18#吸血鬼と教典
つまらんのぅと呟きながら、酒をチビチビ飲むジェンを無視してテイトが尋ねる。
「俺が聞きたいのは…俺達、クルースニクが教典によって知らされている吸血鬼と、ナル達があまりに違い過ぎる事…いや、実際に教典に記されているような吸血鬼を俺は倒しましたよ?銀の武器で…。」
「わしもだ、だから銀の刃を受けて死なないラナに会った時に混乱した…。そして、ラナ達がわしを助けに来たのは日中でな…太陽の下を平然と歩くラナ達に、太陽の光は神の息吹きだから罪深き吸血鬼にとっては神罰だという記述に疑問を抱いた…。」
ジェンが真剣な顔で語る。先ほどまでの、酔っぱらいノロケジジイではなかった。
「ラナ達は、ナル様を護る兵士だから、一切の命を…とは言えないかも知れんが、「人間」は一人たりとも殺していない。」
ジェンの告白に驚いたテイトは、引き攣った笑いを浮かべる。
「誰も殺してない?ウソでしょう?ジェンが知らないだけなんじゃ…」
「自身の身を守る必要のないラナ達は、我が身可愛さに嘘をつく必要がない。だから、嘘をついた事もない。……そういう生き物だ。」
気が遠くなる気がした。
ナル達を吸血鬼と呼ぶなら、今まで倒してきた吸血鬼とは?
まったく別の生き物ではないのか?
「わしは…ラナが、教典に書かれている吸血鬼と別物で良かったと思っておる…だが、吸血鬼に噛まれたら吸血鬼の仲間になれると思い込み、わしはラナに無理矢理わしの首に牙を立てさせた。」
ああ、教典を鵜呑みにしたから……。
「ラナ達は血を飲むが、人の肌に牙を立て吸血行為をする訳ではない。互いに同意の上で肌の一部を傷付け、そこから流れる血を僅かに口に含む程度なんじゃ。…なのに、わしはラナに無茶をさせてしもうた。」
ラナの為に吸血鬼になりたいと思ったジェン。
その思いに応えて、無理矢理血を吸おうとしたラナ。
そして、迎えた老いという残酷な結果。
教典って何だ?俺達に何をさせたい?
「どこまでが真実なのか…わからないじゃないですか…。」
「あるいは、全部嘘かも知れん。…だからこそ、気になるのが、わしらがクルースニクとして倒した吸血鬼ども…教典の内容を肯定させる為に作られたような気がしてならん。」
何だか胸の奥が気持ち悪い。
教典を書いたのは初代教皇。
人間の教皇が、教典に書かれているような吸血鬼を作った?そんな馬鹿な事…。
「なっちゃんは、何かを知っとるようだの…」
「姉がいるって言ってましたね…って、姉が始祖??え?」
ちょっと、こんがらがってきた。
「姉は吸血鬼ではありませんよ。」
なっちゃん爆弾発言。
「吸血鬼の始祖の姉が吸血鬼じゃないって、どーゆー事!?」
詳しく教えて欲しい!そこんところ!
「…駄目です…姉の話をすると…姉にバレるんです。」
????意味が分からん。近くに居るの?でも探して旅に出るって言ってたよね?
「姉は…兄から逃げていて…だから私からも見つかりたくないみたいで…」
ジェンは考える事を諦めたようだ。膝にラナを乗せて酒を飲み始めた。
「なっちゃん、ごめん…意味が分からない…さりげなく、兄が居るって言ったね…?で、お兄さんは吸血鬼の始祖…」
「兄は吸血鬼ではありません。」
ほらね!また意味不明な事案が増えたよ!