第2話 首都高速湾岸線崩落
純は、最初の赤信号で車を停止させると老紳士に話しかけた。
「お客様、よろしければ目的地をカーナビに設定してもよいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。」
純がミラー越しに老紳士を見ていると、優しく微笑みながら老紳士は返事をした。
「ありがとうございます。」
純は、手早くカーナビに目的地を入力すると、ディスプレイに経路概略図と近辺地図が表示された。
今回の目的地となるドラゴニア王国には、東京駅八重洲口からだと首都高速環状1号線銀座入口から高速道路に乗って、その後首都高速湾岸線から、異世界道路公団第2異世界光速道路ドラゴニア王国方面に乗って約1時間、さらに下道で約30分で火竜領と言うルートになる。
カーナビでは、銀座の目抜き通りを抜け環状1号線銀座入口に向かうルートが示されていたが、この時間帯だと目抜き通りは渋滞している場合があるため、昭和通りのアンダーから向かうことにした。
純の思惑通り特に渋滞にはまることもなく銀座入り口を通過したところで、老紳士が話しかけてきた。
「お嬢さん、とても運転が上手だね。この仕事を始めてからどのくらい経つのかな?」
「あ、ありがとうございます。上手だなんて、全然まだまだです。」
「いや、たいしたものだよ。時々タクシーを利用するが、乱暴な運転をする者もいるからね。お嬢さんの運転はとても丁寧で乗り心地が良い。」
「そんな、ありがとうございます。」
純自身、運転技術についてはまだまだ、改善するところがあると思いながらも、やはり褒められるのは嬉しいものだ。
「今日は、異世界連盟加盟記念日の祝日だと言うのに、仕事とは大変だね。」
「いえ、私たちの仕事はあまり祝日は関係ないので。」
しばらくたわいもない会話を続けていると、第2異世界光速道路入口と言う標識が見えてきた。とその時。
「ドゴゴゴッガーーーーーン!!!」
突然、純たちが乗るタクシーのすぐ後方で、凄まじい爆発音が鳴り響いた。
「きゃあああっ!えっ!?なに!?」
純が、サイドミラーで後方をみると、わずか数十メートル後ろの道路が、崩れて燃え上がっていた。
「えっ何!?何が起きたの!!」
純は一瞬パニックになりつつも、乱れかけた車の挙動を元に戻す。
刹那。
突如、耳をつんざくような爆音とともに1台の戦闘ヘリが左側の窓ごしに出現した。
戦闘ヘリには素人が見ても分かるようなミサイルがぶら下がっている。
「思ったよりも早く見つかったな。お嬢さん、すまないが出来る限りスピードを上げてもらっても良いかな?」
老紳士は落ち着きながらも少し楽しげな口調で、純に告げる。
「えっ!?」
純は老紳士の突然の言葉に戸惑いミラーに目をやると、後部座席には先ほどまで優しく微笑んでいた老紳士の姿はなく、圧倒的なまでの威圧感と好戦的な笑みを浮かべている老紳士が座っていた。
その瞳は、燃え盛る炎のように赤く染まっていた。
純はこの老紳士がただ者ではなく、そして理由はわからないが追われているのだと直感で理解した。
「分かりました!何とか頑張ってみます!」
純は、一気にアクセルを踏み込んだ。するとそれまで首都高速湾岸線の制限速度60キロで走行していた車は、ぐんぐんと加速し140キロを計測していた。
当然だが普段こんなスピードを出して捕まりでもしたら一発免停どころか懲戒免職だろう。
「光速道路に入れば奴らは追って来れないはずだ。もう少し持ちこたえてくれ。」
老紳士が相変わらずの少し楽しげな口調でそう告げた瞬間、左後方から迫りくる戦闘ヘリから数発のミサイルが発射された。
「ドガガガガッドガーーーーンンッ!!!!!」
その日、首都高速湾岸線第2異世界光速道路入口付近の一帯は、突如現れた正体不明の戦闘ヘリのミサイル攻撃により崩落するのであった。