第19話 名台詞
「なんと!?犯人はドワーフ族と申すか?ふぉふぉふぉ、そうなるとワシも容疑者になるどん。」
ここは審査員席。ハッカマは白いわたあめのような口ひげを触りながら余興を楽しんでいた。
「だが、あの映像だと後部座席のドワーフの髭は黒かったからハッカマ爺さんじゃねえだろ。」
「そうですね。後部座席の男からはハッカマ殿のような気品は感じられませんでしたね。」
「ワシは容疑者のままでも良かったどん。そっちの方が盛り上がったかもしれないどん。」
ハッカマは少しつまらなそうにしているが、ライオネルはステージから離れたゾック達のテーブルを見ながらハッカマをなだめる。
「ハッカマ爺さん、そう拗ねるなよ。
そもそも、これじゃあ簡単すぎるぜ。
なぁズーシオン?」
ズーシオンもゾック達のテーブルに目をやる。
「フフフ、そうですね。
それにその犯人には私たちとそれなりに縁がある人が関わっていそうですね。」
ライオネルとズーシオンが不敵な笑みを浮かべていると、ズーシオンのスマホが振動した。
「おや?部下からですね。少し失礼しますね。」
ズーシオンは端的に通話を済ませ、ライオネルを見た。
「ライオネル殿、先ほどの件ですがダンジョン省内でお宝の管理データを違法に外部に横流ししていた職員が判明しましたよ。それと外部の誰に漏らしていたかもね。」
ズーシオンが再びゾック達のテーブルを見ると、今度は真っ白に燃え尽きそうになっているレッサと目が合った。
「おお、そうか。うちもさっきメールでダンジョン捜査一課長の取り調べが終わって、とある会社の不始末をもみ消していた事を吐いたそうだ。
それに依頼してきたOBの名前もな。」
ライオネルもゾック達のテーブルに目をやると、今度は滝のような冷や汗をかいているナメローと目が合った。
「まぁ部下の不始末は上司の責任ってな。しっかりケツを拭いてやんねぇとな。」
ライオネルがウデを組みながら目を細めていると、ズーシオンは飲んでいたワイングラスをテーブルに置いた。
「ライオネル殿、部下の不始末は部下の責任。上司の不始末も部下の責任ですよ。
そもそも責任なんて言葉は空気よりも軽いと、ある国の総理大臣から教わりましたよ。」
「おいおい、そいつはどこの総理大臣だ?
そんなんじゃあ、世の中おかしくなっちまうじゃねえか。」
「フフフ。世の中には色々な道理があるのですよ。
まぁ何にせよ法を犯したのであれば相応の処分は必要でしょうね。」
そんなズーシオンの言葉にライオネルはうなずくのであった。
「ひっ!?ズーシオン様!お許しを…。」
レッサはズーシオンと目が合った直後、あまりの恐怖に真っ白に燃え尽き気を失った。
「おい、レッサ!?しっかりするだぎゃ!」
ハンツはレッサの肩を揺らすが椅子にもたれかかったレッサは、白目を向いたまま動かない。
『バタン』
ハンツがその音のする方を見ると、冷や汗をかきすぎたナメローが脱水症状で口から泡を吹きテーブルにつんのめりながら気を失っていた。
「ナ、ナメロー!?どうしただぎゃ!?おい、誰か!!2人が死にそうだぎゃ!」
ゾック達のテーブルの異様な事態に会場中の視線が集まると、それに気付いたリンドヴルム騎士団員がゾック達のテーブルに駆けつけ、ナメローとレッサを会場の外へと運び出した。
ゾックとハンツは呆然とその光景を見ていた。
「それでは、シンキングタイム終了となりまーす!
何やら騒がしいテーブルがあったようですが張り切って最後のヒントにいきましょー!それではご入場くださーい!」
ステージの扉が開きスモークの中から、白い目出し帽に白い全身タイツの男が両脇をリンドヴルム騎士団員に抱えられ現れた。
それは純達のタクシーにあおり運転をした白タクの運転手をしていたショッキング団員だった。
「イーッイーッイーッ」
白タイツ男の奇声を無視し丸太は話を進める。
「こちらは先ほど皆様にご覧頂いたドライブレコーダーの映像に映っていた、あおり運転をしていた白タクの運転手でーす!
奇声を上げて少し興奮しているように見えますが、実は彼は第178異世界のショック共和国の改造人間でして、専用の翻訳機を使用しないと会話ができませーん!
ので残念ながら今回はお話を伺うことが出来ないので、犯人の似顔絵をかいてもらいまーす!
それではどーぞ!」
丸太がペンとフリップを手渡すと、白タイツ男は奇声を上げながらペンを走らせた。
「イイイーッイーッイイーッ!!!」
「ゾック!ま、まずいだぎゃ!あいつがおまえの似顔絵を描いたら終わりだぎゃ!それにナメローやレッサもリンドヴルム騎士団に連れて行かれただぎゃ!おしまいだぎゃ!」
ハンツも精神的に追い詰められていた。
落ち着こうとして水の入ったグラスを手に持つが震えてうまく飲むことが出来ない。
「いや、大丈夫だす。あんなイカれた野郎がまともな絵を描けるはずが無いだす!それにまだリンドヴルム様を爆破した直接的な証拠が出された訳でもないし、あんなヘタレ副社長や専務が何をしゃべったって知らぬ存ぜぬを突き通せば良いだけだす!
社長、とにかく落ち着くだす!」
そうこうしているうちに白タイツ男は似顔絵を描き上げ、丸太がフリップを回収していた。
「こ、これは、ヒントにならないかも知れませんね。
それでは、皆様ご覧くださーい!」
丸太が似顔絵の描かれたフリップを掲げると同時にスクリーンにもフリップの似顔絵が映し出された。
「おおっ!!!」
会場から驚きの声が上がる。
白タイツ男が描いた似顔絵は、とても一本のペンで描かれたとは思えないほど美しい出来栄えのゾックの肖像画であった。
「これは想定外の出来栄えで既にヒントではなく正解発表になってしーまいました!
それでは、これより最後のシンキングタイムになりまーす!
皆様、グループでよく話し合い、解答用紙に予想した犯人の座席番号とその他必要事項を記載の上、ステージ上の解答ボックスに入れてくーださい!
それでは、ラストシンキングタイムスタート!」
そんな芸術作品と言っても過言ではないゾックの肖像画を見ながらハンツはつぶやいた。
「ゾック、今回は全ておまえが独断でやった事だぎゃ。俺は何も知らなかっただぎゃ。
全く困った事をしてくれたもんだぎゃ。」
今までとうって変わり、ハンツは落ち着いた口調でゾックに諭すように語りかけると、解答用紙にゾックの座席番号を書き込んだ。
ゾックは一瞬でハンツの言葉の意味を理解すると、苦虫を噛み潰すような表情でハンツを睨みつけた。
「社長、俺を切り捨てるつもりだすか?」
「切り捨てるも何も我が社に損害を与えたんだから、お前はクビだぎゃ。
むしろ、損害賠償請求したいくらいだが、それはこののゲームの賞品でチャラにしてやるから安心しろだぎゃ。」
ハンツは吐き捨てるようにそう言うと解答用紙を持って席を立ち上がろうとするが、ゾックがハンツの腕を掴み動きを止め、自分の三角帽子の中からボイスレコーダーを取り出した。
「社長、いやハンツさん。これが何かわかるかい?
あんたが俺に出したボトム暗殺の指示から、この会場内での会話までたっぷりと録音してあるだす。一人で逃げられると思うなだす!」
ハンツの額から冷や汗が吹き出した。
「ちょ、ちょっと待つだぎゃ!冗談だぎゃ!そ、そうだ、実はお前を今度副社長にしてやろうと思ってたんだ!
なっ!?落ち着け、ゾック!」
ゾックはすがりつくハンツを虫けらを見るような荒んだ目で見つめると語気を強めて言い放った。
「裏切られたら裏切り返す。
それが俺の流儀だす。
1億倍返しだ!!!」
ゾックがどこかの世界の銀行員の決め台詞のような一言をハンツに言い放った直後、ゾックの手に握られていたボイスレコーダーがするりと抜き取られた。
「はーい!お疲れ様でーした!
まさか、そんな名台詞が聞けるなんて思いませんでーした!」
ゾックがゆっくりと振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべた丸太がボイスレコーダーを持って立っていた。
そして、ゾックとハンツは会場内のすべての視線が注がれていた事に気付くのであった。