止まった時間、そして
私は目を閉じ、覚悟を決め、迫る槍を受けようと思っていた。
槍が私に触れ、私の鎧が破られ、皮膚にチクリと痛みが走ったとき、しかし、ミネルヴァを含むあらゆる気配が消えた。
目を開けると、ミネルヴァは私に槍を向けたまま、停止していた。
空から、スズキの声が響いてきた。
「間一髪で間に合ったようですね。ひとまず、あなたの周辺以外の、世界全体の時間を止めました。今から『鋼鉄の怪物集団』の武装の制限と、勇者様の強化を行いますね。まずは、ハマナカの能力を奪っておいて、と…」
カタカタカタ。
空から音が響く。
私の口が勝手に動き始めた。
「サカモトです。スズキさんには種々の依頼を出しておきました。
スズキさんは、その気になれば、データとなったハマナカを直接消し去ることもできる、と言っていました。
ただ、この世界のことは、この世界の中でケリをつけるべきだと思いますので、私達からとどめを刺すことはしないよう、頼んでおきました。
適度に敵を弱体化して、勇者様が戦える状況を作るだけです。後は、あなたなら何とかできると思います」
「というと?」
「ハマナカを見つけ出せるように、『レーダー』はあなたに付与します。
一方で、ハマナカが持っているすべての能力は奪っておきます。
『鋼鉄の怪物集団』の指揮系統は乱れ、怪物たちは暴走するかもしれません。
が、ことが終わるまで、鉛でできたあらゆるものにかかる重力を100000倍にしておきますので、弾は届かないはずです。
それどころか、怪物たちが自らの身体を維持できるかどうかすら、怪しいかもしれません。
後は、あなたが持っている最後のアイテム、『歴代勇者召喚器』を使って、歴代勇者22人とともに、
世界をクリーンアップすれば、自然と怪物集団は駆逐できることでしょう」
歴代勇者召喚器。初代勇者が、後代の勇者に万一のことがあった時のために、死の間際に作らせたアイテム。
ミネルヴァがああなってしまったので、私は使うのを控えていたが、先代までの勇者は、
神域の楽園エリシオンで過ごしており、神性を持つ神将として、召喚の時を待っているという。
いよいよ、その時が来たのである。
サカモトが私の口を借りて続けた。
「ハマナカには反撃の余地はありません。この世界の中に入ってしまった時点で、彼の負けはほぼ確定していたのです」
「しかし、それまでに私が倒れていたとしたら?」
「仮にそうなっていたとしても、彼に勝ち目はありません。
まあ、詳しいお話は、一通り討伐が終わったらスズキさんがしてくださるはずですよ」
空から、再び声が響く。
「これで良し、と。今から、再び時間を動かしますね」
動きを止めていたミネルヴァから、禍々しい気配が引いていった。
そして、ミネルヴァは言った。
「おお、汝勇者よ。
私は、我が槍を以て、汝を刺そうとしていたのだな。して、汝が私を救ったのか?
だが、誰が私を救ったのかは些事だ。私を操った邪神ハマナカよ、私は汝を断じて許さぬ。
反撃開始である」
ミネルヴァは、私から背を向け、背後に控えていた怪物集団を一気に倒し始めた。
魔術も使えるからか、怪物集団が混乱気味だからか、その勢いは先にも増すほどであった。
そして、何やら違和感を感じたようだった。
「ハマナカの力が失われておる。創造神をも超える所業。
汝勇者よ、勇者ならぬ神の力がこの世界に働いたのだな?
その力が邪神のものならば、私は倒さねばならぬ。教えてもらいたい。これは、汝勇者の仕業か?」
「偉大なる女神ミネルヴァよ、これはこの世界の外からの支援である。彼女は、神でも邪神でもない。ただのハッカーだ」
「…ハッカー。覚えておくとしよう。今後のために、気を付けねば」
だが、ミネルヴァは、微かに笑みを浮かべていた。
警戒はしても、今は倒す必要はないのだ、と理解したようだった。
「さて、と、私も戦わねば…。歴代勇者よ、エリシオンより出でて、偉大なるそのお力を、我に貸してくれたまえ」
私が召喚器を天にかざしてそう言うと。空高くに光の扉が出現し、歴代勇者たちが次々と出てきた。
「何たることだ。王都がかつての栄光の後もなく焼け野原になっている。
ブランクープは、魔王軍にやられたのか?」
初代勇者が重厚な声を響かせ、私に問うてきたので、
「魔王は倒したが、それよりも強力な敵が現れた。だから、今こそ力を貸してほしい。
神将として、この世界に広がっている『鋼鉄の怪物』どもを残らず倒してくれたまえ」
二代目勇者が言った。
「よく分からないけど、とにかく私達が必要だということだけは分かった。敵は残らず倒すぞ!ちらばれ!」
「ハッ!」
「了解!」
他の勇者たちが口々にそう言い、22人の歴代勇者は、四方に飛んで行った。
私は、スズキから与えられた能力『レーダー』を駆使して、ハマナカの居場所を探った。
それにしても、私が死ぬ可能性も織り込み済みの作戦とは、サカモト達もえげつない策を考えたものである。
敢えて死なせて、神将にして私を強化でもするつもりだったのだろうか?
まあ、姫がいない世界なら、それも私は受け入れただろうが、それにしてももう少しマシな策を考えているとは思っていた。
しかし、気にしても仕方あるまい。
反撃の狼煙は、既に上がっていた。
こうして書いてみると、最強に近いチートの一つは、世界の外から世界を書き換えるハッカーなのでは、とつくづく思います。
まあ、ハッカーが出てくることが殆どないのは、強すぎるチートがストーリーの描写を難しくするからなのでしょうが…。





