6#いざ、古城へ
朝日が眩しい。
目が覚めたら同じベッドにナルが潜り込んでいて…
なんて事は無かった。
いつ、どこで寝たのか分からないが、テイトが目を覚ました時にはもう、ナルは朝の食事の用意をしていた。
テーブルの上にはパンと果実のジャム、トマトがメインのサラダとプレーンオムレツ。
そして、テーブルの脇に荷物があり野菜を挟んだサンドがあった。
「おはようございます、ナルさん。」
「あ、おはようございます!テイトさん」
振り返って溢れんばかりの笑顔を向けるナル。
これ、もう新婚生活と変わらなくね?新妻って、こんなじゃね?おはようのチューとか、チューからそのまま朝からイチャイチャとか有りじゃね?朝ごはんより先にお前が食べたいよハニーとか。
「あの……テイトさん…?疲れ、取れてません?」
心配そうに顔を覗き込むナルに、ハッとする。
「すみません、少し寝ぼけてしまったみたいで…はは」
昨夜、暗がりで見たナルの裸体を思い出す。
ハッキリと見れた訳ではないのだが、暗闇に白く浮かび上がる儚い妖精のような小さな身体…。
駄目だ、思い出しちゃイカン。
「朝ごはん食べましたら、古城に案内致しますね。お弁当も用意したので」
フワリと優しい笑みを浮かべ、テーブルに温めたミルクを置く。
「では、いただきます。」
テイトはテーブルにつき、ナルと向かい合って朝食を取った。
朝食を済ませると、古城に向かう準備をする。
今から向かえば、昼前には古城に着くとの事。
万が一、吸血鬼が潜んでいるならば陽の出ている内に倒してしまう事が出来る。
ナルを危険な目に遭わせずに屠る事が出来るならばと、テイトは準備に余念がない。
ナルの小屋から、村とは反対の方向へ道を進んで行く。
ナルは、途中途中で山菜らしき物や、木の実等を採ってカバンに入れていく。
「この実は、ちょっと酸っぱいんですけど蜂蜜と合わせると美味しくなるんですよ」
ナルは楽しそうだ。
テイトは、今さらながらナルという少女の存在を不思議に思う。
まだ幼い少女でありながら、なぜ一人で暮らしているのか。
古城の所有者であるのはなぜか。
昨夜、泊めてもらった時に部屋の中を見回したが、過去に誰かと住んでいた形跡は一切無かった。
最初から天涯孤独の身の上ならば、尚更古城の所有者である理由が分からない。
「着きましたよ。」
古城は、思った以上に古く傷みが激しく、所々崩れかけている。
「損壊が激しいので、入れるのはドアを開けてすぐのエントランスだけなんですけど…」
ナルが両開きの扉を開けると、中央に大きな階段があった。
その階段の踊り場に、大きな絵の掛かっていた跡がある。
「ここには当主の絵か何かあったんですかね?」
「ええ…でも、いつの間にか、盗られてましたの…。」
ナルはさして気にする様子は無く、エントランスの脇で何か作業を始めた。
テイトがナルの手元を覗き込む。
ドライフルーツを集めていた。
よくよく辺りを見ると、あちこちに農機具があり、野菜の入った箱があったりと、倉庫として使っているようだ。
階段は崩れており、2階には行けそうもない。
地下に続くらしき階段も瓦礫に埋まってしまっている。
吸血鬼が潜む場所は見当たらないようだ。
教会から、この付近にバンパイアの始祖が潜んでいると言われたが、この古城以外に潜んでいそうな場所が思い当たらない。
「…何か、見つかりました?」
ナルがテイトに尋ねる。
「いえ、特になにも…。」
ナルと目が合う。
ナルは、眉尻を下げて申し訳無さげな、少し悲しげな表情をした。