プロローグ
俺は決して優等生と呼ばれるような人間ではなかった。
授業はサボるし酒は飲むしタバコは吸うし喧嘩もした。
悪いことする仲間はいたが、友達と呼べるかって言われると微妙な奴ばかり。
毎日がつまらなかった。
何をしても虚無感に襲われるし、生きることが辛いとまでは行かないが、少なくとも楽しくはなかった。
あれは高二の夏。
俺はあることを思いついた。
金さえもらえりゃだいたい何でもやる、いわば便利屋って奴だ。
俺はそれを高校の教室でやり始めた。
最初のうちは字体を真似して代わりに宿題をやったり、ゴミ捨てを変わったりするような簡単なものだった。金はまぁ1回1000円から3000円の間くらい。内容によって金額はコロコロ変わった。
もちろん金額が高いって文句言う奴もいたけど、それなら自分でやれの一言で一蹴してきた。
だがある日。
クラスでいじめを受けていた男子が10000円を握りしめて俺にこう言った。
「僕をいじめて来る奴にいじめをやめるようにしてほしい」
その男子は普段から殴る蹴るの暴力などを受けていた。
別に暗い性格では無いし、変わったやつでも無い。
ただ何となくいじめの対象になっただけだった。
いじめの加害者は男4人、女1人の計5人。
野球部、ボクシング部などの中途半端に自分の腕っ節に自信があるようなやつらだった。
依頼を受けた俺は1週間後の放課後にその5人を呼び出し、
そして徹底的に痛めつけた。
最低でも1人1本ずつ骨はへし折った。
もちろん教員に呼ばれ、校長室で被害者面した男女5人と共に警察に事情を聞かれた。
5人は自分は何もしてない。あいつが勝手に襲いかかってきたんだの一点張り。
それに対し俺は依頼を受けてから一週間の間に様々な方法で手に入れたいじめの証拠をその場で公開。結局俺は退学、5人は停学の処分を受けた。
処分を食らってから数日後、依頼者から連絡があり、近くの公園で会うことになった。
そして先に公園についてた俺より15分ほど遅れてきた依頼者。
依頼者から金を受け取り、その場を去ろうとした瞬間、腕を掴まれ、
そのまま顔面に拳を叩き込まれた。
きりもみながら吹っ飛ぶ俺。
彼は言った。
「あそこまでやるなんて聞いてなかった。話し合いで解決してくれればそれでよかった」
どうやらあの後加害者達は何かに怯えるように大人しくなり、そのまま学校に来なくなってしまったらしい。
俺には彼が自分をいじめてきた相手をかばう理由がわからなかった。
「お金は返さなくていい。だから二度と僕に関わらないでくれ」
そう言って彼は公園を後にした。
そしてそれが俺、千石 颯馬のこの世界での最後の依頼となった。