第7話 コークスクリューパンチ
吹っ飛ばされたベルムは地面を転がり、体が一瞬光った後に元の人の姿に戻っていた。
タクシーはベルムが倒れている近くに停車し、マルクスが先に降りると純もマルクスの後を追うように運転席から飛び出した。
2人がベルムに目をやると、そこには、目を見開き仰向けに倒れているヴェルムがいた。
体中の至る所から出血しており、殴り返された拳は白い骨が露出していた。
純は、あまりの痛々しさに声が出ない。
マルクスはベルムに静かな口調で声をかけた。
「無様だな。」
「うるせぇ。クソ親父。なんだよさっきの力。前にドラゴンの姿で戦った時よりも強えじゃねえか。今まで本気じゃなかったのか?」
体を震わせながら、少し弱々しい声でベルムは言葉を返す。
「今までも何も、一度も本気など出したことないわ。
それにしても、今回ばかりはまずいの。異世界のこんなか弱いお嬢さんまで巻き込みおって。
静かに菓子でも作って遊んでいればいいものを、この愚か者めが。」
その言葉にベルムは立ち上がり叫んだ。
「こんな女、俺の知ったことか!
それに、俺の菓子作りは遊びじゃねぇ!何も知らないくせにわかったこと言うんじゃねーよ!」
その時、純の頭の中で、ブチっと何かが切れる音がした。
目にも止まらぬ速さでベルムの前に立つと、思いっきりベルムの左頬をひっぱたいた。
「バッチーーーーン!」
ものすごい音が周囲に響き、間髪入れずにまくしたてる。
「ふざけんじゃないわよ!!!こっちはいきなり巻き込まれて死にそうになったんだから!!!」
ベルムは一瞬怯むが、すぐさま体勢を立て直し純を睨む。
「貴様ぁ!何をす…」
「バッチーーーーン!」
ベルムの言葉を遮るように、今度は右頬を思いっきりひっぱたいた。
「貴様じゃないわよ!!!こっちは20時間近く働いてクタクタなのに、くだらない親子喧嘩に巻き込んでんじゃないわよ!!!」
ベルムは思わず吹っ飛びそうになるが何とか踏ん張ると、鬼の形相で純を再び睨みつけた。
「貴様!貴様!貴様ぁー!許さん!許っ!?」
「バキッッッ!!!!」
またもやベルムの言葉を遮るように、今度は、純の渾身のコークスクリューパンチが、ベルムのみぞおちを打ち抜いていた。
ベルムの身体は華麗に宙を舞い、そして地面に落下する。
「だから!!!貴様じゃない!!
ああー!速度超過に急加速、ああー怒られるぅぅ。というか、140キロ以上出しちゃってるし。これって、乗務停止処分じゃないのぉぉぉ!?うわーーー!!!
ひさびさの異世界万収だったのにーーー!もうやだぁーーー!!!」
純の心のダムは決壊し、これまで我慢してきた様々な思いが溢れ出す。
そしてその場にへたりこみ泣き続けるのであった。
マルクスは、泣きじゃくる純とその先に両頬に真っ赤な紅葉マークをつけ気絶するベルムに目をやると、頭をポリポリしながら苦笑するのであった。
ちなみに、純の勤める地球タクシーでは国の道路交通法とは別に、速度超過についてペナルティーがある。
一般道は70キロ、高速道路は100キロ以上で反省文となり、さらに悪質な場合は懲戒処分になる。
また、速度超過や急加速、急減速ならびに走行ルートや運賃などの各種データは、逐次車両に蓄積されており乗務員は操作することができないため、ごまかしは一切きかない。
※皆さん、乗務員さんに無理に急いでと言うのはやめましょう^_^