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第34話

 その部屋は食堂と同じで真っ白な部屋だった。

 大きさは小さめな部屋で、その部屋には目立つものが三つあった。

 一つはピアノ。

 黒のグランドピアノだ。

 それから大きな花瓶。

 窓の近くにあるその花瓶には大きな黄色の花が飾られていた。

 そして三つ目が、一つの絵だった。

 その部屋には、小さめの絵が壁に飾ってある。

 ……白い服を着た女の子の絵。

 その絵は自画像のようだけど、なぜかその女の子は絵の中で後ろを向いていて、顔は見えない。でも、その後ろ姿、雰囲気はとても菫に似ていると思った。

 いや、おそらくこの絵の女の子は菫なのだろう、と鶴は思った。

 

「鶴。こっちに来て」

 菫はそう言って鶴をその部屋の中に案内した。

 鶴は部屋の中に入ったが、桃子さんは部屋の中に入ってはこなかった。鶴に小さく頭をさげたあとで、桃子さんは部屋の外側からドアを静かに閉めた。

 そして、その部屋の中には鶴と菫の二人だけになった。

 菫は窓を開けて、部屋の中に風を通した。

 白いカーテンが揺れて、黄色い花が同じように少しだけ左右に揺れた。

 鶴がそんな風景をぼんやりと眺めていると、「鶴。そこに座って」と菫が言った。

 菫が言った、そことは部屋の中にある白い椅子のことだった。

 その椅子に鶴は座った。

 すると菫はグランドピアノの椅子に座った。

「見せたいものって、この絵のこと?」

 にっこりと笑って鶴は言った。

「うん。そうだよ」

 菫は言う。

「この絵の女の子。顔は見えないけど、菫だよね?」鶴は言う。

「うん。私だよ」

 そう言ってから、菫はその壁にかかっている絵に視線を向けた。

「せっかく絵を描いてもらっているのなら、ちゃんと前を向けばいいのに。どうして後ろを向いちゃったの?」

 まあ、そういうの、菫らしいな、と思いながら鶴は言った。

「あんまり絵って好きじゃないの」

 菫は言った。

「……だって、この絵の中に描かれている女の子はもう世界のどこにもいないのだから」

 そんな言葉を付け加えてから、菫はピアノの鍵盤のふたを開けた。

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