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はるかな物語  作者: 東久保 亜鈴
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第3話 悪魔の屋敷

丸山は、佳奈を冷たい目で見降ろし、口を開く。


「お坊ちゃまから連絡を頂いて、別荘の手配だとか、医者の手配だとか、まあ、手数がかかりました。

そうそう、お坊ちゃまと相談し、何かに使えるかと我屋敷の嘱託医に診せたら、外傷は奇跡的に、そんなひどくなく、2~3か月すれば、だいぶ良くなるみたいです。

なので、あなた様の使い道については、ゆっくりと考えるということで。

取りあえず目が覚められたということで、医者に診てもらいます。

では、また、後ほど。」


丸山は、恭しく頭を下げると踵替えして、佳奈の方を見ようともぜずに部屋からさっさと出て行った。


佳奈は、痛みを堪えながらも、自分の状況を確認しようとした。


確かに、ベッドの上だが、拘束着を着せられているのか、体を動かすことが出来なかった。

そのうち、痛みからか気が遠くなり、暗闇に落ちていった。


「もしもし、菅井さん?

菅井佳奈さん、聞こえますか?」


佳奈は呼ばれる声で目を覚ます。


「私は、この屋敷に仕えている医者の小菅と言います。

 いやあ、あなた様は運が良い方ですね。

 スピードを出していたお坊ちゃまの車に引っかけられたのですが、外傷があるくらいで、内臓破裂だとか命にかかわる怪我が無いなんて。

何て奇跡的なんでしょう。

ファンタスティックですね。」


佳奈は、少し頭がはっきりしてきて、執事と名乗る男との会話を思い出していた。


(そうだ…、後で医者を呼ぶと言っていたわ。

 この人がそうなのかしら。

でも、さっきの人と同じで、感じが悪い…。)


「じゃあ、小山君、拘束着を緩めて。」


「はい、小菅先生」


医師の問いかけに答えた女性の声がしたほうを、佳奈は見た。


そこには、男が振り向くような均整の取れたプロポーションの持主で、目が細く、真っ赤な口紅を付けた厚化粧のきつい顔をした看護婦がいた。


その看護婦は、小山と呼ばれ、おそらく医者の専属の看護婦だろうと、佳奈はぼんやりした頭で思った。


「さあ、先生の診察ですから、とっとと協力してください。」


小山と呼ばれている看護婦は、素っ気なくいいながら、乱暴に佳奈につけられている拘束着を緩め始めた。


佳奈は、じっとしていても体中が痛いのに、動かされることで全身火が付いたような痛みを覚え、声にならない悲鳴と顔を苦痛でにじませた。


「少しくらい痛いのは我慢しなさい。」


更にきつい口調で小山は言い捨てた。


その後、小菅と呼ばれた医者が佳奈の怪我の確認で、いろいろと問診しながら、頭から順に診ていった。


そして佳奈の脚を診た時、思わず顔を曇らせた。


「足を動かして。」


「足に何か感じるか?」


いろいろと聞かれたり、触られたりされてはいるみたいだったが、佳奈には一切、両脚の感覚がなかった。


小菅は、しばらく考え事をするように目をつぶり、腕を組んで黙っていた。


そして、やおら目を開けてため息をついて小山に向かって命令する。


「ちょっと、席を外すから、その間見張っておきなさい。

 まあ、見張ってと言っても動けないだろうけどな。

 イージィ、イージィ」


「はい、先生。」


「じゃあ、頼んだよ。」


小菅は、そう言い残して部屋から出ていった。


小山は、意地悪そうな笑みを浮かべて佳奈に近付いてきた。


「あなた、3日間も目を開けなかったんだから。

世話が大変だったのよ。」


小山は、残忍そうな言い方をし、佳奈の身体にかかっていたタオルをはぎ取った。


佳奈は、白衣のような服を着せられ、その下は下着も一切付けていなかったが、全身の痛みからか佳奈は気が付いていなかった。


小山は佳奈の身体を舐めまわすように眺めてから、“フン”と鼻を鳴らす。


「若いだけね。

顔もたいしたことないし、体つきもまるで子供じゃない。

これじゃ、お坊ちゃまの慰みにもならないんじゃないかしら。

それに3日間も寝ていたから匂うこと。

用心棒たちの餌になる位かしらね。」


「いや…。

 家に帰して。」


”フン“と小山は鼻を鳴らすと、佳奈の鎖骨と胸骨の間に指を入れ、力を込めて押すと、そこから新たに激痛が走る。


「い、痛い。

 やめて。」


「じゃあ、黙っていなさい。」


小山は冷たい目で佳奈を見下ろしていた。


しばらくして、小菅と丸山が部屋に入ってきて、丸山は、佳奈の傍に立ち、見下ろしながら、苦々しそうに口を開く。


「もう、先生に聞いたら、貴女の両脚、麻痺してるんですって。

 まったく、傷が治ったら、少しは楽しませてもらって、そのあと売り払おうと坊ちゃんと言っていたのに。

 本当に、何から何まで使えないんでしょうか。」


「帰して…。

家に帰してください。」


消え入るような声で佳奈は丸山に嘆願した。


「それはできない相談です。

 そんなことして、事故が明るみに出ると、坊ちゃん、いいえ、この金田家に傷がつきます。」


「どうして…?

何も言わないから…帰してください。」


「頭が悪い子ですね。

 そんなことは、絶対にできません。

 それより、どうやって始末するかですね。」


「…。」


佳奈は、痛みと激しい動揺とで気が遠くなっていった。


その遠くなっていく意識の中で、丸山と小菅が話す声が聞こえた。


「先生、脚は本当に駄目なんですか?」


「おそらく、事故の衝撃でどこかの神経が切れたかで、両脚が麻痺していると思われる。

 リハビリしても動けるようになるかどうかは、わからないな。」

(だが、麻痺は足だけで、腰は大丈夫だから、あとで、こっそり楽しませてもらうかな。

 くくく、リハビリ、リハビリと)


小菅の悪だくみに気が付かず、丸山は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「やれやれ、とんだお荷物を背負い込んでしまったということですね。

 あとで、坊ちゃんと相談しなければ。」


(両脚が麻痺…。

 もう、動かせない…?)


佳奈は絶望的な気分で眠りに落ちていった。


それから数日が過ぎ、佳奈は、治療もろくにされず、たまに小山が、佳奈が騒いだりしないように、拘束着のチェックと強い鎮痛剤を打ちに来ていた。


そのせいか、佳奈は1日中意識がもうろうとしていた。


食事は、点滴が中心で、たまに菓子パンが与えられたが、佳奈には食べる元気も気力もなかった。


そして、両脚は、相変らず自分の足ではないみたいに感覚がなかった。


その日も薬のせいで朦朧としていると、ドアが開き、3人の男が入ってくる。


そのうち二人は、執事の丸山と医師の小菅だということが佳奈には分かったが、もう一人は初めて見る男だった。


男は、小太りで脂ぎった顔のいかにも残忍そうな感じだった。


「うっ!

 何だ、この匂いは。

 臭ぇえなぁ。」


「まあ、坊ちゃん。

 仕方ないですよ。

 運び込んでから今まで、シャワーも浴びさせてないんですから。」


丸山に坊ちゃんと呼ばれた男は、大げさに鼻をつまみ


「こんなの、遊びにも何にも使えないんだろう。

 もういいよ、地下室にでも突っ込んでおきな。

 そのうち、弱って死んじまえば、どっかに捨てればいいから。」


「わかりました、坊ちゃん。」


その男は、佳奈に近付き、佳奈の髪の毛を乱暴につかみ、顔を上げさせ罵倒した。


「お前なんか人間じゃなくて、ただ臭い雌豚だ。

 俺の車にぶつかりやがって、その汚い体にぶつけられて、気に入っていた車を1台、台無しにされたし、売り物にもなんにもなりゃしない。

 本当に、豚以下の女だな。

 ああ、臭ぇえ。」


佳奈は、朦朧とする意識の中で、自分が何を言われているのか、自分をこのような身体にした張本人が目の前にいるのに、何も言えず、何もできずにいる悔しさで涙が出てきていた。


「こいつ、何泣いてんだ。

 ああ、気色悪い。

 丸山、早く地下室に放り込んどけ。」


「わかりました。」


その日のうちに、佳奈は屋敷の地下室に移される。

地下室は、窓も何もなく、ただマットレスが置いてあるだけの殺風景な部屋だった。


佳奈は、そこに拘束着を着せられたまま、転がされるように寝かされた。


「小山君、今日から、こいつには例の薬を打つようにね。」


「え?」


「どうせ、使いものにならんのだから、騒いだりできないようにだよ。」

(それにこの臭い、俺の竿でリハビリをする気にもなれないよ)


小菅は、苦々しい顔をして、小山に命じた。


(あの薬、麻薬じゃないの。

 しかも、強烈な…。

 あんなの打ったら、廃人よ。)


「小山、わかったな。」


躊躇して返事をしない小山に、小菅はどなりつけた。


「はい…、わかりました。」


小山は、言うことを聞くしかないと、観念して返事をした。


それから、1週間、何回か金田は、丸山と一緒に佳奈のところに顔を出し、その都度、ストレスをぶつけるかのように意識のもうろうとしている佳奈に『汚い』『臭い』『雌豚』と罵詈雑言を浴びせていた。


(このサディストどもが…)


佳奈の傍に立っていた小山の瞳に、嫌悪の光が宿っていた。


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