来世で会おう、生まれ変わったときには
君を失ったこの世界で何を求めたら良いのですか。
寂れた路地裏の空き地で、冷めた殺意を乗せて睨みつけ女性が、男性に銃口を向けていた。
だが、彼女の瞳は悲しげな迷いを浮かべ、腕は痙攣を起こしたような、震えていた。
まず、この二人は何者か。
最初にサプレッサー付きのオペレーターで銃口を向けている、クリーム色の柔らかさが伝わってくる、長い後ろ髪をゆるく2つに三つ編みして、先を赤い玉のついたゴムで止め。水の中に絵の具を垂らしたみたいに青い三白眼をしている。
服装は、胸元が開いた黒いインナーの上に襟が赤いホルターネックベストと腰に革のベルトに小さなバックパックを装備してある。腕には組織のマークが入った赤いバンドをしており、白の靴下をのぞかせた、銀の金属製のヒールをあしらった、革のロングブーツ。ひざの丈まである、藍色スカートをした。大人びた彼女は、至錠 舞菜しじょう マナ。
ビバコネクトという、対立組織との中間に立ちする緩衝組織として存在している、異端者管理部に所属している監視官の一人である。
組織からは、異端児を育てる風変わりな先生の異名として、ストレンジティーチャー・マナと呼ばれている。
そして、銃口を向けられてる、オレンジの猫目に茶色のくせのあるボーイッシュな浮ついた髪をしており、胴の短い赤暗いパーカに、彼女のバンドと同じマークが付いた、白のVネックを下地に着て、指先のない手袋をはめ、黒に近い緑のガーゴパンツを履いた。野良猫のような男性は、夏目 種太郎なつめ しゅうたろう。
彼女と同じ組織に所属する工作員で、生真平手流いくまひらてりゅうと呼ばれる、手の動きを生物にマネて相手を気絶させたり、表面上の怪我をさせずに体の中を炎症状態にして、動けば痛みで苦しみ降伏させてしまう。
タルカル制圧流派猫宮 夏羽が開発した戦闘術である。
当時、わたしはまだ十代だった。苦楽を共にした仲間が銃を向けてきた、この時にあっても、きっと何かの冗談だろう、と高を括り、彼女の状態を察することをしなかった。
それで、悪ふざけに付き合うようなきもちで、震えた臆病な右手に手刀を入れて、銃口を反らした。
その衝撃で銃を手放すはずであった。しかし彼女は却って、執念深く銃を握り締め、引き金をかけ直して再び銃口を向けてきた。
しかし、それはほんの一瞬で、彼女は肩の力を抜き、銃を構えていた腕をゆっくりと下げた。頬を緩ませて目を閉じた後、銃は指をすり抜けて地に落ちたて、カタッと鈍い音を立てた。徐々に開いていく彼女の青い瞳から、しずくが落ちた。
初めて、彼女の無防備な弱々しい姿を見て、普通ならば動揺の揺らぎか心配する感情が湧いてくるはずなのだが、私には愚かだと感じる程に何も思わなかった。
彼女は左の脇で挟み込むみ。右手を腰に当ててうなだれ、ため息をついた。そして喉の奥が焼けた情けない声で言った。
「やっぱり、あなたを殺すことはできないよ」
その言葉を聞いて誰かが、私を殺すように指示をした存在に気づた。けれども、何も気づいてないフリをして、銃口を向けた理由を問いだした。
「マナ、なんで銃口を向けたんですか。私がなにか悪いことでもしたからですか」
飾り気のない声で語りかけてみるとギックリとさせ、左の腰から常備している、ナイフを取り出そうとしていたのか、やや拳を作り損ねた手付きをしていた。
とっさに身構えたが、彼女戦う意思をなくし腰が砕けたみたいにひざを付くと、顔を覆い、鳴咽にも聞こえるつぶやきを漏らした。
「なんで、背後にあなたを殺せっと言った、人物がいると知ってながら、そんな殺意を歪ませる冗談を言えるんですか。」
覆ってた手をそっとおろし、私を見つめて依頼人と理由が語られた。
「私は黒藻 アルト様への忠誠を誓う証として、いずれ計画の脅威になるあなたを・・・」
彼女の言葉を断つ、金属音混じりの発砲音が、錆びれた建物の壁に吸われたり、空に逃げていったりして、一瞬音源がどこかがわからなかった。
とっさに数箇所ある路地の一つに目線をやると、銃の反動で脱げたフードから、ややあどけないゴールドの瞳にオキサイドシルバーの髪見えた。
男はすぐに身を翻してその場から離れていった。
しかし、私はそれを追わず、仰向けに倒れかかる彼女を抱え、「大丈夫か」と声をかけた。
その行動に対して彼女は、呆れる表情を見せ「馬鹿だねなんで追わないのよ」と空気が抜けた声で言ってきた。
それもそのはずだ。頭こそは外れていたが、左胸部に傷は浅いもののさっき撃たれたのに、すでに血が凝固して弾痕をのぞくと白い固形物が見えた。
それは、重曹と毒物を混ぜてつなぎに、蛇の毒液を使った薬剤弾だった。血液を散らさないようにするだけではなく、毒耐性を持つ人間でも、どれかの毒に当ってしまい。数分もすれば、死に至る代物である。
彼女は、自分の死を悟ってかこんな事を言いだした。
「シュー・・。あなたに殺してほしい・・」
そう言って右手に銃を握ぎり、銃口が再び向けられた。
でも最初とは違って、嬉しい涙をを浮かべて、迷いのなく用心金に指をかけて、「バーン」とろうそくの火が揺らぐような、声を出した。
それは彼女が決めた最後の時の演出として、愛してくれた人に介錯をしてもらうために、一度架空の銃弾を撃ち、殺せない意思を取り払い、冷徹な殺人鬼として、生まれ変わらす一発である。
彼女が私に最期に介錯を願いする姿に笑みがこぼれた。
「わかった。介錯してやる」
銃を命を預かるように奪い、ぬくもりが薄れ始めた、身体を優しく地面に寝かせて立ち上がり、一度弾薬があることを確かめて、狙いを心臓に定め一言添えた。
「なにか最後に残す言葉はないか」
「・・・じゃあ、あなたには、女として殺してほしい・・その後に心臓を・・撃ち抜いて・・君ならできるでしょ・・そして・・みんなに伝えてください・・来世で会おう生まれ変わったときには・・」
「ああ。来世で会おう生まれ変わったときにはな」
簡単に難題をふっかけてきたが、その願いを受けいれ、状況の合わない淡白な声でお別れをし、下腹部に一発。心臓に一発の銃弾を浴びせた。
命が尽き、薬莢が落ちる音と灰と共に、錆びれた響きが充満した。
彼女の死に様は、撃たれた辺り以外ほとんど血痕はなく、誇らしげに微笑みを見せて眠っていた。
裏社会を生き抜いてきた人間の最後として、みんなを愛した彼女の最後の幕引きだったとしても、素晴らしい死だと、私は感じている。
組織に連絡を入れて。彼女の遺体を処理をするように頼み、壁に持たれて腰が抜けた勢いで座り込だ。
ふっと、彼女・・。いや・・ストレンジラブのマナだけが、何故打たれたのかが気になった。
普通に考えて、マナが漏らした『黒藻アルト』が、私を殺れなかった時の保険として、送ったヒットマンなら、私も撃たれるのが筋だと思うのに、犯人は、(そんなのは、どうでもいいと言わんばかり)にマナだけを撃って逃げた。
そこから導き出される答えは、初めからマナが標的だった可能性があるということだ。
「一体、あの男は何者なんだ。」
口から出るほどの疑問感から、マナを撃った奴がいた辺りを調べてみた。
そこには、金属音の正体であろう無数の弾痕が見られるボイラー装置があり、近くには金色に輝く、初めて見る薬莢がたくさん落ちていた。
その2つの情報から、特殊な散弾銃を使って、ボイラーを壁にして無駄な銃弾を遮り、マナだけを撃ったんだと、確信を得ることができた。
このことから、マナに致命傷を与えた犯人を突き止め、黒藻アルトにつながる情報を聞き出そうと考えた。
しかし、該当する銃どころか、初めて使われたオリジナルの銃で、特定はできず手がかりを失い、真実は闇に葬られてしまった。