第4話 光速道路
タクシーは相変わらず、一筋の光の帯の上を走っていた。
ここは、光速道路。異世界連盟に加盟する国々を繋ぐ、基本的には唯一の交通手段だ。
光速道路という名前が付いてはいるが、実際は物理的な移動というよりは転移に近く、時折見る道路標識や走行しているように見えるのは、全て光速道路のシステムが擬似的に認識させているに過ぎない。
ちなみに、純たちのタクシー以外に、車が見当たらないのは、転移自体は一台ずつ実行される為、行き先が異なるかもしれない他の車のイメージを見せる事の必然性がなくシステムが対応していない為である。
技術的には一瞬で転移することは可能だが、それだと地政学的に問題がある為、異世界連盟に加盟した際に、国交を結ぶ国の間で光速道路の所要時間を決めており、関係が良い国ほど短く、悪い国ほど長くなる。
ちなみに、地球とドラゴニア王国の関係は上の中といったところだ。
純たちのタクシーが光速道路に入ってから40分が経とうとしていた。
その後も純とマルクスの会話は続き、ベルムを勘当したのはマルクスとメイドとの間に産まれた幼い腹違いの弟を手に掛けた事が原因である事。
これまでベルムは自らドラゴンの姿でマルクスを強襲してきたり、今回のように刺客を差し向けてきたりしたらしく、時にはマルクスもドラゴンに変身してベルムを半殺しにして返り討ちにしたなど、マルクスは、寂しげでありながらも時々楽しげに話すのであった。
「そろそろ、ドラゴニア王国方面出口ですね。そういえば、光速道路を出た瞬間に襲われたりしないですよね?」
純は、恐る恐るマルクスに確認した。
「うむ、そうだな。十中八九襲ってくるだろうな。」
「えっ!?そんなぁ、またさっきのようなことが起きるんですか!?」
純は、今にも泣きそうになる。普通にタクシー乗務員をしていれば戦闘ヘリに襲われることなど無いのだから、至極当然の反応である。
まぁフランスでは、たまにTAXIに羽が生えて空を飛んだり、銃撃戦を繰り広げたりしているらしいが、それはまた別の話である。
「安心しなさい。ドラゴニア王国に入ったら、すぐにタクシーに防御結界を展開するのでな。多少の攻撃ならびくともせんよ。」
マルクスは、戦闘ヘリに襲われている時に見せた好戦的な笑みを浮かべている。
「それにもしベルムが襲ってくるなら、私自身の手で返り討ちにして見せよう。」
「見せていただかなくて、結構です!!!
というか、防御結界が張れるならなんでさっき使ってくれないんですか!?」
「そう言われても、第121異世界では魔法やスキルは使えないからな。」
郷に入りては郷に従えという言葉があるが、これは異世界連盟憲章にも掲げられる加盟世界共通のことわりである。
基本的に異世界は光速道路でのみ行き来が可能だが、その出口を通過する際に行先の世界に合わせて魔法とスキルの使用可否や身体能力、言語などの最適化が行われる。
その為、魔法が使える人が魔法の存在しない異世界に行くと、魔法が使用出来なくなる。
「あっ!そうでした…すみません。」
そうこうしてるうちに、ドラゴニア王国方面出口の標識が見え、純たちはドラゴニア王国に入るのであった。