船内でリラックスした時間を過ごしていた。




