10#貫くレイピア。
ナルを抱いたラナ達が村に入る。
村に着いたテイトは物陰に身を潜めながらラナ達の様子を窺う。
村の入り口には、村の住人らしき男達が武器を手にして立っていた。
足下に数人倒れているようだ。ラナは慌てたようにジェンに駆け寄る。
「ジェン!無事なの?…やはり、クドゥー・ラクの…」
「ああ、別部隊だな。村の子供たちを人質にでもするつもりだったんだろう……わしは優しくないからな、死んで貰ったよ」
血の滴る剣を背に隠すようにして、ジェンはラナの腕にいるナルに頭を下げる。
「なっちゃんには、すまんが…これは、人としての事だからな、目をつむってくれ。」
ナルはラナの腕の中で俯いた。
そして、ラナの腕から降りて自らの脚で立つ。
そして、隠れていたテイトの方を見る。
テイトは白いロングコート姿に、レイピアを手にして皆の前に現れた。
「テイトさん……」
驚きもしない、ナルの瞳が物語る。
最初から、テイトに全て見られていた事も、全て聞かれていた事も知っていたのだと。
「ナル、お前の前での俺は、さぞ滑稽で無様だったのだろうな。笑えたか?」
ナルは目を逸らさない。
だが、辛そうに赤い瞳を潤ませ、唇を噛み締めている。
言い訳も弁明もしない。
ただ、テイトに言われるがままに、その言葉を逃げずに受け止める。
「目の前に、標的がいるのにも気付かずに、のんきに飯を食って寝て笑って!さぞ、間抜けなヤツだと思っただろうよ!」
「お前っ…!ふざけるな…!ナル様はお前を…!」
声をあげたのはラナだった、ナルは手の平をラナに向け、その声を制止する。
テイトは手にしたレイピアを構える。
「なあ、何とか言ったらどうなんだ?もう、俺と口をきくのも馬鹿馬鹿しいのか?ナル。」
ナルは何も言わない。涙ぐみながら、それでもテイトから目を逸らさない。
「ナーーール!!!!!」
吠えるように、ナルの名を呼ぶ。
レイピアを構えたまま、ナルに向かい走る。
プツ…
テイトのレイピアの先が、ナルの心臓に届く。
テイトは、力を緩めなかった。
レイピアはナルの心臓に抵抗無く深く刺さり、彼女の薄い胸部を突き進み、最後に背中から剣先が出る際にだけ、僅かな抵抗に速度が落ち、その後はナルの背に長い剣の先が一気に生える。
レイピアは完全にナルの胸部を刺し貫いた。
「ナル様ぁあ!!」
半狂乱になったラナの声がこだまする。
ナルは立ったまま動かない。
「ご…めんなさい…」
胸をレイピアに貫かせたまま、ナルが呟いた。