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金貨と皇帝

サカモトに言われて、地下鉄に乗ることとした。


「フンドシイッチョさんは、お金は持ってますよね?」

「ブランクープの金貨なら何枚か」

「…でしたら、それをニホンエンに両替する必要がありそうですね。ちょっくら替えてきますので、お貸しください」

「何枚?」

「…今は一枚あれば大丈夫だと思います。純金製でしたら、ですが」

「了解した。インチキはするなよ?」

「手数料なんか取らずとも、私は十分に生きていけるので、ご心配には及びません。

それでは行ってきます。すぐ戻りますので、少々お待ちくださいな」


待っている間にスマホの「神託」に問うたところ、ニホンエンというのは、ニホンのお金の単位らしい。

漢字では日本円と書くのだとか。


15分ほどして、サカモトは戻ってきた。


「全く驚きましたよ。換金したところ、55,800円にもなったんですから。私の予想以上でした」


と言って渡されたのは、紙切れ6枚と、見慣れないが、重さから考える限り、恐らくは卑金属製のコインを4枚。

私は馬鹿にされたような気分になった。


「紙切れがどうして金と同じ価値があるのかね?しかもこの500と書かれたコインなんか、どう見ても安っぽい金の模造品ではないか」

「それがニホンのお金だと国が決めているからです。昔は金と交換できたのですが、今では国がそれだけの価値を保証すると宣言して、その国の『信用』によって価値を持っております」

「逆に言うと、政府がひっくり返ったりすれば、一発で文字通りの紙切れになってしまうという訳だな。

何とも頼りないものだ。これでは財布も、随分と軽くなってしまって生きた心地がしないのではないか?」

「ニホンの政府はそう簡単にはひっくり返りませんよ。

この60年間、わずかな例外を除いて、ずっとジミントウというグループが権力を握っていますからね」


私は不審に思った。東の国と同じなら、トップは国王のはずだ。

少なくとも、グループが権力を掌握している国などは、商業で成り立っている、金はあるが資源はない都市国家ぐらいのものだった。

ニホンが都市国家ではないことぐらいは、既にスマホの地図を調べて確認済みだ。


「ジミントウ?国王ではないのか?」

「テンノー…皇帝ならいるにはいますが、形ばかりで、実権は国民が選んだ政党と呼ばれるグループが握っているのです」

「それならいっそのこと皇帝など廃止して、共和国になれば良いではないか」

「原理的にはそうかもしれませんが、歴史がそれを許さないのです。

あなたの世界の『東の国』同様、ニホンは伝統を重んじております。

皇帝一族は、確認できるだけでも1500年以上続いている名門ですから、そう簡単には廃止できないのです。

エチオピア革命の後は、世界でも最も長く続いている一族になってしまいましたしね」

「世界一の由緒を誇る一家を、政治的な目的で形ばかりお抱えする国、という訳だな。無礼な。

ブランクープではそんなことは当然許されまいに、皇帝もよくそれを認めたな」

「皮肉なことに、歴史の中では、皇帝は形ばかりの期間の方が長かったんですよ。

今から150年ぐらい前に、ほんの数十年間だけ皇帝が実権を伴うトップに返り咲いた時も、最終的には軍隊に権力を奪われてしまいましたしね」

「そんなひ弱な一族が、よく1500年も続いたものだな」

「ですから伝統なのです」


どうやらこの国では、伝統は科学と並ぶ一大宗教らしい。


しかし、雑談が過ぎて夜が遅くなりすぎてもいけない。

私達は、この辺でいったん話を切り上げてチカテツのトラノモン駅に向かった。


異世界から来た勇者に教えるべきことは多いのです。

なかなか地下鉄にすらたどり着けないなどとおっしゃらず、まあ気長にお待ちいただければと思います。

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