タイホ
掲げられた剣を見て、男性が、悲鳴を上げたのだ。
「だ、誰か、助けてくれ!本物の剣を持った自称勇者に殺されるぅ~!
マジキチだから勇者と称してやまへんのや!」
何者かが私に背後から組み付いた。
しまった。気配が多すぎて、まさか私に組み付く奴がいるとは想像できなかった。
これが、東の国ですら殆ど拾得者がいないという、シノビの秘技・影分身か。気配が増えるから、
一つ一つの気配への注意が散漫になり、いつしかこうやって動きをとれなくされる。
魔力が使えないにせよ、体力は人並み以上のつもりだった。だから、振り払おうとした。
が、次の瞬間、私は何故か地面に横たえられていた。
東の国のシノビにもこんな奇術は存在しない。
私を横たえたのは、いかにも貧弱そうな、痩せた青年だった。
「大丈夫か、サカモト?」
「ああ、ハマナカのジュージュツのお陰で助かったぜ」
この頃には、人込みをかき分けて、青い制服らしきものを着た男二人に私は取り押さえられてしまった。
「銃刀法違反の現行犯で、逮捕する」
ジュートーホー?
だが、それよりも驚いたのは、握力も人並み外れているはずの私が、まだ何とか握っていた剣を、怪しげな動きで脱力させられて手放してしまったことだった。
「無礼者!汝ら、ブランクープに戦を仕掛ける気か?」
我が母語でこう叫んだが、制服組は私を無視して連行した。
あろうことか、私は、ニホンで捕虜になってしまったのだ。