第26話 すれ違う2人
アスタクは相変わらず第4異世界アイリーン共和国に続く光速道路を走っていた。
「告白ですか!?シャルロットさんみたいな可愛い女の子なら、彼も嬉しかったんじゃないんですか?」
シャルロットは少し悲しげな表情を浮かべた。
「でもね。結局、告白出来なかったの…。」
ワタシは告白しようと彼のガラケーに電話した。
でも聞こえてきたのは、現在この電話番号は使われておりません、というメッセージ。
間違いだと思って何度も掛け直したけど、結局、彼の電話に繋がる事はなかった。
それから、彼が勤めていると言っていた地球タクシーという会社にも問い合わせたけど、個人情報であるという事で取り合ってもらえなかった。
ワタシは目の前が真っ暗になった。
「ワタシね。告白する前にお店辞めようと思ってね。店長に相談したらいきなりは無理だから今月一杯って言われて、今日が最後の日だったんだ。
まぁ寿退社にはならなかったけどね。それとタクシー運転手さんに感じ悪かったのは単なる八つ当たりって訳。
あーあ、こんなだから番号変えられちゃったのかなぁ?」
純はシャルロットの地球タクシーという言葉に引っ掛かっていた。
「シャルロットさん、私も地球タクシーなんですが、その彼の見た目をもう少し詳しく教えてくれませんか?」
地球タクシーはグループ傘下も合わせるとタクシー乗務員だけでも10万人を超える大企業であり、同じ会社であっても純が知っているとは限らなかったが、シャルロットの悲しげな表情を見て、純はなんとか力になってあげたいと思っていた。
「えっ!?力になってくれるの?でも個人情報とかでダメなんじゃ?」
「知り合いだったら本人に教えても良いか確認出来ますし良いですよ。でも地球タクシーは乗務員だけでも何万人もいるので、あまり期待しないでくださいね。」
純の気遣いにシャルロットの涙腺が思わず緩み、こぼれ落ちそうになる涙を手で抑えながら笑みを浮かべた。
「純ちゃん、ありがとう。
彼はね、年は秘密って言ってたけど、多分30代後半位。とても身体が大きくて、サングラスをしてるの。なんか昔、お客さんの子供に目つきが怖いって言われたらしくて、それ以来かけてるって言ってた。
ワタシはあの鋭い目好きなんだけどな。」
「なるほど、タクシー乗務員でたまにいる、見た目は完全にあっち系なのにめちゃめちゃ、良い人ってヤツですね。
うちの営業所にも…んっ?」
純の頭の中に1人の男のシルエットが浮かび上がる。
「シャルロットさん、さっきその彼パーマかけてるって言ってましたよね?」
「ええ。大仏みたいな、あれってパンチパーマって言うのよね。とってもキュートなの。」
純の頭の中のある男のシルエットが徐々に光に照らし出されていく。
「あ、あの、ちなみにその彼が乗ってるタクシーってワゴンみたいに大きくないですか?」
「そう!とっても広かったわ。ヘルグランドっていう車って言ってたわ。純ちゃん、もしかして彼の事知ってるの!?」
シャルロットは思わず身を乗り出した。
「それじゃあ、最後に確認ですが、その彼ってタイボクじゃなくて、オオキですよね?オオキトウゴですよね?」
その瞬間、シャルロットの両目から涙がこぼれ落ち、そのまま泣き崩れた。
純はシャルロットが落ち着くのを待ってから、大木が同じ営業所の大先輩であり、いつも何かとお世話になっている事を話した。
シャルロットは話の中の大木を愛おしそうに感じながら話を聞いているようだった。
そして、純の話が終わるとシャルロットは寂しげにに口を開いた。
「純ちゃん、色々教えてくれてありがとう。でも彼の連絡先は…聞けないわ。」
シャルロットの予想しなかった言葉に純は驚きの声をあげた。
「えっ!?何でですか?私、大木さんの電話番号知ってますよ?」
シャルロットは首を横に振った。
「だって、彼は電話番号変わったのに教えてくれなかった。それって私が面倒だったからじゃないかな?」
純は一瞬言葉に詰まりかけるも、大木が最近ガラケーからスマホに変えた時に話していた事を思い出した。
「シャルロットさん、大木さんはシャルロットさんを面倒がって番号を教えなかった訳じゃないと思いますよ。むしろ、その逆で教えたかったけど教える事が出来なかったんだと思います!」
「えっ!?それはどういう事なの!?」
純は大木がガラケーからスマホに変える原因となった、第15異世界ドルマニア連邦共和国で起きたデビヤバ商会による爆破テロ事件について話し始めるのであった。




