死体のない犯罪
要らない人間を始末せよ。
公安の仕事は、本当にしんどい。
心療内科に通いたいのだがそうもいかない。
黒いスーツの金髪の男は項垂れていた。
オレ、メンタル弱いんだよなぁ。
池上 陽斗はそう思っていた。
この間も、高校生の男の子を皆んなで寄ってたかってボコボコ、全身の骨が砕けるぐらい。
あーっ、あーっ。思い出すたびに胃が痛い。
最期になったら池に放り込めと。
上からの命令でこんな汚れ仕事をする羽目になった自分を責めていた。
ところがだ。
その少年は生きていて全身整形したんじゃないかと思うぐらい綺麗になっていた。
綺麗すぎて怖いぐらいだ。
別段、上からの命令ではないが少年の動向には関心を持つのは当然だが、罪悪感はこの上もなく。とにかく、ストーカーのように張り付いて観察していた。
どうやら、宇宙人が関係していることは分かった。陰ながら応援していたのだが。
やはり、謝ろう。
仕事とはいえあんな事をして許されないのは分かっている。
少年の下駄箱に手紙を忍ばせて置いた。
それにしても、この街で発火事件が勃発している。死体がないのだ。
不気味だ。
せめて死体ぐらい残しておけよ。
その方が遺族が安心だろう。
なんて、イヤイヤ、違う。違う。
そうじゃない。
焼き殺されて、憎しみ倍増だなぁ。
誰がこんな事件をよりによって幸市で起こしてるのか?
下手すると第二次宇宙戦争勃発だ。
学校では、真田彰人は、美少年になったものの、中身は全然変わってないので戸惑っていた。女子からの熱い眼差しや男子からの侮蔑な眼差し。
あーあーっ。
放課後が来て、早く帰ろうと下駄馬を見ると手紙があった。
ドキドキ。
生まれて初めてのラブレターならぬものだ。
キョロキョロと周りを見回した。
誰も見てないなぁと素早く手紙をカバンの中に隠した。
麒麟の池がある公園に来てしまった。
あんなことがあったけど。
怖くないとはいえなくもないが。
それでもラブレターの方が気になる。
で、手紙を広げた。
「なんじゃあ、これは?」
手紙の内容は、こうである。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめなさい。ひたすら、ごめんなさいばかりだ。それも3枚もびっちり、綺麗な字で書かれていた。
何に謝ってるんだか?検討もつかない。
そこへ、美波 薫が現れた。
「みっけたぁ〜」と可愛い笑顔だ。
お下げの女子高生で、眼鏡で、こんな可愛い女子って珍しいよなぁと。
それも普通に話しかけてくれる。
クラスメイトと大違いだ!
最近では女子は「いやん」「あん」
男子に至っては、「呪われろ」「隕石落ちろ」
なんか、最悪なんだよね。
で、彼女はというと。
「男子トイレ行くよね」
「えっ?」
この子の言うこと、あんまし分かんない。
「どういう意味」
「学校の放火があったトイレ」
と彼女は眼を輝かせて言った。
「アレのこと。白い便器に周りだけ燃えている?」
そう、変な光景だ。
「へぇ、白い便器は、燃えてなかったんだね」
と念押しみたいに尋ねる。
「燃えてないよ」
「じゃあ、私と映画館行かない」
「えっ」
それってデートってこと。
俺はドキドキしていた。