第23話
琥珀のアトリエには一枚の描きかけの絵画がキャンパスの上に置いてあった。
それは琥珀自身の肖像画だった。
その絵を描くことが、今の琥珀の画家としての人生をかけた、目標だった。
でも、その絵を描くことが琥珀にはどうしてもできなかった。
つまり、琥珀はいわゆるスランプと呼ばれる状態にあった。
あんなに自然に子供のころからずっと描くことができた絵が、ある日突然、描けなくなった。琥珀の大好きな色である黄色をふんだんに使った自分の肖像画を琥珀はどうしても描き上げることができなかった。
それは琥珀にとって、とてもショックな出来事だった。
その出来事をきっかけとして、そのときから琥珀は、ほかのどんな絵も描くことができなくなった。
確かに琥珀は子供のころ、人物画を描くことはできなかった。
でも瑠璃の人物画を描くことができるようになって、その問題は完全に解決していた。琥珀はどんな人の人物画でも自由自在に描くことができた。
だから自分自身も描けると思っていた。
それができなかったのだ。
琥珀は離陸に失敗した飛行機のように、いつまでたっても、大地の上をぐるぐると走り回るだけで、空に飛び立つことができないままだった。
今のスランプを脱出するためには、そのきっかけとなった自分の肖像画を描き上げるしかないと琥珀は考えていた。
でも、その夜も、やっぱり琥珀は自分の肖像画を描けなかった。
琥珀は落ち込んで、一人、真っ暗な部屋の中でもう一度、眠りについた。
今度の眠りの中では、もうあの懐かしい夢は見なかった。