爪痕、そして世界は丸かった
今回も視点転換が多めです。
十三代目勇者は、東から来る殺気に警戒していた。
それは、道中に倒してきた、「鋼鉄の怪物集団」の無機質な殺気とは違った。
粘っこく、何か大切なものを失ってしまった者の、復讐に燃えた、そして悲哀に満ちた殺気…。
新たな敵だが、王都に戻って知らせる暇はなさそうだ。
十三代目勇者は、そう判断して、一人で迎え撃つこととした。
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西の果ての更に西の、大海原。
二代目勇者は、ひたすら西へと向かっていった。
失うものは何もない。西へ、西へ、…。
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王都には、歴代勇者たちが次々と戻ってきていた。
私は、勇者たちの神々しい姿に圧倒されていた。
まだ人間の私と、神将になった歴代勇者とには、やはり格の差があった。
その勇者たちが一人だけならまだ何とかなっただろうが、こうして20名も集まってきているのだから、圧倒されるなという方が無理な相談だろう。
しかし、全員戻っても、これから何をすればよいのだろう?
この、何もかもなくなってしまったブランクープで…。
そう考えていると、
「…遅いな」
初代勇者が、そうつぶやくのが聞こえた。
何が?
私は、少しだけ、嫌な予感がした。
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十三代目勇者は、激しい勢いで迫ってくる殺気を感じていた。
海原を越える殺気。
この感じは、邪神だろう。厄介だな。
そう考えていると、目の前に、二代目勇者が現れた。
「あなたは…?」
十三代目勇者は身構えた。二代目勇者の様子は、明らかにおかしかった。
目を真っ赤にして、どこか、闇に似た気配をまとった二代目勇者。
十三代目勇者は、理解した。
殺気の正体は、二代目勇者である、と。
「…んでだよ」
二代目勇者が声を漏らした。
「何で、東の国は無傷なんだよ!俺の故郷、ポンゴンは跡形もなく消えちまったというのに!」
二代目勇者は、刃を十三代目勇者に向けてきた。
十三代目勇者は、辛うじてそれを止めた。
二代目勇者は、言った。
「何で邪魔するんだよ!俺の故郷は失われたのに、何でお前だけのうのうと故郷を守ってるんだよ!」
二代目勇者は、泣いていた。
十三代目勇者は、戦うしかないことを悟った。
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初代勇者が再び言った。
「二代目と十三代目、戻ってこないな」
私は、それが嫌な予感の正体であることに気付いた。
歴代勇者が、二人足りなかったのだ。
私は初代勇者に問いかけた。
「まさか、二人は殺されたとでも?」
「いや、多分生きている。だが…」
初代勇者の表情は、曇っていた。
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二代目勇者は、考えることができなかった。
怒り、悲しみ、喪失感。
その渦にのまれ、全てを破壊しつくしたいと思っていた。
眼前には、十三代目勇者と、無傷の東の国。
二代目勇者は、訳もなく、ただ許せないと思い、十三代目勇者と刃を交わす。
キーン。キーン。
視界が涙で曇るが、二代目勇者は、そんなことも構わず、十三代目勇者を攻撃する。
キーン。キーン。
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初代勇者は、何かを思いついたように立ち上がり、私達に向かっていった。
「東の国へ行く」
私は、驚いて尋ねた。
「何故?」
「二代目…あの子は、心の脆い子だ。故郷ポンゴンが消滅したことを知って、我を失って暴走した可能性がある。
考えられるとしたら、西へと進み続けて世界を一周し、東の国に向かった十三代目勇者と戦っているというところだろう。
彼を止められるのは私だけだ。だから、行かねばならぬ」
「それなら、私も、東の国には縁がある。行かせてくれないか?」
「ならぬ。今生きている勇者はお前だけだ。お前がブランクープを守らなければ、誰も守れなくなってしまう。
だから、お前はここに残れ」
初代勇者はそう言って飛び立ち、私達は取り残された。
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十三代目勇者は、自らが二代目勇者には勝てないことを知っていた。
神将としての能力は、神将である期間が長ければ長いほど高まる。
二代目勇者は、勇者の中でも二番目の古参。
倒せる力があるのは、初代勇者、女神ミネルヴァ、軍神マーズ、雷神ジュピター、創造神など、神々の中でも数えるほどしかいない。
今は何とか拮抗していても、間もなくそれは崩れる。
だが、二代目勇者を復讐に走らせてはいけない。
そして、母国である東の国は守らなければならない。
十三代目勇者は、その思いだけで、二代目勇者を押しとどめていた。
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初代勇者が去って後、天からスズキの声が響いてきた。
「ことは終わったみたいですね。ブランクープの復興は、程なくしてできると思います。
データそのものが破壊されたわけではないようなので、過去のデータによって今のデータを上書きすれば、
死者を含め、全ブランクープを元通りにできるはずです。
ただ、意外と復元が難しいので、今しばらくお待ちいただきたいと思います」
歴代勇者たちは戸惑っていた。
「今のは?」
「神か?」
「元通りに?そんなことは、神でもできないぞ?」
私は、彼らに向かっていった。
「あれはハッカー。世界を書き換える強力な力の持ち主。
だから、きっとこの世界を、本当に元に戻せるのだろう。
姫も…。今は、待っていれば良さそうだ」
姫が戻るというのは、願望に過ぎなかった。
だが、もしそうなら、そして、本当に二代目勇者がポンゴンを失った怒りと悲しみで復讐の鬼と化したのだとしたら、二代目は止められるはずであった。
「やはり、私も東の国へ向かう。初代勇者の言っていた通りであれば、全てを復元できることを伝えれば、二代目勇者を止められるはずだ」
居残っていれば、他の歴代勇者が止めに入ることは分かっていたので、私は飛び立った。
背後から三代目勇者のため息が聞こえたが、私は気にせず、東へ向かった。
全く、ニュークなど、使うものじゃないですね。





