カムクリ大暴走!~機械女王大抱擁!
遥彼方様の『イラストから物語企画』に投稿した第2弾です。
『会「長」』を『会「頭」』に変更しました。
地底界ロードガルドの『ルールヘイム』に建つ『アルティメットデストラクション商会』の兵器開発施設『ルールラボ』の中で、一人の女性科学者は今日も他の助手と共にEL兵器の開発に大忙しだった。そんな中、UD商会会頭ドリーがサンドガルドの本拠からルールラボにやって来た。
「マディア、相変わらず兵器開発に大忙しのようですね。して、例の兵器の開発は進んでいますか?」
ドリーは女性科学者マディアにさるEL兵器の開発の進捗について尋ねた。
「ドリー会頭かい。経過は順調だよ。」
「順調ですか、結構結構。して、その兵器の性能はわたくしの相棒、機械狂戦士スケロックをも上回るのですか?」
ドリーはマディアに自分の相棒であるスケロック以上の兵器なのか尋ねた。
「いや……、スケロックは元が人だ。最強の力を欲す彼を兵器に改造したあたしだから言えるが、今度のはあれと比べたら子供用玩具に過ぎない。」
マディアは今度の兵器開発は大した物ではないと述べた。また、彼女はスケロックを全身兵器に改造したマッドサイエンティストでもあり、UD商会幹部の一人で、兵器開発担当でルールラボに常駐している。
「子供用玩具ですか……、なら話になりませんね……。!……おや、向こうにボタンがありますね。」
話にならないと慇懃無礼に吐き捨てたドリーはボタンを見つけ、そこに歩み寄った。
「待ちな!今そいつを押したら危険だ!そもそも、いくら会頭でもここの物をあたしに無断で扱う権限はない筈だ!」
マディアはドリーを制止しようとした。しかし、彼は聞き入れずボタンを押した。
次の瞬間、カプセルの中にいた少年がカプセルを破って出て来た。彼の目は死んだような目をしていた。
「『B-01』……!?」
マディアは少年の名前『B-01』を呼び動揺した。B-01はマディアが現在開発中の少年型カムクリ『ニュートラロイド』で、潜入用戦闘兵器だ。B-01は近くにいる助手の首を掴んで締め上げた。B-01大暴走の瞬間だった。
「B-01、やめな!こいつらはあんたの敵じゃない!」
マディアはB-01を制止しようとした。しかし、B-01はマディアを振り払い、マディアは遠くの壁近くまで飛ばされた。
(くっ……、やっぱカムクリの力は凄いね……。)
マディアは大いなる苦痛を通じてカムクリの尋常でない力を感じた。
「わたくしはこれにて失礼します!マディア、あなたが造ったのです!自分の始末は自分でつけなさい!」
暴走したB-01から逃げるため、ドリーはマディアに事態を丸投げしてルールラボを去っていった。
「……。(……会頭……、自分で起こしといて何と無責任な……。)」
マディアは保身しか考えられないドリー会頭を内心軽蔑した。
「マディア様、お逃げ下さい!あなたはまだ死ぬべき人ではありません!」
「しかしそれじゃ……、あたしも会頭と同じに……。」
助手達はマディアに逃げるよう促したが、マディアは難色を示した。
「ドリー会頭は兵器を直接開発した事がないから商売道具としてしか捉えていらっしゃらない……。しかし、開発経験のあるあなたは相棒のように扱っていらっしゃる……。そんなあなたを失ったら……、それがし共は死んでも死にきれません!」
助手達はマディアの兵器に対する想いを述べた。
「わかった……。あんた達……、絶対に……、死ぬんじゃないよ!」
「はっ……。」
マディアは助手達に絶対に死なないよう伝え、ルールラボを脱出した。
(何とか脱出したね……。後は暴走したB-01をどう止めるかなんだけど……、会頭はあの通り取り合ってくれそうもない……。スケロックに直接……、いや……、彼は会頭の番犬だ……。じゃあ……、彼の手を穢さずに収拾するには……、やはり……、あそこしかないか……、いや……、あそこは我々UD商会と対立関係にある……。でも……、背に腹は代えられないか……。)
何とか脱出したマディアは通信機を取り出して誰かと接触を図った。
一方、シーマヘイムの歯車騎士団本拠にいる歯車騎士団団長サターナの元に一体のゴーレムが両目を明滅させて何かを伝えた。
「何ですって!?ルールヘイムでUD商会が開発中の少年型カムクリが暴走!?……このままグランヘイムの職人街にやって来たら……、人的被害は免れないわね……。暴走カムクリが相手となればロードレンジャーで以てしても犠牲は必至……。こうなったら……、わたし自らが出るわ!」
サターナは歯車騎士団最深部に入ってローブを脱ぐと、首から下は機械で、青紫色の光沢を放つ金属質の外殻で覆われていた。そして、丸みを帯びた胸部の左側には歯車の紋章が施されていた。彼女は機械の物々しさと艶かしい美しさを兼ね備えた姿から『機械女王』の異名を持っているのだった。準備を終えた彼女はシーマヘイムから出動した。
{目的地:ルールヘイム、標的:少年型カムクリ、両足:ローラー展開}
(さあ……、急ぎましょう!)
サターナの視界には目的地に標的等の情報が出力され、彼女はハイヒールのような踵の高い足にローラーを展開し、ローラーダッシュで現場に急行した。
ルールヘイムに出たサターナを待っていたのは瓦礫と化したルールラボを背にグランヘイムに向かうB-01だった。
{対象:確認、対象カムクリ型:ニュートラロイド型、対象型番:B-01、対象製造元:UD商会、対象BE濃度:甚大、対象行動コード:564219}
(これが……、UD商会が開発中のニュートラロイド『B-01』……、かなりのBEを帯びている……。開発中に起動した事から暴走し、破壊等によるBEの相乗効果が暴走に拍車をかけたのね……。)
サターナは自分の視界に出力された情報を通じてB-01の暴走の著しさを感じた。
「待ちなさい!あなたを街へは行かせないわ!」
そして、サターナはB-01に立ちはだかり、街へは行かせないと言い放った。
{標的:認識、目標:排除}
B-01の視界にはサターナを敵と認識並びに排除と出力された。B-01は戦闘態勢に入った。
「どうしてもというなら……、わたしはあなたを止める!」
{戦闘態勢:移行、ELシールド:展開、シールド出力:100%}
サターナも譲らず戦闘態勢に入った。彼女の視界にELシールドに関する情報が出力された。
かくしてサターナとB-01による体術主体の戦闘が展開され、双方一歩も譲らずの状態だった。しかし、均衡が崩れ始めたのは戦闘が開始されて3mしてからの事だった。
(なかなか強いわね……。でも……、ここは一思いに決めましょう……。刺し違える形になったとしても……。)
サターナとB-01は互いの腹部をめがけて殴りかかった。そして……、
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
腹部に拳を喰らったのはサターナの方だった。そして彼女は身体からショートを発しながら地面に両膝をつけて倒れた。
{シールド出力:0%、状態:危険}
(シールドが消耗してしまった……。この状態ではフィジカルダメージによる損傷必至……。明らかに絶体絶命ね……。もう……、逃げる事すら……。)
サターナは視界に出力された情報から絶体絶命である事を感じた。そして、B-01はとどめを刺すために倒れているサターナに歩み寄った。B-01が彼女に攻撃しようとすると、サターナは起ち上がり際にB-01を大抱擁したのだった。
「兵器として生み出されしカムクリよ……、あなたに抱擁を……!ELアーツ、『グラビトンハグ』!!」
サターナはB-01を抱擁しながら土属性ELアーツ『グラビトンハグ』を繰り出した。彼女の身体から発する重力によって身体に帯びたBEを吸収されたB-01は動きが弱まった。
{対象EL残量:残り僅か}
(これで仕上げに入れるわ……。)
「どうか安らかに……!ELモジュール、『マイナス505』!!」
B-01のEL残量を確認したサターナはELモジュール『マイナス505』で抱擁しているB-01ごと橙色の光で包み込んだ。B-01は機能停止し、その表情は安らかだった。
{目標:機能停止、対象状態コード:563714、EL出力:省出力移行}
(これで終わりね……。さて……、折角だからこのB-01を回収並びに解析しましょう。)
こうして、サターナとB-01の壮絶な戦いは終わった。サターナはB-01をお姫様抱っこしてローラーダッシュで歯車騎士団に帰還した。戦闘の一部始終を物陰から見ていたのはマディアだった。
(B-01を失ってしまったのは残念だけど……、被害が大きくならなかったのが救いだね……。でも……、何よりの問題はうちの施設の再建だよ……。)
マディアはこれからの問題に不安で一杯だった。
UD商会……、死の商人の側面を持つ事から歯車騎士団をはじめとする国境なき騎士団からブラック組織に指定されている。兵器の流通はラグナゲドンに繋がりやすく、国境なき騎士団は同時多発戦争『ラグナゲドン』を発生させないよう努めているのだ。
公務を終えたサターナは、歯車騎士団最深部で、相棒の巨人女王ガイアの腹部のインタフェースと自分の腹部のインタフェースをELケーブルで接続させてセルフメンテナンスを行っていた。
「ふふっ……、今日は久しぶりの戦いだったわ……。」
「ではマスター、その戦闘データを私にも共有頂けないだろうか……。」
「いいわよ。あなたとわたしは一心同体のような存在だしね。……ねえ……、ガイア……。」
「いかがした?マスター。」
「わたし……、怖いの……。わたしの身体の大半は機械で出来ている……。機械は強大な力を持っている……。破壊を齎す程の力を……。それだけじゃない……。わたしは痛みを感じないの……。そして死ねないの……。死のうとしてもエマージェンシーフィールドで死ねないから辛いの……。そのフィールドで溶岩の上でも浮くから死ねないの……。教えて……、ガイア……、わたしはこれからどう生きるべきなの……?」
サターナは自分の悲しみをガイアに打ち明けた。
「そなたには私がついている。そなたの使命はラグナゲドンを再び発生させぬ事だと私は思うのだ。いや、それだけではない。悲しい想いをしてきたそなただからこそ人やカムイをはじめあらゆる存在を慈しむ事が出来る。私はそう信じる。マスター、私もそなたと共にあろう。このロードガルド、いや、世界塔ブルドラシルと共に。」
「有難う……、ガイア……。」
ガイアに励まされ感謝したサターナは彼女と抱擁しながらしばしの眠りについた。彼女の寝顔はとても安らかだった。