第二話 出合いと始まり
俺は聖都を出て自分の家へと馬を走らせていた。幼少期過ごしてきた家に比べれば何倍小さいのか自分でも考えたくない。聖都の光もだんだん遠くなっていった頃、俺は家についた。俺の家の後ろには昔勇者が現れたとされる山があるが、そんな言い伝えなどどんな山にでもある。この周りには俺以外の家は殆ど無い。
「はぁ…明日からどうしようか」
そんな独り言を漏らしながら俺は暗闇の中へ入っていった。足音のみが響き渡る空間の奥へと入る。そんなときだった。外の森から音がしたのは。一瞬動物かと思ったがその考えは違うと気づく。草むらをかき分け前に進む音は段々と遅くなっていき、それがもう限界に近いことを表しているようだった。
「誰だ?」
直ぐにランプを取り出し外に出る。すると左側の深い森から赤髪の少女が出てきた。
「あっ…家……やっ…と」
その一言が空気を走り抜けると少女はその顔に希望を残して倒れた。
・・・・・・・・
「ん……ここは?」
「目が覚めた?ここは俺の家だよ。なにか食べる?」
少女が長い髪を揺らしながら頷く。その身体は服を着ていてもわかるほど痩せ過ぎであり、健康状態が悪いことは俺にでも分かった。
「すぐに食べると調子崩すからゆっくり食べて。」
俺の料理はまぁ普通くらいだ。一人暮らしをできるくらいには腕はあるが正直そこまで褒められたものではないと思っている。
「ありがとうございます」
この少女の口には合ったようだ。ただ一つ気になることがあった。
「俺はスフィア。シルヴィア・スフィアだ。君の名前は?」
少女が口に入れたお粥を飲み込むと答えてくれた。
「それが…わからないんです。自分が誰なのか。いや、それ以外のものも」
少女が困った顔をしながらこちらを向いてくる。その丸く赤い瞳が俺に向けられる。俺自身、記憶損失であることはわかったが、その人を相手にした経験などないからどうすればいいのかわからない。
「そうだな…とりあえず名前はないと困るからな…」
俺が頭の中を回転させ良さそうな名前を考える。そんな中少女が口を開く
「私は多分別世界から来たんです。強くなるために」
この言葉を聞いて俺は戸惑いを隠せなかった。というか驚かないわけがない。ただ驚いてばかりでもいられなかった。
「強くなりたいのか…そうだな、名前はスカイでどうだ?空のようにすべてを包めるほど強くなって欲しい」
少女が一瞬間を開けて答える。
「わかりました。スカイ…いいですね」
「そうだ!これからのことなんだけど、俺には兄がいて、あいつはこの国の中でもトップクラスに強い。スカイが強くなりたいんだったらあいつに弟子入りするのが一番手っ取り早いと思うんだけど…」
スカイが少々驚いた顔をするがすぐに普通の表情に戻る。
「たしかにそれが一番かもしれません。でも…」
少々顔を赤くしながら続ける。
「私は、スフィアさんと一緒に居たい…です。助けてくれましたし」
スカイが顔を反対方向へと向けるがちらりと目を俺の方へと返してきた。
「まぁ…俺も正直これからの目標は何もなかったから、スカイと一緒に〈強さ〉を求める旅に出てもいいかもな」
スカイの顔が初めて見せる笑顔に変わる。
「ありがとうございます!」
元気な返事が明るい空間に響き渡る。
「まだ何するかは決めていないけど、明日のため早く寝るぞ」
「分かりました!」
元気な声が周りに人がいない森に響く。これが二人の始まりである。
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