第24話
「いつごろ、こっちに来るの?」
電話の向こう側で瑠璃が言った。
「週末にはそっちに行こうと思ってるの」琥珀は言う。
「いいよ。わかった。準備をしておくね」
瑠璃の声は明るい。
「うん。じゃあ、また」
「うん。またね、琥珀」
琥珀は電話を切った。
それから琥珀は窓の外にある青色の空をぼんやりと眺める。
瑠璃は、翡翠と結婚をして、先生のあとを継いで二人で宝石の国の経営をして生活していた。
琥珀は画家になって、宝石の国を出たのだけど、大好きな絵が描けなくなって、一度、東京から北の大地にある宝石の国に戻ることにしたのだ。
そこに、なにかもう一度、絵が描けるようになるヒントがあるような気がした。
宝石の国でなら、自分の肖像画が描けるような気がしたのだ。
「よし! やるぞ!」
琥珀はソファーの上で両手を伸ばして気合を入れる。
それから宝石の国に出かけるための準備を始めた。
宝石の国にはステンドグラスで描かれた聖母マリア様の絵があった。黄色をたくさん使ったきらきらと光り輝くマリア様の絵。
そのステンドグラスの絵が琥珀は子供のころから大好きだった。
黄色が琥珀の一番好きな色なのだけど、その色が好きになった理由も、このマリア様の絵の影響だった。
もっと言えば、画家になろうと思ったことも、絵を描くことが好きになったことも、このマリア様の絵がきっかけだった。
でも、そんな大切な思い出も、琥珀は最近まですっかり忘れてしまっていた。
忙しかったこともあるし、自分の絵のタッチを確立し、そしてプロとして絵を描いていくことに夢中になっていたからかもしれない。
そんな自分の原点を思い出して、琥珀は宝石の国に一度帰ろうと思ったのだった。