第5話 ドラゴニア王国
光速道路を抜けると、まさに異世界という光景が純の目に飛び込んできた。
それは、果てしなく広がる青い空と白い雲海。
そして、そこに浮かぶ大小様々な島々であった。
ほとんどの島が石造りの道路と橋でつながっており、とある島には建物や森が広がり、また別の島には険しい山脈がそびえその合間には川が流れていた。
純たちのタクシーは、それらを見下ろしながらひときわ大きな島に続く道路を走っていた。
今回の目的地ドラゴニア王国火竜領である。
「わぁー!すごい綺麗!!!」
思わず純は目の前の絶景に声を漏らしてしまう。
「あっ!すみません!」
「いや、気にする必要はない。自分の世界を褒められて悪い気はしないからな。
では、防御結界を張るかな。」
マルクスはそういうと、軽く指を鳴らした。すると、タクシーは半透明の淡い赤色の光に包まれた。
「ふむ。これでたいていの攻撃であれば問題ないだろう。後はいつ攻撃を仕掛けてくるかだな。とはいってもあまり気にしていても面白くないな。お嬢さん、ドラゴニア王国は初めてかな?」
マルクスは顎に軽く右手をあて、何かを思いついたように純に話しかけた。
「あっ、はい。ドラゴニア王国は初めてです。第2異世界の他の国でしたら行った事があるのですが。」
「そうか、では暇つぶしにドラゴニア王国について説明してあげよう。」
純は、ベルムがいつ襲ってくるかもわからないのにと一瞬思ったが、そんなストレスを和らげるためにマルクスが話を提案してくれていると気づいた。
「じゃあ、お願いしてもよろしいでしょうか?」
マルクスは優しい笑みを浮かべるとドラゴニア王国について語りだした。
ドラゴニア王国は、竜神族と言う種族が統治する、第2異世界を代表する人口3億人を超える経済大国である。
政治体制は200年前に封建制から立憲君主制に移行しているが、現在でも王家と、4大貴族と呼ばれる大貴族たちの権力は絶大であった。
首都は、王都ドラグーンで人口4000万人を超える大都市だが、今回の目的地である火竜領の中央都市カルナックは、さらに大きな人口6000万人を超える大都市だ。
国の主要産業は、先端魔法技術開発、レアメタル輸出、観光産業などが挙げられる。また、竜神族は人間と同じような姿をしているがドラゴンの姿に変身することもできる。
また、魔法や特殊スキルも使うことができる。
他の種族に比べ知能指数も高く、先端魔法技術開発の分野では、他異世界の追従を許さない。
当然ながら戦闘力も凄まじく、時々一般人の喧嘩で島が消し飛ぶと言う事件も発生している。
といったドラゴニア王国情報をマルクスは説明してくれたが、その中で純はマルクスがとんでもない大物だと知りびっくりするのであった。
その後もベルムからの襲撃はなく、タクシーは無事に火竜領に入り高さ50メートルはあるであろう大木が自生する、森の中を進んでいた。
「……それでドラゴニア王国の名物に竜舌蘭を使ったドラゴン焼きという、食べ物があってな。
これがまた、一口食べると止まらなくなってな。
お嬢さんも土産に……ふむ。ようやく来おったか。」
マルクスは、ふと何かに気づく。
すると100メートル以上前方の森の中から1体のドラゴンが現れた。
そのドラゴンは馬のような頭とたてがみを持ち、蛇のような胴体に羽が生えている。
大きさは30メートル以上あるだろうか、まっすぐこちらを燃えるような真っ赤な瞳でにらみつけていた。
それこそは、マルクスの長男ベルムがドラゴンに変身した姿であった。
「ベルム!!!」
マルクスが叫んだ瞬間、ベルムは巨大な火の玉をタクシーに向かって吐き出してきた。
「きゃあああああっ!!!」
純はたまらず叫び声をあげ、顔をふせた。
「ドゴォォォォオン!!!」
火の玉は、タクシーの防御結界に命中し爆発したが、同時に来るはずの衝撃や熱波は一切感じない。
「あれ?」
純は一瞬呆気に取られるも、次の瞬間には防御結界が火の玉を無効化した事を悟る。
その間にも、タクシーとベルムとの距離が縮まる。
マルクスはいつの間にか後部座席側のドアから身を乗り出していた。
「お嬢さん!ベルムの右側を抜けてくれ!」
純は、一気にアクセルを踏み込み、ベルムと側道の間にある、隙間めがけて突っ込みながら叫ぶ。
「行きますよぉぉぉぉっ!!!」
ベルムはすり抜けようとするタクシーめがけて巨大な拳を振り下ろした。
「ガァオオオオオオッ!!!」
…次の瞬間、拳を振り下ろしてきたはずのベルムの巨大な身体が、タクシーのはるか前方にものすごいスピードで吹っ飛んでいった。