鋼鉄の怪物たち
新章に突入します。
おおむね計画通り…。
そう私は判断した。
ニホンで黒幕を殺すと罪になるという話を聞いた私が、サカモトにどうすればよいか問うた時、サカモトが提示した方法がこれだった。
心理戦を含むあらゆる手段を駆使して、黒幕その人をブランクープ側に送ってしまう。
そうすれば、ブランクープを破壊した悪役として、国賊なりなんなり、私が望んだ形で、仮に殺したとしても罪に問われる心配はない。
何故なら、現行法ではそれは不正なデータを駆除したということに過ぎないとみなされるはずだから…。
そう、サカモトは私に言ったのだ。
そして、案外簡単に、黒幕のハマナカは誘いに乗ってくれた。ここまではまあ、予定通りというところと言っていい…。
そう考えているうちに、私の口が勝手に話し始めた。
「サカモトです。チャット機能を使って強制的に情報を流しているので、少々違和感を覚えるかもしれませんが、お気になさらずに。
転送装置との接続を断ちました。これで、ハマナカはもう日本に戻る術を失いました。
今、スズキさんに頼んで、このラップトップへのハッキングを試みてもらっています。うまく行けば、大分戦いやすい状況を作れるはずです。
それまでは、『鋼鉄の怪物』が現れても、何とか持ちこたえてください。それでは、ご武運を…」
プレイヤーのフンドシイッチョによってプレイされていたころの私は、こんな風に話したりしていたのだろうか?
記憶がないことなので、違和感は覚えたが、特に害はなさそうなので、慣れれば問題ないと判断した。
辺りを確認すると、私がいるのは、焼け野原となって見る影もない王都のどこかで、ひとまず周囲には敵は特にいなそうだと判断した。
私は、ともかく「鋼鉄の怪物集団」のボスであるあの鋼鉄のドラゴンと、ハマナカの行方を追おうと考えた。
その矢先…。
「見いーつけた。さて、狩りを始めよう。最強の勇者よ、君は私をどこまで楽しませてくれるかな?」
背後から、ハマナカの声がした。私が振り向くと、そこには、犬の形をした「鋼鉄の怪物」が、三体いた。
「まずは手始めだ。最初から強いのを出して潰しても面白くないから、雑魚で試すとしよう。倒せるかな?」
幸いにも、私はこの世界に飛ばされる前の状態を何らかの理由で引き継ぐことができたらしく、私は自らの脇に聖剣シュヴァルツフントが収まっていることに気付いた。
見たところでは、敵の戦力は、三体合わせても魔王の五分の一程度。シュヴァルツフントを用いれば、倒せなくはなさそうだった。
私は、覚悟を決め、怪物のうちの一体へと向かった。
怪物は不気味に動かない。
が、見たところ、隙はなかった。
私は身構えた。脇の二体は、私と、その一体が戦い始めるのを、ただ待っているようであった。
…。
……。
………。
永遠のような一瞬の睨み合い。
私の額から汗が垂れた。私は、覚悟を決めて突撃した。
「これでも食らえ!」
私は、政権を怪物の脳天めがけて真っ直ぐに振りかぶった。
カン。
聖剣は、確かに当たった。が、異常なほど刃こぼれして、弾き返された。
怪物の方は、殆ど何でもないようだった。
ウィーン。
怪物の口が、ゆっくり開いた。
何かが吐き出されると直感したので、私は急いで飛びのいた。
タタタ、タタタ、タタタ。
リズミカルな音が鳴り、怪物の口が点滅したように見えた。
そして、飛びのく前に私がいたところには、音の数だけ穴が開いていた。
怪物は、口を開けたまま、私の方向へとゆっくり首を動かし始めた。
また来ると判断した私は、一気に間合いを詰め、怪物の背後に回り、怪物の喉元を狙って剣を振るった。
カン。
しかし、聖剣は、またもや弾き返された。無理にもう一撃入れたら、たとえ脆そうな関節部を狙っても、聖剣は砕けてしまいそうだった。
聖剣をも弾き返す鋼鉄の皮膚。目に見えぬほどの速さで地面に穴を開ける弾。前に国王から聞いた通りであった。
私は、最初の予期に反し、勝ち目がないことを悟った。
そして、つくづく、魔術の効果の偉大さを実感した。
魔術なしでの私の戦力は、この程度だったのか。
ハマナカの嘲笑う声が、私に追い打ちをかけるように響く。
「どうやら、雑魚をも倒せぬと悟ったようだな?どうするか?逃げるか?」
「逃げはしないさ。姫が身を張ったのに勇者が逃げているのでは、サマにもならぬし、騎士道精神に反するからな」
「いい心構えだ。それに免じて、ここから5分間は銃を使わないことを約束しよう。怪物たちは、その身体能力だけでも、きっと君を倒せるからね」
私も落ちぶれたものだ。敵にこうまでハンデを負わせてしまうとは。
しかし、仮にあの豆玉を使わないと宣言された状況であっても、聖剣を通さないのでは、戦いはやはり私に一方的に不利な状況のままだ。
思えばサカモトは、「持ちこたえろ」と言ってはいたが、「戦え」とは言わなかった。
私は、ハッキングを行っているスズキが何か策を持っていることを信じて、怪物から背を向け、走り出した。





