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昼間の喧騒が嘘のように静かな校舎。
人の気配が疎らになった空間に吹奏楽部が奏でる旋律が遠くに聞こえる。
グラウンドに響くホイッスルの音と、部活動に勤しむ生徒たちの掛け声。
通常であれば決して調和の取れない不特定多数の不協和音も学舎という多くの若者が集うこの場所では『青春』の名の下になぜか心地の良いBGMとなる。
多くの若者が青春を謳歌する中、とある教室の一角でも青春の一ページが繰り広げられていた。
「ボクに恋をさせてよ」
窓から差し込む夕日に教室が茜色に染まる中、机の上に腰掛けた一人の少年が妖艶に微笑む。
夕日を背景に小悪魔のように微笑むその少年は、男子生徒の制服に身を包んでいるが、その顔立ちは美少女と見間違えるほどに可愛らしい顔をしていた。
その瞳に映るは、一組の男女。
「恋か」
微笑みの中で吐き出された言葉に反応したのは、眼鏡を掛けた長身の男子生徒。
顎に手を当て、考え込みながら「ふむ」と頷く。
「つまり、だ。俺かこの女がお前を惚れさせれば良いと言う事だな?」
「そうだね」
眼鏡の男子の言葉を少年が肯定する。
「ボクは初恋もまだなんだ。だから誰に恋をするかでボクの未来は変わる。
女の子になるのか、それともこのまま男の子として生きるのか」
「そんな風に決めちゃって良いの?自分の人生なんだよ?」
少年の言葉に納得いかなかったのか、見た目がギャルの女子生徒が疑問を呈した。
しかし、そんな彼女の言葉に少年は笑った。
「ぶっちゃけ今のボクは精神的に男でも女でもないからねぇ……。体は男だけど。
だから初めて恋をした時に自分の生き方を決めるのはアリかなって思ってる」
自身の在り方が歪である事を少年は自覚していた。
「確かにきっかけとしては良いのかもしんないけどさ……」
周りの環境が少年をどっち付かずの状態にしてしまったことを彼女は良く理解している。
その原因に自身が関与していることを理解しているからだ。
尤も、彼女が悪い訳ではない。
状況的にそうせざるを得ない状態であっただけのこと。
「まあ、二人の気持ちはすごく嬉しいけどね。こんなボクを選んでくれようとしてる訳だし」
少年は目の前にいる男子生徒と女子生徒から想いを告げられていた。
男子生徒からは『女になれ。そして俺と結婚しろ』と。
女子生徒からは『可愛いを諦めなきゃいけなくなったらアタシが嫁になる』と。
それが今の状況を生み出していた。
しかし、少年は歪んでいた。
「でも、ボクが二人のどちらかに恋をしなきゃいけないって訳じゃないよね。他の誰かに恋をする可能性だってある訳だし?
ボクとしては二人がくっ付いた方が面白いんたけど」
自身に想いを告げた者同士が一緒になった方が楽しめると宣った。
側からみるとやべー奴である。
尤も、こんなことを言い出した少年にもちゃんと言い分があるのだがここでは割愛。
「ちょっ!?冗談でしょ!?アタシとこのホモ眼鏡をくっ付けようとか思ってんの!?」
「そだよ?」
「俺とこの女を?コイツを選ぶほど俺は悪趣味ではないし、コイツはコイツで俺など願い下げだろうよ」
「そんなことないと思うけどね。ボクは理想的な組み合わせだと思うよ」
「「異議あり!」」
「ほら、息ぴったし」
「「……………」」
思わず言葉が重なり、忌々しげに視線をぶつけ合っては顔を逸らす男子生徒と女子生徒。
そんな二人の様子に少年がクスクスと笑う。
「うん。やっぱりボクは二人のことが好きだよ。今は友達としてだけど。
この『好き』って感情がいつか本物の恋になるのかなぁ……?」
そう言って未だ覚えたことのない『恋』という感情に少年は思いを馳せる。
野球部が奏でたであろうカキーンッという音が小さく響いた。
青春の一ページというには余りにも歪な三角関係。
この三人の未来はどこへ向かうのだろうか?
これは、恋に恋する少年の物語である。




