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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

殺されるのは御免ですので、偽った上で籠城したいのですが?

「ヤバい・・・これが噂の悪役転生ってやつか」


 頭を打った訳でも、高熱に苛まれた訳でもない。朝起きて、鏡を見たら前世の記憶を思い出した。鏡に映る可憐な少女・・・将来は美女になるであろう姿を知っている。


「『タラントン王国物語』のラスボス。デスピナ・タラントンだし・・・」


 前世に読んでいたライトノベルの登場人物紹介のページや挿絵で見た顔を幼くした姿が鏡に映っていた。


 『タラントン王国物語』は、その名の通りタラントン王国を舞台とした話である。魔法は無いが、魔物がいる世界。特殊な『能力』を持つ国王が治めるタラントン王国。魔物対策のための『能力』を、自分のためにしか使わない女王デスピナは圧政を敷き悪逆非道の限りを尽くしていた。ちなみに、デスピナの能力は『結界』である。


 反乱軍の後方支援部隊で看護を担当していた主人公のソフィアは、ある日『治癒』の能力に目覚める。実はソフィアはデスピナの妹で2年前まで王家の緑の塔に幽閉されていた。乳兄弟であるアドニスに助けられ隠れるように生きていたが、姉の圧政に心を痛め、アドニスと共に反乱軍に参加していた。


 能力の開花により王女であったことが明るみに出たソフィアは、反乱軍のリーダーであるゼノンによって反乱軍の旗印とされてしまう。姉であるデスピナと直接対峙することになったソフィアは、始めこそ消極的だったが段々とカリスマ性を身に着ける。

 

 王国の宰相でありデスピナの片腕であるロマーノと交渉し、デスピナを能力が無効化される『緑の塔』に呼び出すことに成功。ついにデスピナを倒し、新しい女王として即位するところで物語は終わる。


「好きだったよ?何回も繰り返し読んだよ?それこそ夢にみるくらい・・・」


 頬を抓ってみるが、痛みを感じる。うん。夢じゃない。


「落ち着け。私はまだ能力も無い、女王でもない、ただの子供。死亡フラグは立ってないハズ」


 王位に就くのは能力が開花した王族だけ。ならば、能力が開花しても知らないふりをしていれば女王にならないから死亡回避?


「あ、デスピナって王妃に暗殺されそうになったから人間不信になったんだっけ?」


 即位前にも死の可能性があるのかよ・・・。えっと、王妃視点の短編があったんだよね。確か、国王が亡くなってからデスピナが即位するまでの間の話。

 

 高慢な性格のデスピナが王位に就くことを憂いていた王妃。ある日、デスピナが『結界』を使ってソフィアを弾き飛ばし、怪我させる姿を目撃する。デスピナがソフィアを殺すと思った王妃はデスピナの暗殺を決意する。


 王妃はデスピナをお茶に誘った。紅茶には毒が入っている。デスピナが紅茶を飲むが何も起こらない。毒を入れたカップを間違えたのかと思って紅茶に口を付けないでいると、デスピナに飲まないのか聞かれる。返答に困っていると、デスピナが「自分の飲んでいた紅茶なら安心だろう」とカップを渡してくる。飲まないのも不自然だと思い紅茶を飲み込むと、喉が焼ける様に熱くなり血を吐いた。その様子を無感動に見つめるデスピナ。実はデスピナは自身の体内に『結界』を張って毒が吸収されないようにしていたのだった。「やっぱり母上はソフィアが大事なのね」王妃が最後に聞いた言葉だった。


 病弱なソフィアにばかり構う王妃に寂しい思いをしていたデスピナ。その寂しさが高慢な性格に拍車をかけていた。王妃がお茶に誘ってくれて嬉しかった。しかし、普段とは違う王妃に不信感を抱き、無意識に『結界』を使っていた。結果は目の前の状況。もう誰も信じられない。『能力』は自分のために使おう。デスピナは、ソフィアを『能力』が無効化される緑の塔へ幽閉するよう命じる。決して『能力』が目覚めないように・・・と。


「能力なしだと思われてればセーフ?いや、ソフィアを可愛がっていることに変わりはない。デスピナを暗殺する可能性は否定しきれない」


 前世の記憶を思い出したから人格は前世寄りになっているけど、デスピナの10歳までの記憶や寂しさが消えたわけではない。そう、デスピナの記憶・・・。


「あ、父上まだ生きてる」


 国王が死ぬ正確な日時は知らないが、とりあえず現状は生きている。


「父上が死ななければ即位はなし。父上は平等な方だからソフィアを贔屓しないし・・・」


 国王が死なないようにすれば良いのでは?でもどうやって?


「えっと、父上の死因は魔物討伐の時に、能力の『防壁』の範囲外だった足元からの攻撃の所為だっけ」 


 デスピナの『結界』ほど融通が利かないんだよね。『結界』は全方向展開の上に、体内まで張れるから。


「一緒に討伐に行って『結界』を・・・ダメだ。まだ能力が無いんだった。そもそもデスピナの能力って、いつから使えるようになったんだろう?父上の死後なら意味無いし・・・。そもそも、娘を討伐に連れて行ってくれるかな?」


 足元からの攻撃に気を付けてとお願いする?いや、意味が分からない。何故って話になるよね。


「娘とは云え、信用してくれるか分からないし。気を付けて貰っても避けられるとは限らないし・・・」


 自分の前に父親の死亡フラグ回避とか無理ゲーなんですが。


「忠告する・・・信用してもらう・・・あ!」


 突飛な考えを思いついてしまった。私はまだ『結界』の能力に目覚めていない。だから能力を偽ることも出来るのでは!?


「例えば『予知』とか・・・」


 原作は番外編まで読み込んでいるから、原作前のことも分かる。


「完璧な『予知』である必要もないよね・・・?」


 よし!気合を入れた私は頭の中でシミュレーションを開始した。


 国王一家は基本的に夕食を一緒に取る。ただ、この頃のソフィアは病弱なために来ることが少ない。母である王妃はソフィアに付き添うため、ソフィアの部屋に夕食を運ばせる。予想通り、国王とデスピナだけの夕食になった。もちろん、給仕は居るけどね。私は仕掛けることにした。


「あの、父上にお伝えしたいことがあります」

「伝えたいこと?」

「はい。あの、西の森でスタンピードが起こります」

「スタンピードが・・・?」

「えっと、いつかとかはよく分からないです。でも、森の中に木の実が沢山あるので秋頃かなって・・・」


 今は夏の終わり。秋のスタンピードを上手く収めたことも、国王の油断に繋がっていたはず。


「デスピナは、何故スタンピードが起こると分かるのかな?」

「・・・夢?でも寝てない時も見ます」

「そうか・・・もしかしたらデスピナの能力かもしれないね。分かった。西の森の部隊に警戒させよう」

「ありがとうございます」


 思ったよりスムーズに進んだ。能力が目覚める王族だからこそ、可能性を信じて貰えた気がする。取りあえず、第一段階終了。


 季節は秋になった。西の森を見回っていた部隊から、孵化寸前の魔物の卵が大量に見つかったと報告があったと知らされたのは、珍しく体調の良いソフィアと王妃も揃っての夕食時だった。


「孵化した魔物がスタンピードを起こすことになったのか、孵化したての魔物を狙った別の魔物が来ることによってのスタンピードが起こる予定だったのかは分からないが、未然に防ぐことが出来たのはデスピナのお陰だよ」


 国王が優しく微笑む。王妃は微笑んでいるが目の奥が複雑そうだ。ソフィアはニコニコしている。


「父上のお役に立てたなら嬉しいです」


 これで私の『能力』だと誤解してくれたことだろう。だから、次の一手だ!


「あの、父上。また夢?を見ました。とても怖い夢・・・」

「どんな夢だい?」

「あの、父上が・・・魔物討伐で・・・」


 言葉を区切って俯く。演技派女優デスピナ熱演中である。


「私が?」

「あの・・・足の下から魔物が飛び出してきて、父上が・・・!!!」


 もう話していられないとばかりに泣き出す。


「デスピナ・・・!辛かったら言わなくても良いのだよ?」

「いいえ。大丈夫です・・・うぇ~ん!父上、死なないで~!」


 やっぱり我慢しきれなったかのように泣きわめく。


「魔物討伐に行っちゃダメ!父上が死んじゃう~!!」


 私につられてソフィアも泣き出す。王妃がソフィアに駆け寄るのが分かった。本当にデスピナ可哀想。


「絶対、魔物討伐に行かないで!デスピナと約束して!!」

「分かったよデスピナ。約束するよ」

「本当?」

「本当だとも」


 これで国王の死亡フラグ回避できたかな?ナプキンで涙を拭きながら口角が上がるのを隠した。


 後日、私は国王に呼ばれて魔物討伐の会議に出席していた。何故か、国王の膝の上に乗せられている。


「デスピナ。ここにいる者たちに、デスピナが見た夢の話をしてくれるかな」

「父上の夢?」

「ああ。詳しく話して欲しい。周りの景色とか・・・」

 

 私は魔物討伐部隊のお偉いさん達を前に、演技力と記憶力を試されることになった。


「空は曇ってて寒そう。森じゃなくて草原みたいに広いところ。前から魔物の群れ・・・30頭くらい?が走ってくる。父上の『防壁』で止まったんだけど、地面が揺れたと思ったら、父上の足の下から魔物の爪が伸びてきて・・・!」


 もう言葉に出来ないとばかりに口をつぐむ。


「デスピナありがとう。もう少し頑張れるかい?」

「はい・・・」

「この本の中に、夢で見た魔物は居るかい?」


 魔物の辞典のような分厚い本を渡される。


「えっと、前から来たのはコレ・・・爪は・・・コレ?」


 指し示した絵を見て、髭の立派なオジサマが頷いた。


「鉄牛と高速土竜ですな。鉄牛は群れで移動する魔物ですから、王国の方へ向かって来ていれば討伐対象です。草原・・・ケンロー高原かもしれません。あそこなら高速土竜の生息地も近い」


 髭のオジサマより若そうな男性が続ける。

 

「鉄牛の足音に驚いた高速土竜が高原に来て下から攻撃してくる・・・ということでしょうか?」

「その可能性が高いな」


 段々と戦いの専門的な話になっていく。目を白黒させていることに気が付いた国王が、私を膝の上から下した。


「デスピナ。本当にありがとう。お前は私の誇りだよ。素晴らしい『能力』だ」


 嘘の能力なんだけどね。後ろめたい気持ちもあるけど、命を助けるからチャラにしてください。 


 私が『予知』した魔物討伐は念のためにと国王抜きで行われた。怪我人も出なかった。そして、国王が死ななかったことにより、私の即位は無くなった。しかし、私が能力に目覚めたことになっているため、次代の女王としてお披露目されることになってしまった。


「これって死亡フラグ回避しきれてないよね?」


 鏡に映る、豪奢なドレスに身を包んだ自分に語りかける。


「父上の死亡フラグ回避は成功したのに、このままお披露目されたら母上に暗殺されるかも・・・」


 死にたくない。殺されたくない。母上に殺されるなんて・・・そんな可哀想な自分は嫌だと心の中でデスピナが叫んでいる。


「仕方ない。名女優デスピナの出演決定」


 鏡の中の自分に頷く。いざ、舞台上へ!


 お披露目は大広間で行われる。国中の主だった貴族が集まっている。私は国王・王妃・ソフィアと共に入場待ちだ。


「緊張してるかい?」

「大丈夫です。父上」

「立派な子だ。さあ、行こう」


 扉が開く。会場中の視線がこちらに集まったのを感じる。国王の後ろに私、私の後ろにはソフィアの手を引いた王妃が続いた。


 玉座に国王が座る。私と王妃とソフィアは国王の後ろに控える。国王が口を開いた。


「皆、よく集まってくれた。今日は我が娘、デスピナ王女が能力に目覚めたことをここに知らせる。能力は『予知』。デスピナ王女はこの能力を持って、王国を守って行くだろう」


 会場中から拍手された。嘘なんです。ごめんなさい。そして、これからのことも先に謝ります。


「デスピナ。皆に言うことがあるそうだな」

「はい。父上。私が『予知』した未来を元に言いたいことがあります」

「さあ、前においで」


 国王の前に出る。貴族たちから期待した目で見られる。


「私は・・・私デスピナは、1週間後に緑の塔へ向かいます。そして、死ぬまで外に出ません!」

「デスピナ!?」


 国王が思わず立ち上がった。貴族たちも困惑したように騒めいている。


「1週間以内に出来る限りの『予知』をします。そして、塔に入り能力を封印します」

「デスピナ!何を言っているのだ!」


 国王の方に体を向ける。


「父上、このまま私が居ると王国が荒れます」

「何!?」

「私が塔に入ることによって、王国は安定するのです」


 女優デスピナはここで涙を流す。


「塔の中で、王国の安寧をお祈り申し上げます」

「泣かないでくれデスピナ。何故王国が荒れるのか、それも『予知』しているのかい?」

「はい」

「教えておくれ」

「ここでは・・・こんなに多くの人の前では・・・」

「誰もお前を責めたりしない」

「でも・・・」

「さあ」


 意を決したかのように顔を上げる。


「私は母上に殺されそうになります」

「何だと・・・!」

「理由はソフィアが能力に目覚めるからです。本来なら、父上は高速土竜に・・・そして私が即位するはずでした。でも、ソフィアが能力に目覚め、ソフィアこそ女王に相応しいと母上が私を殺そうと・・・私は城の外へ逃げました。でも、逃げた私を探すために母上は村々に火を放ち、国が荒れるのです」


 王女としては褒められたことではないが、ここで国王に抱き着く。


「父上は生きていらっしゃいます。でも、私は母上が怖い!ソフィアが能力に目覚めたら、母上は私を殺そうとするでしょう!!でも、逃げたら国が・・・だから、私を緑の塔へやって下さい!」


 会場中に聞こえる声で言い切った。死を恐れる子供らしく、国を思う王女らしく。王妃を悪者にしたのは、ちょっとした復讐心。ソフィアばかり可愛がる王妃への仕返し。これくらい良いよね?だって、これから私は緑の塔に入って、王妃の望み通りソフィアが女王になるのだから。


 国王の手が私の背中に回った。労わるように撫でられる。


「デスピナ・・・辛かったろう。お前の苦しみが分からなかった父上を許しおくれ」

「父上は何も悪くありません。悪いのはデスピナです。生まれてきたデスピナなのです」

「そんな・・・そんなことを言わないでおくれ」


 会場からもすすり泣くような声が聞こえる。自分の身を犠牲にしてまで国を守ろうとする少女に同情するよね。もっと同情しておくれ!そして緑の塔まで差し入れをお願いします。


「私は国王として、次代の女王はデスピナ以外にあり得ないと考える。皆も、よくデスピナに尽くしてくれ!」


 ・・・え?


 会場からは割れんばかりの拍手と「デスピナ王女万歳」の声が聞こえる。え、待って?


「デスピナ。国を思うお前の気持ちは伝わったよ。大丈夫だ。全て父上に任せなさい」


 私の頭の中が大混乱のまま、お披露目会は終わった。 


 王妃は実家の公爵家へ帰されることになった。ソフィアばかりを優先する王妃の姿に、国王も思うところがあったそうだ。なんだかんだで王妃に甘い国王のことだから、私が緑の塔に行くことに賛成すると思ってたのに計算外だ。それに『予知』は実際に起こった出来事ではない。まだ王妃を罰する理由は無いのだ。だから実家に帰されるだけだったとも言える。


 ソフィアは王宮に残った。私がソフィアに『能力』が目覚めることを『予知』したためだ。王妃と離れて寂しそうだが、私の中のデスピナは少し喜んでいる。これが『ざまぁ』感だろうか?でも、これからは仲良くしてあげたい。せっかくの姉妹なんだし。


 問題は・・・。


「どうしよう。これから『予知』できることある?どう考えても原作からズレたよね?」


 今日も私は鏡に向かって相談するのであった。

面白いと思って下さる方がいらっしゃたら、連載にしたいと思っているような・・・。

王国を巻き込んだデスピナ快進撃にしたいです。

続きを・・・という奇特な方がいらっしゃたら感想ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きが読みたい奇特な者ですw
[一言]  逆に見た自分の死にざままで創作しちゃえば?  その時ともにいた架空の人物が昔の王族が種ばらまきまくった庶子の末で『伝達』の能力を持ち、死の寸前に過去の主人公に『伝達』したとか・・・いや女主…
[一言] 短編は短編で終わるからいいので、続きはどうでもいいや
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