パラジウムの鉱石
「星花!」
「来ないで、拓」
拓の目の前で、星花は黒い影に飲み込まれてしまった。
彼女を救うにはどうしたらいいのか?拓は本山へ出向き、星史郎に会った。
「神器を作ってそれで祓うしかない」
「神器?どうすれば手に入りますか?」
「プラチナとかパラジウムの鉱石を探さなきゃならない」
「どこにありますか?」
「君は……」
値踏みするように星史郎は拓を見た。
「本当に星花を救いたいのかね?」
「なぜですか?」
「星花がいなければ、君は自由になれる」
ぞわ。拓の全身の毛が逆立った。
自由に?それはとても甘美な響きだった。だが、自由になったが最後、拓の負のエネルギーはとき放たれ、追われることになる。
「俺は、星花の付き人ですから」
乾いた声だった。
星史郎はふむ、と呟くと、パラジウムの鉱石がある場所を拓に教えた。
「鉱石を手に入れるためには、闘わなければならない」
「闘う?誰と?」
「鉱石の守護者と。そしてひいてはおのれ自身と」
自分と闘う?上等だ。拓はすぐさま鉱山へ向かった。
「何者だ」
誰何の声がした。
「俺は拓。大事な人を救うためにパラジウムの鉱石を手に入れにきた」
「我々と闘って勝ったなら、いくらでももってゆくが良い」
大入道が数体現れた。
拓は屋久杉で作られた数珠を片手に、呪文を唱えた。
「なかなかやるな。ではこれはどうだ?」
拓は幻覚の中に投じられた。欲望が暴走しそうになる。殺戮したい、暴食したい、蹂躙したい、それらの欲望が膨れあがりそうになったとき、拓は星花のことを想った。
やがて静寂が彼を包んだ。
「そんなに本気で想うひとがいるのか?」
「ああ」
「その者がいなくなる時、お前はコントロールを失うだろう」
そうだな、と拓は合点がいった。
「パラジウムの鉱石は?」
「もってゆくが良い」
これで星花を救うことができる。拓はいそいそと星史郎の元へ急いだ。
「よくやった」
星史郎はそう言うと、パラジウム製の神器を生成した。拓はその神器を持って星花を救いに向かった。
「待ってろよ、星花」
その声は風に乗って囚われの星花の元へ届いた。