第25話
「うん。じゃあ、また」
琥珀はそう言って電話を切った。
それは東京で付き合っている琥珀の彼氏からの電話だった。
彼は琥珀を東京にいるように説得したのだけど、琥珀はどうしても一度、宝石の国に帰りたいと言って、彼を説得した。
その週の週末。
琥珀は新幹線乗り場のホームの上に立っていた。
旅行用の荷物は少なく、そして絵を描くための荷物は結構な量になった。
琥珀は宝石の国で、まずはマリア様の絵を描こうと思った。
その絵がもし描けるようなら、それから自分の肖像画を描こうと思った。
瑠璃や宝石の国で暮らしている孤児の子供たちの絵も描きたちと思った。ついでに、翡翠の絵も描いてあげてもいいかな? とも思った。
琥珀には描きたい絵がたくさんあった。
久しぶりに宝石の国の周囲の風景画も描きたいと思った。子供のころに夢中になって描いた風景画は琥珀の絵の原点だった。
新幹線を待っている間、なんだか琥珀はわくわくする気持ちを抑えることができなくなっていた。
絵が描けなくなって、あんなに苦しかったのに、今は絵が描きたくて、描きたくて仕方がなかった。
実際にキャンパスを目の前にして、本当に絵が描けるのかどうか、まだわからないけれど、きっと描けると琥珀は思った。
琥珀はホームから、空を見上げた。
そこには夏の青空があった。
その空に琥珀は控えめに、手を伸ばしてみた。
その青色の空には、数日前の美しい星の輝く夜に見た、あの懐かしい子供のころの琥珀と、瑠璃と、翡翠と、先生と、そして宝石の国で一緒に暮らした三人の子供たちがいた。
真っ白な新幹線が東京駅のホームの中にやってきた。
琥珀は、空から視線を移動させて、そのやってきた新幹線に乗った。
そして琥珀は新幹線の席に笑顔で座った。
夢は夜に見るものだ。
私は今夜、宝石の国でどんな夢を見るのだろう?
そんなことを琥珀は思った。
宝石の夜 終わり