12#吸血鬼に守られて。
納屋に連れて来られたテイトは、虚ろな目をしたままポツリと呟いた。
「俺を殺しておかないと…また、ナルを殺しに来る…」
「ほう、これまた何で、なっちゃんを殺しに来る?なっちゃん、お前さんに何かしたか?」
ジェンは納屋にある藁の山の上に寝転がり、欠伸をしながら話す。
「ナルは、吸血鬼だから…」
「ほー吸血鬼だと殺すんかい?へーまた何で?」
ジェンのいい加減な態度にイラついたテイトは、声をあげる。
「吸血鬼は人間の敵だからだ!教典にもそう書いてある!あいつらは人間を平気で殺す!」
「お前は、たわけ者だな!さっきまで見ていた事実を全て無視するのか!村の人間を殺そうとしていたクドゥー・ラクの奴等は人間、奴等の仲間を殺したわしも人間!なっちゃんやラナは吸血鬼だが、誰か殺したか?お前は何を見とったんだ!」
初めて畑で出会った時の田舎のじいさんだったジェンは、そこにはいなかった。
鋭い眼光に、威風堂々とした出で立ち、それはまるで一人の戦士のようだった。
「第一な、任務を失敗した時点で、クルースニクは処刑される。知っていたか?」
「……処刑?」
テイトは馬鹿馬鹿しいとでも言うように顔を横に向ける。
「任務に失敗して教会に戻ったヤツを見た事はあるか?教会はな、失敗した奴等は汚点として消すんだよ。聖なる神の加護があるクルースニクは、絶対失敗しないんだと。」
「…そんな事あるわけがない」
言葉少なく否定していくテイトを無視して、ジェンは話しを続けていく。
「だいたい、お前の言う教典とやらは誰が書いた?神じゃあるまい、人間だろうが。教典に書かれている事の、どこまでが真実か分かるのか?吸血鬼の弱点は?あんなもん、人間側に都合良くしか書かれておらん!」
「それでも…吸血鬼は人を殺す…血を吸って仲間を増やす…」
「血を吸われて吸血鬼になれるなら、わしなどとうの昔になっとるわ!」
ジェンは、首にある牙の痕を見せる。
その古い傷跡は、まさしく吸血鬼の牙の痕…。
テイトの虚ろな目が、驚きの目に変わる。
「わしも…クルースニクだった…なっちゃんを殺しに来て失敗し、教会に帰る途中で教会の暗殺部隊に殺されかけた…。」
「あんたが…クルースニク?はは」
「信じなくてもいいわい、ただ、わしを殺しに来た教会の奴等は人間で、わしを助けたのはラナ達吸血鬼だ。」
テイトはポロポロと涙をこぼし始めた。
元々が教典に不信感を抱いていたテイトは、ジェンの話す教会の姿についてもさほど驚きはしない。
ただ、ただ、、ジェンを助けたのが吸血鬼だと。
そう聞いた時に、古城に向かう前のナルの呟きを思い出した。
『彼がいたら…彼が、真っ先に命を狙われてしまう。それは…イヤ…。』
「ナルが……俺を村から出せないと…あいつらに命を狙われると…」
ジェンが呆れたように、泣きながら呟くテイトの肩をバンバンと強く叩く。
「お前、なっちゃんに好かれとるのぅ。クドゥー・ラクの奴等はな、始祖を崇拝しておるからな、それを狩ろうとするクルースニクは天敵でな…奴等はクルースニクを如何に残酷に殺せるかを武勇伝にしとる。背中の皮一枚残して肉片にされたクルースニクが山ほどおるわ。」
クルースニクの背には、コートと同じく赤い十字架が彫られている。そこには当人の名前も。
「お前さん、有名らしいの。その目立つ風貌、真っ先に群がられるわ。なっちゃん、お前を守りたかったみたいだの。」
涙が止まらないテイトは、後ろ手に縛られているため涙を拭えない。
流れ落ちた涙がテイトの膝に落ち、クルースニクの白いコートに涙の染みを作っていく。
「なっちゃんに……なっちゃんに会いたい!」
叫ぶように、懇願するテイトに、ジェンは笑いながら背中を何度も叩いた。




