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異世界TAXI  作者: temri
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第9話 洗車日和

純がドラゴニア王国から帰ってきてから、1ヶ月が経っていた。

ここは、地球タクシー株式会社 夢の島営業所の洗車エリア。

今は20人程度が洗車をしていた。

「ザッパーーーン!」

今日も1日の乗務が終わり、純は車体にバケツで水をかけ洗車を始める。

天気は快晴。気温は25度。まさにこれ以上ない洗車日和である。

「よいしょっと。ピカピカにしてあげるからねー。」

純がフロントガラスをスポンジで洗っていると、隣の洗車スペースにひときわ大きなタクシーが入ってきた。

そのタクシーは、最近夢の島営業所に新たに納車された、ミッサン自動車製のヘルグランドという車種で、純の乗るアースタクシー(略してアスタク)よりも、最大乗車人数が2人多い、8人乗りのワゴンタイプの車両だ。

するとドアが開き運転席から、パンチパーマにサングラスのイカつい大柄な男が降りて来た。

誤って背後に立とうものなら、間違いなく殴りつけてくるだろうと感じさせるその男は、純に気がつくと見た目とギャップのありまくる陽気な声で声をかけてきた。

「おっ!一ノ瀬ちゃんお疲れー!」

この男は、大木おおき 闘吾とうご

純の先輩で、ワゴンタイプを運転出来る第7班の、一流乗務員だ。

見た目は完全にあっち系統だが、実際はとても優しい陽気なミドルガイだ。

そして、純の尊敬する先輩の一人でもある。

「お疲れ様です!あれ?大木さん、自分で洗車なんて珍しいですね?」

「ん?ああ。今日は天気も良いし、たまにはな。」

一般的にタクシーの洗車は、毎回乗務終了後に行っている。洗車は自分でやるか、洗車屋さんにお願いするか、ガソリンスタンドのタクシー対応の洗車機でやるかのいずれかで行う。


自分でやる以外は当然お金がかかり自腹である。

洗車屋さんは1000円以上、洗車機は600円以上が相場である。

毎回だとかなりの出費になる為、純はなるべく自分でやるようにしているが、大木は後輩の指導で忙しく、ほとんど洗車屋にお願いしていた。

「そういえばこの間、一ノ瀬ちゃんがくれたドラゴニア王国のお土産美味しかったぜ!ありがとさん!うちの班でも評判だったよ。」

「いえいえ。お客様のおススメだったんですけど、皆さん喜んでくれてよかったです。」

「だけど、そのお客さん大変だったんだってな。」

「ほんと大変でしたよー!何度も死にかけるし、140キロで爆走させられたあげくドア損壊って、営業所戻ってきた時はクビになるかと思いましたよー。」


あの日、ドラゴニア王国の大貴族リンドヴルム家の親子喧嘩に巻き込まれ、速度超過やドアの破壊など数々の内規違反をした純は、懲戒免職も覚悟の上で営業所に戻ったのだが、結局一切のお咎めはなかった。

また、首都高速湾岸線の戦闘ヘリの襲撃や道路の崩落については、天然ガスを積んだタンクローリーが爆発したと言うことで片付けられていた。

一部その場に居合わせた人がネットで騒いだりしたが、結局、都市伝説的な扱いになっていった。

マルクスが裏で地球タクシーを始め、地球政府やマスコミなどの関係機関に根回しをしていたのであった。


しばらく、純と大木が洗車をしながら話していると、営業所の方からこちらに1人の女が走ってきた。

身長は170センチほどあるだろうか、小麦色の肌にロングヘアの健康的な美人だ。

「おーい!純ちゃーーーんーお疲れー!

あれ?大木もおつかれーー」

彼女は、海老名えびな 夏美なつみ

純の所属する第3班の班長であり、直属の上司だ。

見た目は20代半ばにしかみえないが、実は40歳らしい。

趣味はサーフィンで、業務のある日でも朝早く起きてサーフィンをしてから出社してくると言うアクティブな女性だ。

純が入社した時から何かとよくしてくれる恩人でもある。

「お疲れ様です。どうしたんですか?」

純は手を休めると、夏美の方に歩み寄った。

「あのさ、乗務明けで悪いんだけど、ちょっとお願いがあってね。

今日、うちに配属された新人の同乗指導があるんだけど、緊急の事故処理対応が入っちゃってさぁ。私の代わりに純ちゃんやってもらえないかな?」

同乗指導とは、新人が営業所に配属された際に行われる実地研修で、班長や先輩が助手席に乗り、実際に街の中を走ってお客さんを乗せる研修である。

「同乗指導ですか?私で大丈夫ですかね?」

純は同乗指導は初めてであるため、少し不安げに夏美に確認した。

「純ちゃんなら大丈夫よ!絶対大丈夫!

ねえ、大木も大丈夫だと思うでしょ?」

夏美は、タイヤを洗っていた大木に話を振る。

「ああ!一ノ瀬ちゃんもそろそろ教える側になっても良いんじゃないかな。教える事で自分も成長出来るしな。」

純は今日は早く家に帰って、“本気のプリンスさま” 通称、マジプリの最終回を見ようと思っていたのにと一瞬思ったが、2人の勧めもあり引き受けることにした。

「はい。それじゃあ、頑張ってみます。」

「ほんと!?ありがとう!助かるわ!それじゃあよろしくお願いね。」

夏美は、後で新人さんを紹介するから洗車終わったらよろしくと言い残して去っていった。

30分後、純は洗車を終え営業所で待っていると、夏実が1人の男を連れてきた。

「あっ!!!」

その男を見て純は思わず大きな声を出してしまう。

そこには、銀髪に赤い瞳が特徴的な20代後半の男が立っていた。

男は口を開いた。

「ベルム・ジーク・リンドヴルムと申します。先輩、今日はよろしくお願いいたします。」

なんと、そこにはあのベルムが立っていた。

「えぇーーーーー!?」

夢の島営業所内に、純の驚きの声が響き渡るのであった。



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