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サカモトさん

釈放と決まるや、まるで犬でも追い出すかのように、ケーサツから急き立てられた。


ただ剣を持っているだけで違法になるとは、ニホンはやはりシノビの国なのに違いない。

シノビの暗器で事足りるから、表立って使われる武器類は使用禁止なのだろう。


かの東の国のシノビですら、そこまでのレベルには到達してはいなかった。

ニホンは、地獄そのものではないにせよ、それに迫らんばかりの恐ろしい国のようだ…。


そんな風に思いめぐらせていると、サカモトが声をかけてきた。


「改めまして、えっと…」

「フンドシイッチョだ」

「フンドシイッチョさん。サカモトと申します。ニホンでの滞在中は、どうぞ私のところをご自由にお使いください」

「うむ。分かった。それにしても、トーキョーは恐ろしいミヤコだな」

「?」

「ブランクープを襲った怪物集団が大量発生して、人を食いまくっているではないか」

「怪物集団?」

「話してなかったな。私は、…(プロローグ参照)…という訳で、鋼鉄の怪物集団のボスによって飛ばされたのだ。

このニホンに。奴は、ニホンのことを地獄と称しておったが、正直そんな気もしてくる。恐ろしいシノビの国のようだ」


サカモトは少し考えてから言う。


「そこまで徹底的に…。時代考証まで完璧とは、プロでも早々いかないはずです。

金貨のみならず、例の剣も、見たところ材質は全て『設定』通りでした。

魔術こそお使いになれないようですが、それ以外の点では、あらゆる特徴が、あなたが本物であることを示唆しております。

…ただ、それはこの世界の科学法則に沿うと、ありえないはずなんです」

「科学?」

「魔術が存在しないこの世界において、魔術のような役割を果たすものです」

「それが鉄の箱を動かし、人々を虐げるのか?」

「鉄の箱…、正確には、自動車や電車ですかね、あれは便利なものですよ。

人々を虐げたりなんか決してしておりません。

ちなみに、正確には素材は必ずしも鉄ではなく、アルミニウムやジュラルミン、カーボンファイバー、ステンレスなどなど、様々な材質が使われているんですよ」

「聞いたことのない材質ばかりだな。ニホンは錬金術においても恐ろしく発達していると見た」

「錬金術も存在しません。…いや、昔はいろいろ試されていたのですが、今では科学、とくに化学にほぼ吸収されてしまっております」

「科学とは、恐ろしいものだな。

…それにしても、あの鉄ミミズは人を虐げているようにしか見えなかった。

あんなに人をたくさん詰め込むことが、地獄以外の何であろうか?」

「満員電車ですね。乗ればいつかは慣れます。そんなものですよ」


科学。魔術以上に強力な何からしい。しかも錬金術にも代われるとは…。

確かに、それならあの怪物集団の強さも説明がつく。


「あ、着きましたよ」


アキハバラから、「中央通り」を南下してニホンバシ、ギンザまで至り、「晴海通り」/「内堀通り」へ右折、そして内堀通りとの交差点を起点とする、「桜田通り」を南下。

そのあとこまごましたルートをたどってたどり着いたのが、このトラノモンにある、サカモトの家だった。


のんびり散歩していたから、二時間ぐらいかかったろうか。

雑談の合間にワコーだのニホンバシだの、ヒビヤコーエンだの、通り沿いに見えるいくつかの名所を紹介してもらったが、

唯一東の国との類似性を感じたのは、皇居…東の国のミヤコ城にそっくりなあの城だけだった。

中にはむしろ、ブランクープを彷彿とさせるレンガの建物すら建っていた。

ブランクープの人間であればそれぐらいの散歩は普通に行うが、ニホン、ことにトーキョーの人間は、

このわずかな距離を、「チカテツ」なる地下を走る鉄ミミズに乗って移動するという。


今回歩いたら、サカモトさんも随分お疲れのようだ。

やれやれ、トーキョーのシノビは、擬態まで一流らしい。全く油断がならない連中である。


少なくとも、あんな空中邸宅に住むシノビ・サカモトのどこに安心感を覚えられよう?

余程の手練れでない限り、こんな高くて恐ろしいところになど住まないはずだ。

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