7#作り笑い。
日が落ちる前に小屋に戻って来た。
小屋に入る前に、テイトはもう暫くこの村に滞在して始祖の手掛かりを探したいとナルに話す。
手持ちの金子も僅かなテイトは、野宿をしながらと考えていたが、ナルはこのまま小屋に居てくれて良いと言う。
「お気持ちは嬉しいのですが…ナルさんのような一人暮らしの女性が、余所者の男を自宅に招き入れているというのは…本当は良い事では無いのですよ?」
幼い少女ゆえに、世間知らずなのかも知れない。
しかし、誰かが教えなければ、いつか悲惨な事態が起こりかねない。
村に住む住人たちは、ナルのその身に起こり得る危険な可能性についてナルに教えたりしないのだろうか?
「私は………テイトさんが思っているような…」
「思っているような…?」
ナルは黙りこくってしまった。
少し俯き、小さな赤い唇を少し噛んでいる。
「なっちゃん、ちょっと」
小屋の前でナルと話していると、ほっかむりの女、ラナが現れた。
「ごめんなさい、テイトさん…」
ナルは頭を下げると、ラナと二人でテイトから距離を取る。
余所者には聞かせたくない話しなのかも知れない。
だが、僅かな物音や気配を探る訓練を受けてきたテイトには、二人の会話が部分的に耳に届いてしまった。
「……ジェフが見たと……間違い無く……今夜ではないかと……」
「…そう……だったらテイトさん……村から出せないわ…」
「ジェンはもう若くないから……………殺しますよ…」
途切れ途切れに聞こえた会話に、戦慄が走る。
何の会話だ?俺を村から出せない?
ジェン、あの年配の男性…ラナは、自分の夫を殺すつもりなのか?
そこにナルが、どう関わっている?
ラナと会話を済ませたナルは、テイトのもとに戻って来た。
「とにかく、今日はもう暗くなるので…泊まって下さい…。」
ナルはテイトと目を合わせようとしない。
古城に行くまでは楽しそうにしていた、笑顔の可愛いナルは居なかった。
何かを思い詰めたような、悲しげな表情をしている。
「……では、御言葉に甘えて……」
テイトは作り笑いを浮かべる。
ナルとラナの、先ほどの会話の真意を確かめる必要がある。
テイトはクルースニク。バンパイアハンターだが、それ以前に一人の戦士でもある。
自分に害を及ぼす可能性のある物は、バンパイアで無くとも排除する。
この、不自然な村の、不自然な住人たち。
吸血鬼の始祖が関わっていようが、いまいが、この村の真実とやらを確かめる必要がある。