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第35話

 菫はピアノの演奏を始めた。

 それはショパンの曲だった。曲名は、たぶんノクターンだと思う。とても美しい、でも、すごく悲しいメロディーだった。

 鶴は椅子に座ったまま、菫のピアノの音をじっと、耳をすまして聞いていた。 

 窓の外には青空があり、優しい風が、部屋の中に吹き込んでくる。

 なんだか、いろんなことを思い出してしまう。

 菫との思い出。

 私の、本当に憧れた人。憧れだった人。私の親友。美しい少女、竹内菫。

 もうすぐ、私の前からいなくなってしまう人。

 ……菫。

 菫の指の動きに乱れはない。

 菫は、今、どんな気持ちで、ピアノの鍵盤を弾いているのだろう? それを知りたいと、鶴は思った。


 たった二人だけの小さな演奏会。

 でも、世界で一番素敵な演奏会。

 私と菫。

 二人だけの居場所。

 二人だけの、小さな時間。


 菫のピアノの演奏が終わった。

 鶴はぱちぱちと小さな音を立てて、拍手をした。

 満足そうな顔をして菫が鶴の顔を見た。

 一陣の風が、真っ白な部屋の中に吹き込んだ。白いカーテンが揺れた。

「鶴? あなた、泣いているの?」

 そんなことを菫が言った。

 鶴が確認をして見ると、確かに鶴は泣いていた。

「ごめんなさい」

 鶴は言った。

 それから鶴は両手で顔を覆って、身をかがめるようにして、その場でたくさんの、今までずっと自分の内側に溜め込んでいた悲しみを、涙の形にして、吐き出した。

 鶴は子供のように、泣いた。

 すると菫が無言で鶴のそばにやってきて、まるでお母さんのように、震えている鶴の体を抱きしめてくれた。

「今日は来てくれて、本当にありがとう。鶴」

 菫は言った。

 鶴は、ずっと無言だった。

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