~中国語が1mmも出来ない俺が中国人女社長をもてなすことになった~
国内外のあんまり需要の無い微妙な薬品を製造する『ワ号製薬』の福島営業所は、今日も今日とて暇を持て余し―――
「おい!! チャイナ製薬の社長様がお見えになられたぞ!!!!」
「ふぁ……っ!?」
弁当屋のメニューを壁に貼り、目隠しダーツに興じていた勤続5年目の『尾原正助』は、目隠しを取り慌てて入ってきた営業所長に唯ならぬ事態を感じ、持て余していた暇をそっとデスクの中へと仕舞い込んだ。
「今日の来客は何も聞いてませんが…………」
「俺もだよ! アポ無しの突撃営業のお偉いさんの気まぐれドッキリスタイルだよ!! 確かに明日本社にて打ち合わせがあると聞いてたけど、まさか先にコッチに来るなんて!!」
営業所長の後ろから、ゆっくりとロングコートに毛皮のマフラーを着た如何にも仕事が出来そうな長身の女性が姿を見せた。
「你好。我初福島仕事前観光来……」
「!?」
「……?」
静かに口を開いた女社長。しかし営業所長も正助も女社長が何を言ったのか聞き取れず暫し沈黙が訪れる。
「よ、ようこそおいで下さいました!! お申し付け頂ければ此方から出向きましたのに!!」
──チラッ
営業所長の目配せに、正助はパイプ椅子を女社長の傍へ置いた。そして一番高い缶コーヒーをこっそりとコップに注ぎ如何にもと言った感じで女社長に差し出した。
「 謝謝 」
女社長がパイプ椅子に座ると、営業所長は正助の首根っこを掴み裏へと連れ出した。
「俺が本部に連絡して本部の担当者を迎えに行くから、お前はそれまであの女社長をもてなしておけ……いいな?」
「……俺、中国語出来ませんけど(笑)」
「いーや、お前は出来る。出来たはずだ」
「いやいやいや! 出来ませんって!!」
「(#^ω^)出来たよな?」
「(´・ω・`)……はい」
正助は営業所長の圧に負け、中国語が出来る事になった。
そして営業所長が車で出掛けた(と言うか逃げた)のを確認すると、正助はデスクから暇潰しアイテムをゴッソリと取り出し女社長の前に置いた。
「?」
けん玉、将棋、チェス、オセロ、ゲームボーイ、バーコードバトラー、ゲームギア、知恵の輪、無限プチプチ、等々どう考えても「仕事しろよ」と突っ込まざるを得ない代物が続々とデスクから発掘される。
女社長はその中から小さな樽の形をした所謂『危機一髪』を手に取り、繁々と眺めた。
「あ、えー……っと何処にやったかな……?」
ガサガサと更にデスクを漁り、ようやく見つけたお目当ての品。
それは営業所長の顔写真が貼られた小さな人形だった。
人形を樽にセットし、同じくデスクから発掘した小さな剣を樽に一つ刺した。
「……どうぞ」
樽を机に置き、剣を女社長に手渡す。女社長はそっと剣を樽の穴へと近付けゆっくりと差し込んだ。
──ビヨンッ!
「!!」
女社長は飛び出した営業所長の人形に驚き、思わず胸に手を当てた。
「You Lose」
クスクスと笑いながら再び営業所長人形を樽にセットする正助。女社長はワナワナと剣を持ち、早くも乗り気である。
「呀!」
勢い良く差し込んだ剣は沈黙を保ち、女社長は満足げに樽を正助へと差し出した。
「まだ一つ目ですから……」
正助は余裕綽々の表情で剣を刺し、女社長に差し出す。女社長は剣を一つ握り、正助の顔色を覗うように差し込んだ。
「やりますねぇ……」
剣を刺し無事を確認した女社長はホッと一息つき、コーヒーに手を着けた。
(嗚呼、安珈琲……(笑))
缶コーヒーは女社長の口には合わず、コップを机に置く。その間にも正助は剣を刺し終わっていた。
「どうぞ」
女社長三度目の手番。この危機一髪の穴は全部で十二。残り八つ。しかしココで女社長は不運にも外れを引いてしまった…………
──ビヨンッ!
「何故!? 八分一故未行筈! 我不運過!?」
女社長は声を荒げ自らの不運を嘆いた。そして正助が再び営業所長人形をセットすると、ドドドッ!と剣を三つ一気に差し込んだ!
「ハッハッハ。随分と勢いの良い方だ」
まさか危機一髪の玩具に女社長がココまで食いつくと思ってなかった正助。久々に遊び相手が出来て楽しくなってきたようである。
「ならば……」
──ドッ ドッ ドッ
正助もそれに応じて剣を三つ一気に差し込んだ。しかし沈黙を保つ営業所長を見て女社長は営業所長と正助を交互に見た。
「…………」
そしてスッと一つ剣を刺すと、営業所長は虚しくもビヨンッ!と飛び出しカラカラと机の上を転がった……。
「クックックッ……!」
笑いが止まらない正助。女社長は拳を握り締めワナワナと震えている。大企業の女社長が気まぐれに訪れた場末の平社員にここまでコケにされるとは思っておらず、女社長のプライドは脆くも崩れようとしていた…………が、そこは女社長たる由縁。持ち前の頭脳で目の前の惨事を振り返り始めた。立ち直りの早さが彼女の長所でもある。
(…………此奴、駄目穴……熟知?)
この勝負に公平性が無いと勘ぐるや否や、正助の行動を逐一観察し始めた女社長。眼を細め冷ややかなビジネスアイで正助を視る。
営業所長人形を樽の上部に差し込み
営業所長人形をクルクルと回し―――
「一寸止!」
「……?」
右手で正助を制止し、スッと立ち上がる女社長。事務所から出て行きまたすぐに戻ってきた。その手には金に輝く腕時計と、何故か車の発煙筒が握られていた。
「如何なさいました?」
「遊戯賞品金腕時計、罰遊戯発煙筒」
金の腕時計を正助の方へ差し出す女社長。そしてマフラーとコートを脱ぎビジネススーツ姿からさらにネクタイを外し始めた。
(……なんだ? ストリップかな?)
正助がちよっとスケベ心を出している間、女社長は外したネクタイを手に持ち、正助の後ろへと回り込む。そして正助の顔へネクタイを当て、目隠しをした。
「ははぁん。どうやら私がこれの当たりを知っていると御疑いのようですね。そして今度私が勝てばこの腕時計を頂けると……発煙筒で何をするかは分かりませんが、事務所で使うのだけは勘弁して下さい(笑)」
女社長は剣を六個正助の掌へ乗せ、人形をクルクルと更に回し正助へと手渡した。
確かにこの危機一髪は安物であり、人形の向きからある程度当たり外れが推測できる物であった。
日本を代表したいワ号製薬の小さな営業所の平社員と、中国を代表するチャイナ製薬の女社長との熱い暇潰しバトルが始まったのだった―――!
──ビヨンッ!
「あっ……」
虚しくも一発目から営業所長が飛び出した正助。ハハハ、と笑い目隠しを取ると女社長がそれはそれは嬉しそうににんまりと笑っていた。
「あ、笑顔可愛いッスね……」
遊びに勝って嬉しい女社長は立ち上がりその場でクルクルと回り出し、喜びを全身で表現した。
「我勝!! 最高感激!!」
「ヤベェ、女社長の意外な一面にちょっとドキッと来てますわぁ……」
事務所はほんわかとした空気になり、おもてなしは成功を見せた。
「開始廃滅的尻穴破壊劇!!」
女社長が勢い良く発煙筒をバシッと握り、ウキウキとキャップを外した。
「…………何か嫌な予感がしますねぇ?」
正助の予感通り、女社長は発煙筒を正助に手渡し、尻に挿すようジェスチャーした。
「…………マジで?」
しかし勝負で負けた以上仕方ないと、正助は事務所の扉を大きく開け放ち外へと出た。女社長は嬉しそうに後ろからスキップでついてくる。
「……しかし仕事で発煙筒を尻に入れる事になるとは、入社時には思ってもみなかったな」
入社した時のことが走馬灯のように鮮明に蘇る正助。今はもう居ない、かつての厳しい先輩の言葉が脳裏に過る。
――どんなに酷いクレームのお客様でも、感謝の心で接すればその時は大丈夫だ。その後酒でも飲んで全て忘れろ――
正助は新人時代を思い出し、フフッと笑みを浮かべズボンを下げた。
「……何故笑? 主変態?」
女社長は正助が笑うのを見て、変態なのでは無いかと思った。
「シェイシェイ」
「此奴絶対変態」
変態かと聞かれ『ありがとう』と返した正助。女社長は正助が生粋の変態であると認識した。
発煙筒を受け取り静かに眼を閉じる正助。今まさに正助の尻にアナルハザードが訪れようとしてた。
「お袋。折角五体満足尻満足に産んでもらったのに、親から貰った尻を俺は今日! ―――破壊する!!」
「我切望、尻穴破壊劇」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
勢い良く自らの尻に発煙筒をねじ込んだ正助!! それは武士の切腹の如く自らで始末をつける大和魂の現れ!!
──シュボッ!
「ファッ!?」
「面白煙最高♪」
女社長は尻の発煙筒をキャップで擦り、盛大に火を着けた…………。
「うわああああ!!!! 俺のケツから火が出てる!!!!」
女社長の容赦無い所業に慌てふためく正助。女社長は嬉しそうにニヤニヤと観ている。
「うわわわわ!! しかし感謝の心! 感謝のこころーーーー!!!!」
正助はその場でクルクルと回り出し、忽ち煙に包まれた。
「シェイシェイ!!!! シェイ!!シェーーーーーーイ!!!!!!!!」
営業所長の車が事務所へと戻り、事務所の外で尻を突き出し何やら煙に巻かれている正助と、腕を組み嬉しそうに頷く女社長を見た営業所長は、接待が成功したと確信した。
読んで頂きましてありがとうございました!!
……いやね、中国語ブームが来てるって言うからね…………その………………ゴメンナサイ(笑)
_(´ཀ`」 ∠)_