ホテル従業員の話
「なあ…秋元」
「何スか?」
ホテルの従業員休憩室で、おにぎりをかぶりつく秋元に、先輩の鈴木が声を掛けた。
「1232号室…誰か居たか?」
「えー…と…」
秋元は記憶を辿り、おにぎりを咀嚼する。
煙草を吹かしながら、鈴木はコーヒーを啜った。
「俺が知る限りは…
あの部屋にお客様を通した覚え無いっすね。
他の奴等だと分かんねーッスけど。
受付に鍵確認すればいーんじゃないスカ?」
「…そうだな。
それが確実だよな。
サンキュ」
「なんかあるんすか?
先輩?おーい」
鈴木は消臭スプレーを体に吹き付けると、口を濯いで出て行った。
受付の女の子に声を掛けると鍵を確認して貰う。
「え〜…その部屋…
使用者はいない筈よ?
何かあったの?
あ、ほら鍵…」
1232号室の鍵がある。
本当に客は居ないらしい。
じゃあ、なんで…
ドアが閉まった様に見えて、藤堂寺の親父さんがそこに居たんだろう…?
「…あ、怖くなって来た…。
俺、疲れてんだな、な?和美ちゃん」
「へ?」
苦笑いで、ヒラヒラと手を振り、鈴木は仕事に戻った。
どんなホテルにも、幽霊話の一つや二つある物だ。
テレビや漫画で、お札の見つけ方なんかを書かれてからは、見つけにくい所に隠してあったりしてるホテル側も結構ある。
実際、このホテルにだって曰く部屋は存在する。
幽霊を信じちゃ居ないが、怖いもんは怖い。
「今日は飲んで帰ろ」
独り言を言うと、鈴木は営業スマイルでお客に声を掛けた。