その力はあまりに強大で
先にダンジョンの扉にたどり着いたミネルヴァが、扉を勢いよく吹き飛ばした。
すると、扉は、最も近くにいた怪物に直撃し、怪物は、ぺしゃんこに潰れた。
流石はミネルヴァ。敵の位置を的確に察知し、奇襲をかけつつ、華々しく洗浄に登場するとは、まさに戦と知の女神にふさわしい勇姿であった。
ハマナカの声が、生き残っていた怪物から発せられた。声色からは、微かな動揺が感じ取れた。
「女神ミネルヴァ…。そうだ、それでこそ私は楽しめる。さあ、来い!」
ダンジョンを出て気づいたが、そこにいた「鋼鉄の怪物」は、先の三体だけではなかった。
鋼鉄の巨人、馬、コウモリ、…空には、小型の鋼鉄のドラゴンまでもが飛んでいた。
巨人は巨大な銃のようなものから、高速でも目視できるほどの巨大な弾丸を放ち、
馬はいななきつつ女神めがけて突進し、群れたコウモリどもは女神の視野を隠さんばかりに飛び回り、
ドラゴンは、その糞によって既に焼け野原となった王都を更なる業火にさらしていた。
熱気に騒音。私は、素早くミネルヴァの縦の陰に隠れていなかったら、ひとたまりもなく死んでいたであろう。
しかし、ミネルヴァは、ドラゴンには空高く槍を投げてこれを貫き、巨大な弾丸を素手でつかみ取って巨人に投げ返し、
突進してきた馬の首を素早く持ち替えた剣を以て斬り落とし、コウモリどもも、盾から放った光線によってすっかり焼き尽くしてしまった。
私は初めて目の当たりにしたが、コウモリどもを焼くことができたということは、あの光線は、恐らく魔術ではない物理的な光線だったのだろう。
ミネルヴァには、こんな武器すらあったのか、と驚嘆し、これなら何とかなりそうだ、と私は思った。
だが、敵はそれでも尽きずに出現し、ハマナカの声が響く。
「いいぞ、ミネルヴァ…。美しい。これほどまでに武装が似合う女神は、そうもいないだろう。惚れ惚れしそうだ。
だが、そこまでだ」
突如、ミネルヴァの動きが止まった。
その顔は苦痛に歪み、まるで勝手に体が動き出すのを押しとどめるかのように、全身が震えだした。
「おお、汝勇者よ、私から離れよ。我が心に、闇が入ってくる。邪神の持つ心の闇が、私を、…浸食……していく。
汝勇者よ、………早く、逃げるのだ」
誇り高きミネルヴァは、何かと戦っているようであった。
苦痛で泣き叫ばんばかりの表情をしながら、叫ぶのをこらえ、私の見えない敵と戦っていた。だが、それが長く続くとは、思えそうになかった。
私は、何か危ないと判断し、ミネルヴァの盾の陰から逃れ、少し離れた。
ハマナカの声が響いた。
「第五の能力。『神騙し』。神やそれに近い能力を持つものが私の能力を調べても、決定的な部分で彼らを欺く能力。
私の能力は、生命を超越した女神ミネルヴァ相手にも通用するのだ。間もなくミネルヴァは、私の駒となり、お前の敵となるだろう。
どうだ、希望を与えてみた直後の絶望の味は?苦しいだろう?ハハハ…」
ミネルヴァが禍々しい気配に覆われ始めた。
私は察した。
ミネルヴァは、間もなく闇落ちして、ダーク・ミネルヴァとして私に襲い掛かると。
私は、駆け出した。
ハマナカの声が響く。
「また逃げるのか?無駄だというのに。ここには隠れることができる酒場も建物ももう残ってはいない。
ダンジョンに逃げようとも、ミネルヴァはダンジョンに入ることもできる。お前の逃げ場は、もうどこにもないのが、分からないのか?
しかし、お前などミネルヴァ一体で十分だから、猶予をやろう。ミネルヴァが完全に私の駒になるまでに、せいぜいできるだけ遠くへと逃げることだ」
私は、ダンジョンで見つけたもう一つのアイテムを使うこととした。
「創造神の護符」。瞬時に物理的な盾を展開し、一定時間、神による攻撃を含むあらゆる攻撃を無効化する盾。
魔術も無効化できるが、盾自体は魔術によるものではないので、これなら「鋼鉄の怪物」の攻撃は無論、ミネルヴァによる攻撃さえも無効化できる。
だが、できるだけ長時間耐えるには…。
背後から、あの誇り高きミネルヴァが発するとは思えぬ、ものすごい咆哮が聞こえた。
いよいよミネルヴァは完全に闇落ちしたのだろう。今しかない。
「創造神の護符、展開!」
ガン!
瞬く間に迫ってきたダーク・ミネルヴァの槍を、展開した盾は、間一髪で弾いた。
ハマナカの声で、ミネルヴァが話し始める。
「ほう…。闇落ちしてより強化された女神の攻撃をはじくとはな。
だが、その手のアイテムが永続していては、ゲームが成り立たないから、やがては切れるはずだ。
いつまで持つかな?」
ダーク・ミネルヴァは瞬時に私に迫り、あらゆる攻撃を仕掛けてきた。
槍、剣、盾からの光線。
しかし、護符から展開された盾は、さすがに強力で、あらゆる攻撃を弾く。
女神はなおも猛攻を仕掛ける。
そして、盾が点滅し始めた。
「ハヒャヒャ…。もう長くはないな。ヒャハヒャ…」
女神に憑依したハマナカの調子が外れた笑い声が響き、ついに、盾が消えた。
「終わりだな。少しは楽しめたよ、勇者様。ヒャヒャヒャ…」
女神の槍が私に迫ってきた。
私は覚悟を決めた。
すまない、姫。あなたのみならず、あなたが愛したこのブランクープも、私には守れなそうだ…。
絶体絶命の勇者。さて、どうなる?





