第17話
「……瑠璃ぃ。死んじゃやだよ。お願い。死なないでよ。……瑠璃」
琥珀は言った。
「琥珀。安心して。私は天国にいくの。死んじゃうわけじゃないんだよ」琥珀を安心させるように、にっこりと笑って瑠璃は言った。
「……お同じだよ。それって、私たちの前から、瑠璃がいなくなっちゃうってことじゃん」琥珀は言った。
「……天国に行くって、それって死んじゃうってことじゃん」と琥珀は言った。
琥珀の両目からはぽろぽろと涙が溢れ続けていた。
もう、琥珀の視界は涙でいっぱいで、よく瑠璃の顔も見えなかった。
「瑠璃。琥珀の言う通りだよ。瑠璃はどこにも行くな。ずっとここにいろよ」翡翠が言った。
「……翡翠。ありがとう」と瑠璃は言った。
それから瑠璃はまた一歩だけ後ろに下がった。
「瑠璃」
「瑠璃。待ちなさい」
緊張した表情と声音で、翡翠と先生が言った。
琥珀は地面の上に坐りこみながら、……ああ、瑠璃が消えちゃう。瑠璃がいなくなっちゃう。……瑠璃が、もう直ぐ死んじゃう、と思った。
瑠璃は覚悟を決めていた。
もう誰も、先生も、翡翠も、私も、瑠璃を止められないのだと思った。
琥珀は涙を拭うと、よろよろとその場に立ち上がった。
それから琥珀は自分も瑠璃と同じように覚悟を決めて、瑠璃を見た。
……瑠璃。安心してね。
瑠璃を一人にはさせないよ。
瑠璃がどうしても天国行きの電車に乗るっていうのなら、その電車に私も一緒に乗る。
私も天国まで、瑠璃に一緒についていくよ。
瑠璃がこないでって言っても絶対に行く。
今、そう決めたの。
だから、覚悟してね瑠璃。
瑠璃は絶対に一人になんてなれないんだからね。
琥珀は一歩を踏み出した。それは絶対に踏み越えてはいけない境界線を琥珀が踏み越えた瞬間だった。
「琥珀」
隣にいた翡翠が言う。
でも琥珀は翡翠に返事をしない。琥珀はただ瑠璃だけを見ていた。




