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12/18

12#吸血鬼に守られて。

納屋に連れて来られたテイトは、虚ろな目をしたままポツリと呟いた。


「俺を殺しておかないと…また、ナルを殺しに来る…」


「ほう、これまた何で、なっちゃんを殺しに来る?なっちゃん、お前さんに何かしたか?」


ジェンは納屋にある藁の山の上に寝転がり、欠伸をしながら話す。


「ナルは、吸血鬼だから…」

「ほー吸血鬼だと殺すんかい?へーまた何で?」


ジェンのいい加減な態度にイラついたテイトは、声をあげる。

「吸血鬼は人間の敵だからだ!教典にもそう書いてある!あいつらは人間を平気で殺す!」


「お前は、たわけ者だな!さっきまで見ていた事実を全て無視するのか!村の人間を殺そうとしていたクドゥー・ラクの奴等は人間、奴等の仲間を殺したわしも人間!なっちゃんやラナは吸血鬼だが、誰か殺したか?お前は何を見とったんだ!」


初めて畑で出会った時の田舎のじいさんだったジェンは、そこにはいなかった。

鋭い眼光に、威風堂々とした出で立ち、それはまるで一人の戦士のようだった。


「第一な、任務を失敗した時点で、クルースニクは処刑される。知っていたか?」


「……処刑?」


テイトは馬鹿馬鹿しいとでも言うように顔を横に向ける。


「任務に失敗して教会に戻ったヤツを見た事はあるか?教会はな、失敗した奴等は汚点として消すんだよ。聖なる神の加護があるクルースニクは、絶対失敗しないんだと。」


「…そんな事あるわけがない」


言葉少なく否定していくテイトを無視して、ジェンは話しを続けていく。


「だいたい、お前の言う教典とやらは誰が書いた?神じゃあるまい、人間だろうが。教典に書かれている事の、どこまでが真実か分かるのか?吸血鬼の弱点は?あんなもん、人間側に都合良くしか書かれておらん!」


「それでも…吸血鬼は人を殺す…血を吸って仲間を増やす…」


「血を吸われて吸血鬼になれるなら、わしなどとうの昔になっとるわ!」


ジェンは、首にある牙の痕を見せる。

その古い傷跡は、まさしく吸血鬼の牙の痕…。

テイトの虚ろな目が、驚きの目に変わる。


「わしも…クルースニクだった…なっちゃんを殺しに来て失敗し、教会に帰る途中で教会の暗殺部隊に殺されかけた…。」


「あんたが…クルースニク?はは」


「信じなくてもいいわい、ただ、わしを殺しに来た教会の奴等は人間で、わしを助けたのはラナ達吸血鬼だ。」


テイトはポロポロと涙をこぼし始めた。


元々が教典に不信感を抱いていたテイトは、ジェンの話す教会の姿についてもさほど驚きはしない。


ただ、ただ、、ジェンを助けたのが吸血鬼だと。


そう聞いた時に、古城に向かう前のナルの呟きを思い出した。


『彼がいたら…彼が、真っ先に命を狙われてしまう。それは…イヤ…。』



「ナルが……俺を村から出せないと…あいつらに命を狙われると…」


ジェンが呆れたように、泣きながら呟くテイトの肩をバンバンと強く叩く。


「お前、なっちゃんに好かれとるのぅ。クドゥー・ラクの奴等はな、始祖を崇拝しておるからな、それを狩ろうとするクルースニクは天敵でな…奴等はクルースニクを如何に残酷に殺せるかを武勇伝にしとる。背中の皮一枚残して肉片にされたクルースニクが山ほどおるわ。」


クルースニクの背には、コートと同じく赤い十字架が彫られている。そこには当人の名前も。


「お前さん、有名らしいの。その目立つ風貌、真っ先に群がられるわ。なっちゃん、お前を守りたかったみたいだの。」


涙が止まらないテイトは、後ろ手に縛られているため涙を拭えない。


流れ落ちた涙がテイトの膝に落ち、クルースニクの白いコートに涙の染みを作っていく。



「なっちゃんに……なっちゃんに会いたい!」


叫ぶように、懇願するテイトに、ジェンは笑いながら背中を何度も叩いた。






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