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異世界TAXI  作者: temri
16/33

第15話 爆破された男

ここはドデカツカ商会の敷地内にあるイベント会場。

中にはステージを中心に丸いテーブルが配置され、壁際にはガラスケースが並べられ中が見えないように白い光沢のある布で覆われていた。

会場内はここで行われる、品評会に参加するダンジョンサービス業界の主要な会社の関係者や、品評会を観覧しに来たVIP達で賑わっていた。


時刻は16時45分。品評会開始まであと15分。

その時一台の白いタクシーらしき車が会場前に到着した。

ゾックが乗る白タクである。

『キキキィィィッ!!』

白タクは急ブレーキをかけ、タイヤから白い煙を巻き上げ停車した。勢いよくドアが開き転がり落ちるようにジュラルミンケースを抱えたゾックが降りてきた。

「白いあんちゃん!また宜しく頼むだす!」

「イーッイーーーッ!」

すると運転席の男は奇声をあげ完全にドアが閉まっていないまま白タクを急発進させ走り去っていった。

「ったく、せっかちな野郎だぜ。うぷっ!?おっといけねぇだす。ちーっとばかし飲みすぎただす。」

ゾックは顔を真っ赤にしてその足元はフラフラしておぼつかない。ゾックは予定通り光速道路を出た所で待ち伏せし、後に出てきた一台のタクシーを爆破し、その成功祝いとばかりに飲み屋で酒を飲んでから会場入りしていた。

「おっと!もうこんな時間か。急がねえと社長たちにどやされるだすな。」

ゾックは千鳥足でイベント開場に向かうと、受付に持っていたジュラルミンケースを預け、デビヤバ商会の関係席に向かった。

デビヤバ商会の関係者席では3人の男たちが上機嫌に酒をあおっていた。

一番偉そうにしている悪趣味な金縁サングラスをしたドワーフ族の男は、会場に入ってきたゾックを見つけると大声で呼びつけた。

「おい!ゾック!こっちだぎゃ!」

この男はデビヤバ商会社長兼ダンジョンサービス協会会長の、ハンツである。

その声にゾックは気付くと少し気まずそうに腰を低くしながら、ハンツたちのいる方へ近づいて行った。

二番目に偉そうなハイエナの頭をした獣人族の男がゾックを怒鳴りつけた。

「おせーぞ!ゾック、てめえ、どこで油売ってやがった!?」

この男は、デビヤバ商会副社長で元異世界連盟警察機構ダンジョン捜査一課長のナメローである。

そんなナメローを窘めるように、三番目に偉そうな太った青白い肌をした魔族の男が口を開いた。

「ケケケ。ナメローさん、そんなに怒ったらゾックが可愛そうじゃないですか。」

この男は、デビヤバ商会専務で元異世界連盟ダンジョン省審議官のレッサである。

ゾックは常務である為、この中では序列が一番下となる。

「遅れてすまないだす。道が混んでまして。」

ゾックは適当な嘘をつき席に座った。そんなゾックに怒りが収まらないナメローはさらにつっかかる。

「おめえ、俺の鼻ナメてんのか!?嘘ついてんじゃねえ!食い散らかすぞ!」

その剣幕に思わずゾックは椅子からずり落ちそうになるが、ハンツが割って入る。

「ナメロー、喚くんじゃねえだぎゃ!

ゾックよぉ。俺らはファミリーだろうが。俺達に嘘をつくんじゃねーだぎゃ!」

ハンツはワインを1口飲むとさらに話を続けた。

「ナメロー、それにゾックは今回がんばったじゃねーか?例のものも手に入れて、あのドデカツカ商会のクソ野郎も始末してきただぎゃ?」

ナメローはその言葉におし黙る。

「社長、副社長、嘘ついて本当にすまねーだす。ちょっとボトムの野郎を始末したらテンション上がって飲みに行っちまっただす。」

ボトムが頭を下げるとナメローは頬をかきながらそっぽを向いた。

「まぁ今回はハンツ兄貴に免じて許してやる。それにボトムの事はよくやった。」

ゾックとナメローが落ち着いたところでレッサが2人のグラスにワインを注いだ。

「ケケケ、ハンツ様はプルフェッショナルでひどい映され方されてましたからね。何が事件は会議室でおきてるんじゃないどす!ダンジョンでおきとるんどす!だ。まぁ死んだならそれでいいですけどね。」

「本当だぎゃ。出来れば俺の手で八つ裂きにしてやりたかったが、木っ端微塵なら良いだぎゃ。あの世で俺をコケにした事を後悔してるがいいだぎゃ。あとはこの品評会をモノにすればデビヤバ商会が業界No. 1だぎゃ。」

ハンツがそういうとデビヤバ軍団は会場にいる他の観覧者たちの目を気にすることなく下品な笑い声を響かせるのであった。


時刻は16時50分。品評会開始まであと10分。

ここはイベント会場内の審査員控え室。

室内には豪華絢爛な調度品が飾られ、部屋の中央ではソファーでくつろぎながら談笑する2人の男がいた。

「ふぁっふぁっふぁっ。それにしてもライオネルはおそいどん。グーシオン殿は何か聞いてないどん?」

この緑色の三角帽子を被った、気品溢れる真っ白な髭を蓄えたドワーフ族の男は、ドルマニア連邦共和国首相のハッカマである。

ハッカマはもう1人審査員として来る予定の男がなかなか現れないことに気付いた。

「昨日電話で話をした時にはリンドヴルム殿と来ると言ってましたが、確かに遅いですね。

この巨体に紫色のローブを羽織った魔族の男は、異世界連盟ダンジョン省大臣の、グーシオンである。

グーシオンがスマホに何か連絡が来ていないか確認しようとした時、控え室の扉が開き、1人の男が現れた。

「いやー、何とか間に合ったぜ。

まいった。まいった。」

この赤いマントを羽織ったライオンの頭をした獣人族の男は、異世界連盟警察機構副総監のライオネルである。

しかし、ライオネルを見てハッカマとグーシオンは驚きの声を上げた。

「ライオネル。おぬし、その服はどうしたどん?」

「ライオネル殿!何かあったのですか?」

ライオネルの服や赤いマントはところどころ穴が空きススこけてボロボロになっていた。

ライオネルはソファーに座りグーシオンが差し出したティーカップを手に取り中の紅茶を一気に飲み干した。

「ぷはあ!それがよ。リンドヴルムの旦那と一緒にタクシーに乗って、第121異世界から光速道路でドルマニアに向かってたら、光速道路を出たところでいきなり爆破テロに巻き込まれてよ。まぁ、俺様もリンドヴルムの旦那も無傷だったんだけど服がボロボロになっちまったわけだ。」

「それは無事でよかったどん。」

「そうですね。ただライオネル殿とリンドヴルム様を殺す気ならこの国を滅ぼすほどの威力が無ければ無理でしょうね。」

グーシオンはテーブルの上のティーカップを爪の先でやさしく摘みゆっくり持ち上げ口に運ぶが、ハッカマはグーシオンの言葉が聞き捨てならなかったのか口を挟んだ。

「グーシオン殿、そんな物騒なことを言わないで欲しいどん。それにしてもそんな事がドルマニア国内で起きたならワシに報告が上がってきてもおかしくないのだが、いくらワシが今日休みだとしてもおかしいどん。」

ハッカマはスマホを確認し何か報告が来ていないか確認するが、爆破テロに関する報告はなかった。

「これは失敬。確かにおかしいですね。光速道路案件は外交問題にもなりかねないですからね。どこかで情報が止められているかもしれませんね。」

光速道路は異世界同士をつなぐ唯一の交通手段である為、そこで問題が起きたとあればどんな国でも国のトップに報告が入るのは当然だった。

ライオネルがいぶかしげな表情になる。

「もしかすると、うちの奴が関わっているかもしれねぇ。」

「それはどういうことだどん?」

「実はよ。光速道路案件なら交通課が出張ってくるはずなんだが、今日現場に来たのはダンジョン捜査一課なんだよ。

まぁ俺様の顔を見てそそくさと逃げるように立ち去っていったがな。」

「ほう。ダンジョン捜査一課ですか。」

グーシオンはダンジョン捜査一課と言う言葉を聞いて興味深げにライオネルを見た。

グーシオンは異世界に点在するダンジョンの行政サービスを行う異世界連盟ダンジョン省のトップである大臣を勤めており、異世界連盟警察機構のダンジョン捜査一課とはそれなりに深い関係にあった。

「いや、それがよー。その後、現場に来た交通課の奴に聞いたら、最近やたらとダンジョン捜査一課の奴らが出張ってくるんだとよ。それで俺も少し気になったんで調べてみたんだが、どうもダンジョン捜査一課が出張ってきたらしい案件が他にも複数あってな。しかもダンジョン関連のイベントがある時に限って、管轄以外の案件に手を出してるんだよ。」

ライオネルがNo. 2の副総監を務める異世界連盟警察機構は異世界をまたがる事件や事故を取り締まる警察機構である。

そのため、異世界間をつなぐ光速道路での事故や事件は異世界連盟警察機構の交通課の管轄となっていた。

また異世界連盟警察機構ダンジョン捜査一課はダンジョン内部での事件や事故が管轄であり、ダンジョン外の事件や事故は管轄外であった。

それはいくらダンジョン関連のイベントに関連する事件や事故であっても同じことだった。

「ダンジョン捜査一課が裏で手を回して情報を止めていると言うことですか?」

「ああ。その可能性が高いな。」

「なるほど、異世界連盟警察機構側で情報が止められては、ワシの所まで情報が来る事はそうそうないだろうな。それで犯人の目星はついているのかどん?」

ハッカマの問いかけにライオネルはニヤリと笑った。

「ああ。リンドヴルムの旦那が顔を見ていてな。それも顔見知りでこの会場に来ているらしいぜ。それでグーシオンよ。どうやらこの事件はうちのダンジョン捜査一課とお前さんの所の部下も関わっているかもしれねえ。その事について、急ぎ調べて欲しいことがあるんだが…。」

ライオネルがグーシオンに調べ事を頼むと、グーシオンはすぐにどこかに電話をかけ用件を伝えた。

「後はリンドヴルムの旦那が面白い様に犯人を料理してくれるみてぇだから、まぁ楽しもうぜ。」

ライオネルの話が終わると審査員控え室の扉がノックされる。

『コンコン』

ハッカマが返事をすると係の男が室内に入ってきた。一瞬ライオネルの姿に驚きを隠せないがふと我に返る。

「あ、あの、そろそろ品評会が始まりますので会場の方へお越し下さいませ。あのライオネル様、その格好は?」

係員の反応が面白かったのかライオネルたちは笑っている。

「いや、気にするな。そうか、面白そうだからこの格好のまま出て行ってみようか。」

「それは良い考えどん。ただ席に座っていても面白くないから、ワシも犯人探しでもするどん。」

「ライオネル殿の格好を見せてその反応で犯人を探すわけですね。それは面白そうだ。」

3人はそう言うとソファーから立ち上がり審査員控え室を後にするのであった。

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